お前らの上に俺はいる。
「よっしゃ、今回もいっちばーん。」
「あーあ、俺今回のテスト、結構頑張ったんだけどなー。またかっちゃんが一位かよー。」
「はは、悪いな、俺今回も勉強してねーんだけどなー。」
「またでたよ。勉強してないっていって本当は勉強してるんだろ?」
「まあねー。」
俺、井藤勝己はいつも一番だ。
勉強もスポーツも、誰にも負けない自信がある。
というのは、事実だ。……なんだが、
「おーい、お前ら、今から今回のテストの平均点を発表するぞ。今回の数学の平均点は、55点だ。これは6クラス分あわせての平均だからな。それで今回の上位は、62点、井藤、57点、相澤、木下、大田、後島、国見、新谷だ。57点は他のクラスにもいるが、井藤が今回も一位だ。皆、井藤に負けないように次も頑張れよ。」
そう、そうなのだ、確かに俺は一位だ、一位なんだが、あまりにもその実感がわかないんだ。だって、俺の5点下が、あまりにも多すぎる。こんな違和感をずっと俺は抱えている。
「なあ、かっちゃん、今回も5点だな、かっちゃんはどうやってその5点、とってるんだ?ちょっと見せてくれよ。」
こいつは俺の一番の親友、後島秀人だ。
「ああ、いいよ。はい、これ。」
「ふーん。他の皆とあんまかわんねえな。先生どんないじわるしたんだよ。」
「さあな、それよりさ、今日も放課後ゲーセンよってかね?」
「おお、いいぜ。放課後な。」
そうやって、今日も普段と変わらない1日が、終わる。
、はずだった。
その日、ゲーセンに寄る道の途中で、ビルの屋上から落ちてきた鉄骨に、俺は潰された。
✳
「っいててて。」
「おい、大丈夫か、かっちゃん。」
「ああ、そっちこそ、大丈夫か、ひで。」
「まあな。それより、ここどこだよ。」
あたりの壁は金色に輝いており、立派な燭台が、左右対象に置いてある。彼らの足元には赤い絨毯が敷いてあり、部屋の奥まで、続いている。
その奥から1人の豪華な服を着たいかにも王様というような人と、見目麗しいまるでこの世の者とは思えないほどの金髪の美少女が、歩いてきた。
「うわ、奥の女の子見てみろよ。やべぇ、可愛い。」
「ああ、そうだな。」
「なんだよ、かっちゃん、見惚れて口が開きっぱだぞ。」
「はあ、べ、別にそんなことねえよ。」
「よくぞ。我々の呼び出しに応じてくれた。勇者よ。して、この場には二人いるが、どちらが勇者かの?」
「勇者?」
「おい、かっちゃん、これあれじゃねえか、ドッキリってやつ。」
「うーん、そうなのかな。」
「絶対そうだよ。俺らテレビにうつるんだぜ。やったな。」
「なんか、そんなふうには見えないけど。」
「はいはーい。かっちゃんが、じゃなくて、このお方が勇者であります。」
「おい、何を勝手に、」
「いや、こういうのは俺よりかっちゃんの方が絶対いいから。ほら、勉強もスポーツも、俺より上だろ。」
「そうだけど、そうだけどさ。」
「そうか、そなたが勇者か、して、名はなんと言う?」
「名?あ、名前か。」
「俺はヒデト、そんでこっちがカツミです。」
「そうか、では勇者カツミよ、この魔王に支配されたこの世界を救ってくれ。頼んだぞ。」
✳
二人は王様から鉄の剣と鉄の鎧を受け取り、城をでる。
「なあ、かっちゃん、これ、本当にテレビか?」
「いや、違うと思う。」
「やっぱかっちゃんもそう思うよな。だってこれ。どうみても日本じゃねえもん。」
「はあ、はあ、遅れてしまって、申し訳ありません。勇者様。」
そう言って出てきたのは先ほど、王様の隣にいた美少女だ。
「え、どうして、」
「私、私も勇者様と一緒に旅に出たいのです。私この日の為に毎日城にくる魔術師の方に教えて頂いて、魔法が使えるようになったんです。もちろん回復魔法も出来ます。だから、だからどうか私を勇者様の旅に連れていってください。お願いします」
そう言って美少女は必死に頭を下げる。
その様を見て二人は困惑する。
そんな中、先に言葉を発したのはヒデトのほうだった。
「頭を下げないで下さい、分かりました。どうぞ、ついてきて下さい。な、いいよな、かっちゃんもそう思うだろ。」
「あ、ああ、うん、いいと、思うよ。」
「ありがとうございます。私精一杯頑張りますので、どうぞよろしくお願いします。」
「(それに、こんな美少女と一緒に旅出来ると思うとなんかワクワクするよな。)」
「(おい、それこの子の前でするなよな。)」
「(はいはい、そう言って実はかっちゃんもドキドキなんだろ?)」
「(だからやめろって。)」
「あのー、二人ともこそこそと何を話しておられるのですか」
