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工房主の実験録  作者: さくま
15/26

授業が終わって

「これからどうするんだ?」

「これから、ですか?」


アルメルトは俺に助けられたお礼に色々な事を教えてくれた訳だが、ここに滞在するきっかけとなった傷はほとんど治っている

体力も休息を取ったことで回復したはずだ


助けた分の礼は様々な情報で支払われた

まして、彼女は自分の事を冒険者だと名乗った

冒険、様々な場所に行き、様々な生き物、人に触れあう職業なのだろう

少なくとも辺鄙な森に理由もなく滞在することはないだろう


森を立ち去り、故郷の街に戻る

それが当然なのだろう

だからそんな返答を予想していた


「非常に申し訳なくかつ自分勝手なのですが、もうしばらくここに滞在させて頂くことは可能でしょうか?」


「えっ、あっ、おおおぅ」

ので、予想外の返答に間抜けな声が出たのは仕方がなかったと思う


「街に、エルトに帰りたい気持ちはありますが、仲間の安否を確認するまでは帰れません。なのでそれまで...」

「仲間...でも、アルメルトは冒険者なんだろ?依頼ってのはいいのか?」

「本来の依頼であれば、成功、失敗に関わらずギルドに報告する必要があります。まぁ、失敗の場合は報告できない場合もありますが...ただ今回の盗人の捜索については報告の必要はないんです。どこにいるか分からないので、見つけたら報告する、と言う形で全冒険者を対象に出された依頼なので、失敗がそもそもありません」

「なるほどな...」


アルメルトの滞在か...

彼女との時間は短いが誠実そうで信用の置ける人物だと思う

強いて言うなら、女性である相手に俺自身が誠実を貫けるかどうか...

まぁ、それは置いといて彼女の滞在には大きな利点がある


「ダメ、でしょうか?」

「...条件がある。それなら、対価を要求する」

「対価...当然ですね...でも、あまり持ち合わせがないので...」

「金じゃない、いや金も欲しいっちゃ欲しいんだが...身体で払ってもらう」

「か、身体ですか!?」


アルメルトは頬を赤く染め、両腕で身体を抱くようにして小さくなる

そしてアワアワと視線をさ迷わせている


うん、いい反応だ

期待していた反応が見れて満足だ

でも、残念ながら彼女の期待(?)とは別

俺が欲しいのは


「労働してもらうぞ?」

「あ、え?え?労働...で、すかっ?」

「そう、労働。労働力だ。それからちょっとした魔力的な協力だ」

「協力...?」

「そう、俺の実験に付き合ってくれ!」

「はぁ...よく分かりませんがそんな事でいいなら」

「大丈夫、卑猥な内容じゃないさ」

「っ!?だ、誰もそんなこと!思ってませんよ!」

「なら、交渉成立、だな」


むぅ、と頬を膨らませつつアルメルトは睨んでくる

しまった、からかい過ぎたか

謝るか?


謝ろう

なんなら仲間探しも手伝おう


「すま..」

「こちらこそよろしくお願いします」



ずるずるじゃりじゃりずるずる


「はぁ、はぁ、はぁ」

完全にしくじった

欲張ったせいだ


どうしてこうなった

何が悪かったのか...


そんなの決まってる

俺がバカだったんだ








ゴブリン3匹なんて他愛もない

そう調子に乗ったせいだ

1匹くらい逃げても、怯えたからだろうって

逃がすものか

お前、1匹で晩飯が豪華にできるんだ

そんなどうでもいい理由


疑う事もしなかった

追ってしまった


ディーンもアルメルトも置いて


待ち伏せされていた

いや、たまたま他のゴブリンの集団に遭遇したのかもしれない


そんなことはどうでもいい

どっちにしろどうしようもない状況に変わらない


必死で剣を振るった

1匹、2匹仕留めた

あと...5匹くらいか


ぴゅっ


風切り音が聞こえた瞬間

近くのゴブリンの頭に矢が刺さり倒れる


ディーンだ

ディーンが放った矢だ


さすがの腕だ

矢の届く距離まで来てくれてる

ならばもうすぐアルメルトも来てくれるはずだ


「がっ!?」

衝撃が背中を襲う

咄嗟に剣を横凪ぎに振るう


『ガギィ!?』

「はぁはぁ、あと3、匹...くそ」

援軍の到着にほっとして1発食らってたら意味ないじゃないか


集中しろ


前の、残り3匹に


がさがさっ


草の擦れる音が遠くから聞こえる

もうすぐアルメルトが来る

それまで、堪えるんだ




そして


ゴブリン達の後ろの茂みが割れる


「は?何でそっちから...」

彼女達は俺の後ろから


「っ!?豚人(オーク)!?なんで!?ぶっ」

突進してきたオークに吹き飛ばされる


地面を転がる

転がる


「ぐふっ」

「ロン!?大丈夫!?」

アルメルトの声が聞こえる

運よく援軍の所まで吹き飛ばされたのか

運よく...


「に、逃げろ...オークだ!」

「オーク!?」

アルメルトは俺が吹き飛ばされて来た方向を睨む

そして剣を抜く


「だ、ダメだ、逃げるぞ...」

痛む身体を震い立たせる

「早く、ディーンを連れて...逃げるんだ」

「わ、分かりました。行きましょう」


「行け。俺はもう早くは...走れない。先に行け」

「っ!?ダメです!なら私が食い止めます!」

「そうしても、いずれ俺は追い付かれる。だから、行け」


「だ、ダメです!そんな...」

アルメルトは逡巡している

優しいやつだ

しかしそうこうしている間に奴らは追い付いてくる


ならば


「じゃあ、せめて奴らの一部を引き付けてくれ。残りは...ディーンと協力しながら何とか逃げ切る。」

「そうです!はい、分かりました!」

「無理はするなよ。危なくなる前に待避する、んだぞ」


コクりと頷いたアルメルトはオーク達がいる方向に駆け出した


「はぁ、はぁ...くそ」

結局仲間を囮にするような形になってしまった

だが、あのままでは負傷した俺を庇いながら奴等に囲まれる可能性が高い

そうなったら助からないだろう


アルメルトが気を引いてくれてる間にディーンと合流

矢で牽制しつつ、アルメルトを回収して3人で逃げよう

急がないと


くそ、突進された時に骨が折れたか?

身体中が痛い


「ディーン!アルメルトが敵を引き付けてる!矢で援護を!」





返事がない


なぜだ

ぶわっと冷や汗が出る


ディーン

どうした

なぜ返事が


「がっ!?」

何かが頭を撃ち鳴らす

思わずその場に倒れてしまう


『ギギギッ!』

どこからか不気味な笑い声


「アルメルト、ディーン...」


ずるずるじゃりじゃり


もう這いつくばって逃げるしかない


「痛...」


何かが足にまとわりつく

そして


あぁ、これは噛まれているのか


痛い


「くそっ...くそがっ!」

剣を乱暴に震う


ブシュッという音

『ギィ..』

事切れる魔物の声


逃げないと


逃げないと


逃げて生き延びないと


生きて


生きる


生きるんだ


逃げて生きて街まで



ずるずる




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