教えてアルメルト先生 ~流色編~
「先程も言ったように流色を身体に巡らせて筋力を強化できます」
「それが武人の戦い方か?」
「そうなりますね。では、最後も実演を...んっ!」
身体の正面で両腕の拳を握り気合いを入れた
可愛い仕草だ
「さっ、腕を出してください!」
「あっ、はい!え?腕?」
アルメルトを見ると机に肘を付き、拳をにぎにぎしている
いわゆる腕相撲のポーズだ
「これが分かりやすいでしょう?」
「...お手柔らかに」
さっき、筋力が3倍くらいになるって言ってたよな...
勝てる気はしないが、まぁ、アルメルト先生がやる気になっているのだ
女性の誘いを無下にしたら男じゃないさぁ
机に付き、腕を差し出す
そして互いに拳を握り合う
「では...3、2、1、どんっ!」
おっらっ!
「むぅ...なかなか強い..ですね」
「え?はい?お、おう」
拮抗している
アルメルトと俺の拳は机に垂直に立ったままぐぐぐっと音が聞こえてきそうだ
男である俺とほぼ互角というだけで、なるほど女性とはいえ冒険者...体力、筋力仕事なのだろう
なかなかの力だ
しかしだ
これは予想とは違う
流色を使った筋力強化...てっきりすぐに負けるかと
それとも使ってこの程度なのか?
ともあれ手を抜くのは男のプライドに反する
「ふんっ!」
思いっきり力を入れたことで徐々に二人の拳はアルメルト側に傾き出す
「これが...全身に...魔力を、巡らしてる...状態、です」
「あん?」
「そして...ん!」
ごんっ!
腕に違和感
そして脳に情報が伝わる
「痛ったーーー!」
咄嗟に手を引く
手の甲を見れば真っ赤になっている
「これが腕だけに魔力を通わした状態...魔力を流色で瞬間的に集めました」
「さ、最初に言ってくれ...」
一度、気を緩めさせてからトドメを刺すとは
「ふふ、びっくりしました?」
天使のような笑顔で無邪気に暴力を振るうとは、アルメルト、恐ろしい娘
◇
「流色による身体操作は実感できましたか」
「あぁ、骨身に染みたよ」
「あはは..体験して頂いたので理解して頂けたと思いますが、基本は魔力を身体に巡らせて使います。ですが必要に応じて必要な箇所に瞬間的に流すことも可能です。全身に巡らせる場合よりも瞬間的な出力の方が消費は激しいですね。さっきの勝負で魔力はすっからかんです。でも、達人にもなれば、私の瞬間的な力に匹敵する力を継続的に使うことも可能です。」
「そんなことができる武人は魔術師にも劣らないって訳か...でも魔術師なら魔力操作たる流色にも精通してるはずだろ?同じことができるんじゃないか?」
「理論上は可能ですね。でも、あまりそういった話は聞きませんね。仮に同じだけの魔力がある場合、武力に100%費やすか、魔術50%+武力50%ですと、どうしても中途半端になります。中途半端な術ではかわされたりするのが落ちでしょう。戦いになるとしたら武力100%対魔術100%でどちらが優位な立場を奪えるかって事になるかと思います。」
「なるほど...魔術についてはなんとなく分かったよ。これで俺も使えるようになれば完璧なんだけど」
チラッとアルメルトを見る
「魔力が感じ取れないとそれは絶望的かと思います。」
あぁ、確かにこれはじいちゃんがグレるのも分かる
最初から才能ないから諦めろってことだもんな
なのに誰もその気持ちを分かってくれない
こりゃ、俺でもグレる
でも何とかこの世界でやっていくと決めた
魔力が使えない俺でも、誰をも見返せる物を作って...
「あぁ、そういえば、傷水薬の効き目が違ったのは、もしかしたら魔力のせいか?」
「傷水薬ですか?」
「そう。アルメルトの傷も綺麗に治っただろ?」
アルメルトの腕を見れば昨日まで残っていた傷跡は綺麗に消えている
「あれ?そういえば...どうして治っているんでしょう?」
「なんだ、気がついてなかったのか?傷薬を勝手に使わせてもらったよ」
「傷薬で、ですか?」
と、納得いかない様子のアルメルトを見て不思議に思う
ので、聞いてみる
「そんなに不思議か?」
「えぇ、傷を治すと聞いて最初に考えるのは白魔術、つまり聖癒術です。バーディウスさんはもちろん使えません...よね?でも、そこで、「薬だよ」と言われてもそんなすごい効き目の薬は聞いたことがありません。せいぜい痛みを和らげたり、消毒をしたりってところです」
「そうなのか?結構、簡単に作れるらしいぞ?」
「簡単に...ですか。だとしたらすごい発見です...でももし、そるが本島なら決して口外しない方がいいかと思います」
「ん?なんでだ?やっぱり必要ない物なのか?」
「いえいえ、決してそんなことはないです!私たち冒険者からしたら大金払ってでも買いたい、という人は少なくないと思います。でも、傷を癒す、それは聖癒教国の専売特許です。それを奪いかねない物...大国を敵に回すことになるかもしれません。」
「そう、なのか」
「はい」
まぁ、売って大金を稼ぎたい訳じゃないからそんな大した問題じゃないが、忠告を聞いてなかったら知らずに売りさばいてたかもしれない
「忠告ありがと」
「いえ、あなたも私の恩人ですので」
ふむ、色々なことが聞けた
まだ不明な事も多いが、あんまり詰めすぎても覚えられない
まだこれから分からない事があれば聞けばいいのだ
これから...
そうだ
最後に聞くことがあったな
「アルメルト...これからどうするんだ?」