「いや、そう言えば、名前を聞いてなかったなーって、なあかっちゃん。」
「あ、ああ、そう、名前だよ、名前、教えてくれない?」
「あ、自己紹介がまだでしたね。私はミーナ。この国の王様の娘です。」
「そっか、じゃあ、ミーナ、よろしくね。」
「はい、よろしくお願いします。」
そんな不思議なやり取りが、城の入り口の前で行われた。
✳
それから数日が経ち、
「なあ、なんか変じゃねえか。」
「変、とはどういうことです?ヒデト様。」
「いや、なんかこう、力がでねーっていうか、なあ、かっちゃんもそう思うだろ?」
「うーん?いや、俺はそんなことないぞ。」
「あれ?俺がおかしいのかな?」
「もし、体調が優れないのなら、この辺りで休憩にしましょう。私も少し疲れました。」
「ミーナがそう言ってくれるんならそうしよっかな。かっちゃん、ミーナが休みたいって。」
「ああ、わかった。俺はもうちょっと狩ってくるから、お前らはやすんどいてくれ。」
「おお、わかった。あんまり遠くにはいくなよ。」
「ああ、わかってる。すぐかえってくるよ。」
そう言ってカツミは森の奥へと進んでいく。
「あいつ、最近頑張ってるよな。ああいうことを普段もしてたのかな。なんか、納得したかも。」
「カツミ様のことですか?私知りたいです。教えてください。」
「ん?もしかして、ミーナ、カツミのこと気になってる?」
「え?いや、べ、別にそんな、そんなことはありません、け、ど、」
「いいよ、昔からの腐れ縁みたいなもんだから、色々教えるよ。……そうだな、あれは俺が、中学1年のころ、」
そんな楽しげな会話が、一つの木の下で行われていた。
✳
「はあ、はあ、もっと、倒さないと、」
少年、カツミは息を途切れさせながらそう口をこぼす。
「俺の考えていることが正しいんだとしたら。」
カツミは剣を縦横無尽にふりまわす。
「俺は絶対に皆より強くならないといけないんだ。」
カツミはその額に汗を滲ませる。
「俺が、誰よりも強く、強くならないと。」
少年は1人で、魔物を一匹、一匹と確実に止めをさしながら森を、奥へ奥へと突き進む。
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「かっちゃん、おそいな。」
「そうですね、少し心配です。様子を見にいきましょ。」
「ああ、何か、かっちゃんの身に起こってないといいんだけど。」
そう言って、二人は森を進む。
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二人が森の奥へと進んでいくと辺りを異様な空気が漂い始める。
「なんか、血の匂い、だんだん濃くなってきてないか。」
「はい、魔物の殺され方もだんだん酷くなってきているような。」
「あ、あれ、かっちゃんじゃねえか?」
ヒデトは森の奥に一つの人影を見つける。
「そう、みたいですね。でも、なんだか様子が、おかしいような。」
「とりあえず、よんでみようぜ。おーい、かっちゃんー。」
「カツミ様ー、何をしていらっしゃるのですかー。」
二人の声に気づいたのか、カツミはゆっくりと振りかえる。
しかし、二人から見たカツミの姿は、頭から足の先まで真っ赤に血塗られた異様なものだった。
「ああ、二人とも、ちょうどよかった。」
そう言ってカツミは二人のもとに近寄る。
「え、二人とも、どうしたの?」
しかし、二人はカツミが、一歩、また一歩と近寄るたびに、一歩ずつ後ずさる。
「なあ、カツミ、お前、どうしちまったんだよ。」
「別に何も?」
「いや、その顔、なんでそんな、気持ち悪い表情してるんだよ。」
ヒデトの目にうつるカツミの顔は以前とは変わらないが、その目と、口は、酷く歪んで見えた。
「何もしてねえよ。ただ、少し、思っちまったことが、あっただけで。」
カツミは少し顔を背けるように地面を見つめる。
「何が、あったのですか、カツミ様?」
ミーナは少し怯えた様子で、しかし心配も含んだ声色でカツミに聞く。
「いや、さっきさ、思っちまったんだよ。俺1人なら魔王を倒せるんじゃないかって。」
そう、カツミは答える。
「俺さ、今、今までみたこともないような化け物に出会ってさ、俺正直、ここで、死ぬんじゃないかって、思ってさ。でも、いざ、戦ってみると剣がみるみる肉を裂いていって。気づいた時にはもう、そいつは倒れてて。」
そう言って、カツミは森の奥を指さす。
そこにいたのは頭だけで、3メートルはあるだろう巨大な熊の姿をした魔物が、無数の傷をつけられ、血で汚れて横たわっている姿だった。
「そうか、カツミ、お前は、1人で、いくんだな。」
