500pt突破記念SS 孤児院への手紙
評価&ブクマ&読んで下さって有難うございます。
フリント視点で、時間軸は少し前のお話になります。
トープは筆まめなのは意外だった。やんちゃしている奴ほど故郷に義理堅いパターンか。時折市場に顔を出してはネリや子供たちへの手紙やお菓子などを預けていく。自分が誰かにしてもらって嬉しかったと言う理由でもあればわかるのだが、今までの子供たちとはちがう成長の仕方にただただ驚くばかりだ。
始めは一人一人に書くつもりだったらしい。でも新しい子供が入ってきたら不平等になってしまうからと、ネリ当てと子供たち当ての二通になったそうだ。
比べてノアはこの手紙を預かった時に初めて顔を見せたくらいだ。今までの孤児たちはノアタイプがほとんどで、市場の買い物ついでに話をすることはあっても、手紙をよこすなんてのはほとんどない。いや、一人二人いたけれどどちらも十年もしないうちに途絶えてしまった。最後の手紙はどちらも結婚を機に街を出ると言う報告だった。
便りが無いのはいい便り。普通なら、便せんを買う金や手紙を書く時間を確保する余裕なんてほとんど無いはずだ。無理やりひねり出すくらいなら、それは本人の為に使ってほしい。
仕事として絵を描かなければならない、精神的にも追い詰められそうなノアはともかく、雇われているトープはかなり扱いが良いのが分かる。その余裕が手紙を出す行動になっているのだろう。
一番上の茜がチビ達にトープから受け取った手紙を読んでやってる。
「みんな、元気か?ノアも俺も元気だ。絵も少しずつ売れるようになってきて、ノアもほっとしているようだ。この前はサーカスのチラシを描いていた。そのおかげで俺もサーカスを見せてもらえたんだ。人魚や火吹きトカゲとか、変わった生き物がいっぱいいた。……マザー。サーカスって何?」
読むのを途中で止めて、まだ手紙を読んでいる途中のネリに聞きはじめた。それを手で制し、ディカーテで配っていたチラシを皆に見せながら説明する。
ノアがデザインした、人魚の絵だ。
「うわぁ、きれい……」
「サーカスってのはこう、大きなテントがあってだな。中に客席があって、ステージがあって、そこで見世物をするんだ。空中ブランコや玉乗り、綱渡りなんかをしてな。このサーカスの場合はそれをするのが人間以外なんだ。人魚は歌を歌ったらしい」
「へぇぇー」
身振り手振りを交えての説明を目を輝かせて聞いている子供もいれば、理解できないのか首を傾げている子供もいる。実物を見せてやればよかったんだが、入場料はそれなりにするし、この人数を引率するのは難しい。何より興業はもう終わっている。
「続き読むね。不思議な生き物を描くのが大好きなノアは、ものすごく喜んでいた。皆も大きくなって働いて自分のお金で見られるようになると良いな。追伸。ノアが描いた絵をマザーの手紙の方に入れておいた。俺、かっこいいだろ、だって。なんかノア姉ちゃんの事ばっかりだね」
ネリの方も丁度読み終わったのか、最後の一枚を手に取る。
「あら、もう一枚?……これは、ノアが描いたトープですね」
「見せて見せて」
子供たちが円になって頭をくっつけている上から覗き込む。他と同じ便箋の裏に、仕事をしているトープが描かれていた。絵以外に言葉は何も無し。
ノアらしい手紙だ。ノアもトープも元気でやっているのが一目でわかる。まだまだ文字の読めないチビ達にも。
「おおー、トープにいだ」
「少し、カッコ良すぎない?このトープ兄」
「そうか?親方に鍛えられているらしいからな。一端の職人の顔になっているんだろ」
あの悪ガキだったトープがまともな仕事に就けた。しかもそれが続けられているのは親代わりとしても嬉しいもんだ。店員をやっているならともかく工房に入って様子を見るなんて出来ないから、トープと絵を描いているノアの旅立ちの後を知ることが出来る、とても良い手紙だと思った。
「ノア姉にはかっこよく見えるって事よ。あのノア姉にもついに恋心が芽生えたって事ね」
ふふふんっと笑いながら、物知り顔で得意げに言う茜。女の子はこのぐらいの年になればこうしてませたことを言い始めるのは、今までにも何度も見てきた……が。
「ノアに限ってそれは無いと思うぞ」
「ええ、無いですね」
ネリもきっぱりと断言して同意する。
「本棚に置いておいた子供向けの恋愛小説に目もくれませんでしたし、結末が王子と結婚して幸せになるお姫様の絵本にも興味を示しませんでしたから」
「いたずらではなくまともになっていったトープのちょっかいにも反応なしで、見てるこっちが可哀想になっていったなぁ」
「ノア姉ってば、超クール?トープ兄だってすごい不細工ってわけでもないのに」
「いや、あれは絵にしか興味が無かっただけだろうな」
嫁に行くことなんて全く考えていないのかもしれない。絵ばかり描いてそれで人生を終えてしまうかもしれない。まあトープが傍に居るから大丈夫だろうが。
問題はトープを選ばなかった時の事だ。当人同士の問題だとは言え、あれだけ一方通行で実のらなかったのでは同情したくなる。
「あ、そうだ!フリントさん、額縁作って。ノア姉の絵を入れて飾るから」
「フリントさん、がぶくちくつって」
一番下はあまりいい慣れない言葉だとたまに舌足らずになる。がぶくちって何だ、がぶくちって。吹き出しそうになるのを堪えていると子供たちが周りにわらわらと集まってきた。
「ねえ、お願い、フリント父さん」
「フリント父さん」
「フリン父さん」
「省略するな、フリントか父さんかどちらかにしろ。―――わかった、わかったから。額縁つくってやるからな」
子供たちが次々にぎゅーっとしがみ付いてくる。ノアやトープと違って、この子たちはやたらとスキンシップが多い。チビ達は足に付いていたのでそのまま足を上げてやるときゃっきゃっと喜んだ。
父さんと呼ばせるのはあまりよくないとネリが言っていたが、マザーと呼ぶのだって似たような物だ。ふとネリを見ると、マザーから妻の顔に変わってる。
「……不倫父さん?相手は誰かしら」
ぱっと見には異変に気付かない程度の、いつもの顔だ。でも、放置しておけない緊急事態であることは分かる。
「子供の言い間違いを真に受けるな、おい、ネリ?」
ネリはしらーっと部屋から出て行ってしまった。焦って追いかけようにも足元には子供たち。振りほどくことも出来なくてがっくりと肩を落とすしかなかった。
普段は気のない素振りなのに、こういうことには耳ざといんだ、ネリは。
「どう考えたってマザーの影響を受けていると思うのよね、ノア姉は」
ぽつりとつぶやいた茜の言葉に、そうかもしれないと妙に納得してしまった。
今後ともよろしくお願いします。




