帰路
「あ、でも来た方向なら...」
「え?でも帰り道は分からないって」
「森の出口までの道は分かりませんが、来た方向くらいは...こっちです」
そういって少女は指差す
そちらを見れば草木が一部折れている
土もよく見れば踏みつけられており、誰かが通った痕跡が確かに残されている
「ちなみにその道中、道...というほどしっかりしたものじゃないんだが、獣道よりはしっかりした自然の道を見なかったか?」
「いえ、ずっと森で...拓けたような場所はなかったと...思います」
「そうか」
ならば、少女が来た道にも俺の目的である帰り道はないだろう
ちょっと自信なさげなのが心配だが、他に情報もないので信用するしかない
そして、今、自分が歩いてきた方向
もちろんこちらにも目的の帰り道はなかった
「ということは、こっちか」
未だに確認されていない方向を見る
「君...そういえば名前を聞いてなかった。俺はバーディウスっていうんだが」
「あ、えっと、私はアルメルト、と」
「アルメルトさん。俺は行くけど、君はどうする?正直なところ俺も実は若干の迷子なんだ。出会ったばかりでお互い信用はできないってのもあるしここでバイバイもありかな、とは思うよ。でもまぁ...付いてくるなら止めない」
「一緒に行きます...はい」
「うん。担いで歩ける体力もないから自力で付いてきてもらうしかないけど...じゃあこっちだ」
◇
「あ、あった!良かったぁ~」
アルメルトと出会ってからしばらく歩いた辺りでようやく目的の帰り道を見つけた
来る時は不安な道であったが、状況が変われば希望の道に見える
「これですか?」
「あぁ、でも安心はできない。ここまで何事もなかったのは運が良かっただけかもしれない。道中でオークにまた襲われるかもしれないし慎重に行こう」
「はい」
「こっちだ」
そして、さらにしばらく歩いて
ようやく出発した小屋に戻ってきた
「はぁ、やれやれ...ようやく帰ってこられた」
「へぇ...森の中にずいぶん立派な家が...本当だったんですね。」
「え?信用してなかったの?」
「え?と、あはは」
驚きである
こんな素直そうな少女が人を疑うなんて
いや、そうしなければ生きていけない世界が悪いのか
誰がこんな世界を作ったのかー
「だ、だってウルドーの森に小屋があって、よもやそこに住んでるなんて思わないです!疑いたくもなります!」
世界ではなく俺の環境が悪かったようだ
すまない世界、疑って
まぁ、それはそうと
「ウルドーの森?」
「え、あ、はい?ウルドーの森はこのことですけど...」
アルメルトは再度、疑念の目を向けてくる
それはそうだ
怪しい森に住んでいるくせにその森の名は知らないときた
「わ、ワタシハアヤシイモノデハアリマセン」
「それは後ろめたい方が言葉ですね」
「あはは...ま、外で立ち話も何だ。道中はあまり騒がしくもできなかったからな。ゆっくり話そうぜ?怪しいやつの家で良ければ、大したおもてなしもできませんがどうぞどうぞ」
「...お邪魔します」
「そこに座ってて。水くらいしかないけどな」
「はい」
アルメルトに椅子を促し、工房への扉に手をかける
ぎぃ...ぱたん
「水、水っと...あっと、コップは...」
それにしてもウルドーの森、か
人が住まざる森...魔物ゆえにかな?
またスライムに会えるだろうか
オークにも...いや、2度と会いたくない
でもでもあいつの腕は惜しかった
ぴちゃっ
「おっと、溢しちまった。他に考えることがあるな。話を聞かなきゃな。すまん、待たせた」
扉を開ける
「おい、大丈夫か!?」
机に突っ伏すアルメルトが目に飛び込んできた