教えてアルメルト先生 ~魔術編~
「では、見ていてください」
そう言うとアルメルトはコップを手に取る
俺は言われた通り、コップを凝視する
アルメルトはすぅーっと息を吸い...
『前方移動』
と、呟いた
こぽっ
小さな音が聞こえたと思った瞬間、コップから水が溢れだしてきた
うお、溢れる!
と思ったが、水は思わぬ挙動を見せた
ぴゅんっ
「は?」
水はコップから溢れずに、盛り上がった勢いのまま上方に飛び出し天井まで跳ね上がった
そして天井にぶつかって、染みを作った
そこからポタッと一滴、水滴が垂れコップに入った
「これが魔術の基本、『流色』です」
アルメルトはニコリとこちらを向いて微笑んだ
「お、おぅ」
◇
新しい水を汲み直し、再度席に着く
どや顔の直後に飛び散った水で部屋が汚れたと、アルメルトが慌てる微笑ましいシーンもあったが詳細は割愛しよう
「こほんっ、魔術には5種類あると言われています」
場を改めようとするアルメルトを意地悪げに見つめる
「魔術には5種類ありますっ!」
「はいはい、そんなにムキにならなくても...えと、さっきのは流色って言ったか。じゃああと4種類は?」
「いえ、流色は基本の5魔術には含まれません」
「え?」
「基本5魔術は火·水·地·聖·虚で、それぞれ赤·青·黄·白·黒の色で表される事も多くて、5色術なんて呼ばれます。そして、流色はそれら魔術に動作、方向性を与える魔術です。ちなみに前方移動は対象をある方向に進める術です。」
「えーと、つまり?」
「つまり、魔術師とは己の魔力を5色のいずれかに変換できる人達のことを差します。一方で流色は錬度の違いはありますが魔力があれば誰でも扱えます。私は魔術師ではないので自分の魔力を使って5色術を出現させることはできません。でも、さっきお見せした様に元から水が用意してあれば、流色を使って操作して疑似魔術は使える、ということです。」
「ほぅ...誰でもってことは俺でも?」
「可能なはずですよ?」
「どうやってやればいいんだ?」
「え?」
「え?」
質問に対して「何言ってるのこいつ?」みたいな返事をされたので俺も思わず、「なにか不味い?」の意を込めて返事を返す
「あ!そうか、バーディウスさん記憶喪失ですもんね!じゃあ、どうしましょうか...魔力、魔力...ごめんなさい。分からないです。」
「諦めないで!君ならできる!俺もできる!」
「そう言われましても...バーディウスさん、言葉ってどうやって覚えました?」
「何、唐突に?言葉?周りが会話するのを聞いて自然に...だろ?」
「流色、要は魔力操作もだいたい同じです。小さい時から周りが使ってるのを見て、自然とできるようになるものなんです。なので、おそらく記憶喪失と一緒に使い方も忘れてしまったんじゃないかと...私も、水動けーくらいの気分でやってるので、改めて方法を聞かれると口で説明できないです。」
「試しにやってみてもいいか?」
「はい、そうですね。試しにやってみましょう!説明頑張ります!」
そういうと、アルメルトは水の入ったコップを差し出す
「流色を使うには、間接的にでも構わないので対象に触れます。今回はコップを介して、間接的に水に触れている形になります。そのまま魔力を通じて行きます。」
「魔力を通じる?」
「まずは魔力を手に集めてください」
「どうやって?」
「...」
「...」
「諦めましょう」
「くそがっ!」
思わずコップを地面に叩きつけてしまった
◇
『回転』
アルメルトは地面に触れながらそう唱える
すると、地面が円形に抉れていく
そうしてできた穴に割れたコップの破片を入れる
『逆回転(リ·ロール)』
再度、呪文を唱えると今度はさっきと逆回転に地面が修復され破片が地に埋る
「便利なもんだな」
「そうでもないですよ。今回は地面に触れつつ流色で、疑似黄魔術を使って地面を掘りましたが、普段は道具で掘ります。」
「なんで?」
「魔力を消費するからです。ちなみに私の場合、今日はこれで疑似魔術を3回使いましたから、せいぜい後1回使えるかどうかってところです。」
「使用回数があるのか」
「自分の身体や自分の魔力から発生した魔術を操作する分にはある程度の回数、時間で使えるのですが、今回みたいに既にある物を動かすとだいぶ消費してしまいます。」
「ちなみに魔力が切れるとどうなるんだ?」
「どうってことはないんですが...戦えなくなりますね。魔術師の方々みたいに湯水のように魔力が使えない私みたいな人達は流色を応用した身体操作を主に使っています。それが使えないのはだいぶ辛いです。」
「なるほど...ちなみにどれくらい強化できるだ?」
「時間で言うなら、疑似魔術1回分で5分くらいですね。腕力なら、だいたい3倍くらいでしょうか?バーディウスさんなら軽く持ち上げられますよ?」
女子に抱えられる姿を想像してしまった
ないな、うん、ないない
そんな趣味はない
「つまり流色、とやらは魔術操作と身体強化をする魔術ってことだな。」
「そうなります。身体強化、というよりは身体操作の方が近いですが。筋肉+魔力で身体を動かす感じです。」
「その"感じ"が俺にはまったく分からないんだけどな」
「あはは」
「乾いた笑いが寂しいな...そういえば分からないといえば、黒と白の魔術、虚と聖ってのはなんだ?他の火とか水、地は実演も踏まえてなんとなく分かるんだが、その2つは具体的に何ができるのかさっぱりだ」
「聖は文字通り聖なる力と言われています。具体的には回復や徐霊などですね。虚は...そうですね。形ない魔術といえばいいのでしょうか。極端な例だと呪い、祟り...そんな感じでしょうか...」
「なんだ、歯切れが悪いな」
「仕方ないんです。聖術は聖癒教国がその術色の真髄については秘匿していますし、虚術は使い手があまりいないせいで詳しいことは私みたいなのには分からないんです。一部では邪悪な魔術として忌避されていますしどうしても情報不足な分野になります」
「となるとアルメルトは聖も虚も使えないわけだな。」
「はい。火、水、地はそれ自体があれば流色で操ることができます。ですが聖、虚に関してはそもそも何なのか、何をイメージして操作すればいいのかが分からないので扱うこと事ができません。」
「なるほど...そうなると魔術師ってのは凄いな。」
「確かに魔術師はすごいですね。ただ、最強かというとそうとは限りません。武人の方々も負けていませんよ。」
「ほう、具体的には?」
「やはりそこは流色ですね。錬度の話になります。」