看病
「おい、大丈夫か!?」
机に突っ伏すアルメルトの元に慌てて駆け寄り肩に手をかける
「どうした!?」
「うぅ...すいま...せん、ちょっと気が、遠く...」
「無理して話すな...どこか痛むのか?」
「...ん」
「ちっ...運ぶぞ」
反応が薄いな
とりあえず休める場所に移動させないと
アルメルトを担いで工房へ移動する
そして工房に置かれているベットに座らせる
「水、飲めるか?」
「う...はぃ」
こくり、こくりとゆっくり水を飲む
「...すいません」
「いいから。調子はどうだ?」
「少し...休めば...」
「そうか、っうぉと」
短く返事をしたと思った瞬間、力なく倒れてくるのを慌てて受け止める
そのまま、ベッドに横に寝かせる
「あー、こんな時はどうすればいいんだ?」
アルメルトを見れば短い息を小さく繰り返している
「呼吸...苦しいのか?」
見れば革でできた防具が身体を締め付けている
「鎧...キツそうだから取るぞ?」
返事はない
革の鎧を見ると、正面を紐で括っているようだ
結んである紐に手をかける
ごくっ
ダメだ、変な気持ちになる
相手はまともに身体も動かせないというのに
ふーっ
紐をほどき、鎧から抜いていく
鎧の締め付けが緩み、鎧が動かせるようになる
鎧の下には薄手の服を着ているようだ
さすがに裸に鎧はないか
残念だ
って何を考えているのか
早く鎧を脱がせないと
腕から抜けるか?
腕に目を向ければ、そこには白い肌が見える
ほどよく鍛えられているであろう腕だ
そこにはいくつもの傷があり、より白さを際立たせている
ふむ..
「いや、納得しとる場合か!?」
反対の腕を見れば同じような傷がいくつかある
足も同様だ
「何で言わないんだ...そして俺も何で気づかねぇんだよ」
ここまで帰ることに必死でそこまで気が回らなかった
「ちっ...ちょっと待ってろ、動くなよ!」
まぁ、動けないだろうが
隣の部屋に置いてあったポーチの中から小瓶を取り出す
傷水薬だ
「痛みが引く程度だけど、無いよりはマシだろ」
工房に戻り、横になっているアルメルトの元に急ぐ
そして、傷水薬を傷口に垂らす
垂らした水薬は傷口に乗ると、プルんっとその箇所に留まる
「これで痛みは多少マシになるだろう」
しかし、傷水薬は今でこそ不思議と傷口に留まっているが、しばらくすると水のように流れ落ちることは自分の身体で実証済みだ
所詮、痛み止めに過ぎない
これだけでは傷の治療にはならない
実際、そうこうしているうちに傷水薬は傷口から流れ落ち
「てない?」
傷水薬はアルメルトの傷口に留まったままだ
どうした?
俺が使った時はすぐに水みたく変わったというのに
よく見る
傷口が心なしか小さくなっている気がする
徐々にではあるものの塞がっているようだ
なぜ、俺の時と効き目が違うのか?
自分の傷口に目をやる
痛みはだいぶ引いたが、未だに痛々しい傷痕が残っている
俺とのこの違いはなんだ?
性別?年齢?
傷の具合って可能性もあるか
あとは...
「ん...ま、りょ」
「りょ?おい、どうしたんだ?」
「...」
「はぁ...とりあえず休ませるのが先だな。意識なくても栄養取れる方法を考えるか」
◇
「ふぁ...こ、こは」
「よぉ、目が覚めたか?」
声を聞いたアルメルトが首をひねる
そして目があった瞬間にがばっとベッドから起き上がる
「あ、はいっ!わ、私どうしてっ!?」
「あんまり覚えてないか?目を離した隙に倒れるから驚いたよ。もう平気?」
「ごめんなさい、私...そうだったんですね。気が抜けたらそのまま...助けて頂いた上に介抱まで...ごめんなさい」
「何回も謝らなくていいよ。ちょっと驚いたけどな」
「すいません...あ、また。えと、何かお礼を...」
その言葉につい、にやぁっと口許が緩んでしまった
そんな表情を見たせいだろうか、アルメルトがビクッと肩を震わせた気がした
「その言葉を待ってた!」
「止めてください!」
「えぇっ!?」
「すいません。でも私まだ恋人もいませんし、そういったことは...」
頬を赤らめつつも、後ずさるようにベッドの上をすすーっと移動していく
「ま、待て!たぶん勘違いをしている!そんなことじゃない!」
「そうなん、ですか?」
「あぁ...話を聞かせてくれ」
「話、ですか?」
「あぁ、実はちょっと訳ありで俺は記憶をなくしてるんだ。この森がウルドーの森って呼ばれてるのも君から聞いて知ったくらいだ。だから何でいい、この周辺の地域のこと、この世界の常識、それからアルメルト自身のこと、何でも構わない」
「記憶が...それは大変ですね。分かりました。その程度のことでお礼になるのであればいくらでもお話させて頂きます」
「あぁ、助かる。まぁ、でもまずは水浴びと朝飯にしようか?」