「ヒデト様?何を、一体何を言っているのですか。」
「ああ、いってくるよ。お前らは国にでも戻ってくれればいい。」
「嫌です。私、私あなたを1人でなんて、いかせない。」
そう言ってミーナはカツミの腕を掴む。
「ごめんな。俺さ。お前らを待つより、1人でいった方が、いいんじゃないかって、思っちまったんだ。」
そう言ってカツミはミーナの腕を掴むとゆっくりと剥がす。そこに力は、あまり入っていないように思われた。
「俺、1人でいくよ。無事魔王を倒したら、また、1人で、かえってくるから。そう、1人で。」
「かっちゃん、俺、お前の帰りを待ってるから。だから、絶対に気を抜くんじゃねぇぞ。」
「ああ、わかってる。」
「行ってしまうのですね。1人でなければならないのですか。私達でなくとも、護衛や、荷物運びを」
「ミーナ、俺さ、さっきかっちゃんのこと話しただろ、5点だよ、5点。」
「それでも、護衛は、つけるべきでは。」
「いいよ、俺が、気を抜かなければいい話だ。それともミーナは必ず死ぬ未来しかない戦地に他の皆を向かわせるのか?」
「はい、それであなたの帰ってくる可能性が上がるのなら。」
「だから、絶対にかえってくるよ。信じて。」
「わ、分かりました。帰ってくるのを待ってます。だからその、帰ってきてくれた時は、私と、私と結婚してください。」
「え?」
「え?」
二人はほぼ同時に変な声を漏らす。
「だからカツミ様、帰ってきたら私と結婚してください。」
「……はい。」
「や、約束ですから、約束ですからね。」
「うん、なんか、やる気出てきた…かも?」
「おい、カツミ、美少女からの告白だぞ。もっと喜べよ。」
「わーい、……やったー……。」
「いや、でしたか?カツミ様が、嫌だと言うならそれはもう、あ、あ、諦め、ます。」
「いや、嬉しいよ。そうだね。俺が帰ったら結婚しよう。」
「はい。」
「おー、勇者とお姫様が、結婚か、これは伝説になるな。」
「よし、じゃあ、いってきます。」
「いってらっしゃい、かっちゃん。」
「いってらっしゃいませ、カツミ様。」
そう言って、カツミは1人森を更に奥へと突き進む。
二人の顔は少し、寂しいような、名残惜しそうな顔をしていた。
✳
それから数か月が経ち、
「カツミ様おそいな。」
「かっちゃんは絶対帰ってくるよ。今ごろ魔王を倒して、帰る途中なんだよ。最近は魔物の活動を目撃する数も減ってきてるらしいし。」
そんな時だった。1人のメイドが急いでむかってきたのは。
「大変です。カツミ様が、カツミ様が、」
「何、カツミ様が、どうしたの。」
「カツミ様が、無事ご帰還なされました。」
「かっちゃんが?かえってきた?ミーナすぐいくよ。」
「わかっております。」
二人はいそいで城をでる。
✳
「ああ、やっとついた、もう、だめだ。さすがに足が、もう。」
バタリとその場に崩れる。
「大丈夫か、かっちゃん。」
「帰ってきてくれて嬉しいです。カツミ様、今回復魔法を。」
そう言って、ミーナは、カツミの足にむけて、両手をかざす。
ミーナの手からでる緑色のオーラは、見ていると、とても穏やかな気持ちになる不思議な色をしていた。
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「ああ、大変だった。一対一に持ち込むのは一苦労だったよ。まさか魔王戦よりもその道の途中の方がしんどいだなんて。」
「あたりまえです。だから私はあれほど護衛をと申しましたのに。」
「まあ、もういいです。あなたが、無事に帰ってきてくれた。ただそれだけで今は十分です。」
「ありがとう。ミーナ。」
「おーい、俺のこと忘れてないか、二人とも。」
「ごめんごめん。ヒデ、俺帰ってきたよ。」
「おう、ごくろうさん。お前はやっぱすげーよ。」
「ああ、俺の力は、」
「いや、お前の力じゃなくて、お前自身が、だよ。」
「そうか、本当にそう思ってくれるのか。やっぱお前が友達でよかったよ。」
「おう、俺達は、友達だ。」
「次は私が、仲間外れに。なら。」
そう言ってミーナはカツミの唇に自分の唇を重ねる。
「これで、私のことも、あれ?カツミ様?」
「あらら。カツミ、不意討ちのキスで気絶かな?これは最大の敵あらわる、かな?」
そう言って、ヒデトは笑う。
「私の唇にそんな力が、これなら私も魔王を倒せたのでは。」
「ないない。それはかっちゃんにだけの必殺技だよ。大事に取っておかないとダメだよ。」
「ふふ、分かりました。これはカツミ様だけのものです。」
最後まで読んで頂きありがとうございました。