再会
展開します。
「霰!霰!」
「起きて!霰!」
「ん……おお、圭、鈴」
霰が目を覚ました。
「心配したんだよ…」
鈴は泣いていた。目も腫れていた。
「目ぇ覚めてよかったよ」
圭もにっと笑った。
「おう、悪かったな、心配かけたろ」
二人共首を振った。
「ねえ、霰…香織がいないの」
「は?なんで」
「それが、あの石の近くで倒れてたからオレが起こしに行ったらよお」
圭の顔が歪む。
「消えたんだよ。ホログラムみたいに」
「なんだよそれ、お前こんなときにふざけてんじゃ…」
「違えよ!嘘じゃねえ!」
たしかに、嘘はついてなさそうだ。
霰は先ほどの夢を思い出した。
やはりあの夢と関連があるのか?
そんな疑問が脳を行き交う。
「あれ?霰」
鈴が霰を指差し目を丸める。
「ねえ……霰、顔見て」
「見てって言われてもなあ、鏡とか持ってねえし」
鈴ははっとしたような顔に手を当てる。
「ちょっと待って!私ポケットに鏡入れてたんだよねー!」
スカートをバシバシッと動かした。
「おいっ!鈴!野郎が見てるとこで!」
「あっ出てきた!はい!」
手渡された鏡を借りて、霰は顔を見た。
「なんじゃ、こりゃあ」
「うお!気づかなかった!霰!お前なんだよ!これ!」
圭も驚き、目を丸くする。
「三角の模様?」
逆三角の赤い模様が、両目に浮かび上がっていた。
「なんだよ、これ」
「なんか香織にも同じような模様出てたよねー」
鈴がそう言いながら口元をいじる。
「おい鈴、詳しく話してくれ」
「うん、なんかいなくなる直前にそんな模様が、香織にも出てたの」
「嘘!?オレ気づかなかった……」
「圭馬鹿だもん」
「かっ関係ねえだろ!そんなん!」
同じ模様。
まさか、いや……でも……
さっきの夢と関係があるのか?
そんなことを考えていたら、いつの間にか日の出の時間になっていた。
「さっきまですごく不気味だったのに、変な感じ」
「本当だな。景色は綺麗だ」
「ああ……」
香織はどこにいるんだろう。
さっきの夢の話だと、香織に何か異変が現れているんじゃないのか?
心配で心が張り裂けそうだ。
「あっおい!いたぞ!」
「本当だ!初田ァー!火山ァー!青山ァー!」
菅野だ。それと…みたことのないおじさんがいた。
「おーい!」
「あっ菅野!」
「バカヤロウ!菅野先生だ!お前らどこに行ってたんだ!」
ゴチンッと霰と圭が殴られる。
「先生、鈴は殴らないんですかー」
「女に手を上げる男がいるか!」
「オレらも同じ生徒だけど!?扱いひでえ」
いっひひー、と笑いながら鈴は二人の様子を見ていた。
「あれ?松田は?」
「いや…いなくなったんだよ」
圭が菅野にそう答える。
「いなくなった?」
「それがよお、オレらにもよくわかんなくて」
「若の出番ですな」
先の見たことのないおじさんがそういった。
「若?つーか誰だよオッサン」
「初田!この人はこの土地の神職の方だ!」
「アンタら、村に入ったな?」
ぞわっと、肌寒い感触が身体中を走る。
「あの村って?何なんですか?秋野さん」
秋野と呼ばれた男は口を開く。
「先生、この三人はこのままだとちいと危ないですぜ。もろに食らっちまってる」
食らっちまってるって何だよ。
俺たちを威嚇してんのか?
そう言おうとしたが、この雰囲気がそうはさせてくれなかった。
「若の元に案内する。それでいいですか?先生さんよお」
「生徒がそれで助かるなら…」
「おい待てよ、勝手に話進ませてんじゃねえ。
大体、香織はどうするんだよ!」
「君は、そうか……」
秋野は目を細くして、霰を見つめる。
「大丈夫、もう一人も見つかる」
「だから、そんなのわかん……」
「見つかる。絶対だ」
絶対、その言葉に霰は押しやられた。
どちらにしろ、この状況だ。見つからないよりはそれに賭けるしかないだろう。
「行くよ」
「あっ霰が行くならオレも」
「私もー、こうなりゃ三人一緒じゃんね」
菅野はやや安心したような顔でこちらを向いた。
「じゃあ、頼みます。秋野さん」
「わかりました。じゃあついてきてくれや」
粗暴な言い方が目立つが、秋野という男について行った。
ー
連れてこられたのは、平安京を思い浮かべるような建物だった。
赤と金色、建物は神社のデザインに近い。
そういえば、神職とか言っていたな。
「若、連れてきましたぜ」
「ほな、通して」
秋野の声に答えた声は青年のようだった。
秋野が簾をあげ、その声の主の姿が露になった。
「こんにちはぁ」
はんなりとした青年が微笑みそういった。
「こんにちは」
「こんにちはー」
「こんにちはっ!」
「元気いいねえ君」
鈴の方に目をやり、そう言う。
「そーですか?ありがとうございますー!」
鈴もにっと笑いながら手を頭の後ろにあてる。
「秋野、もうええよ」
「はっ、ほんならまた何かあれば呼んでください」
「うん、わかったわ」
秋野はそう言われ、下がった。
「皆、湯ノ神村に行ったんやってなあ」
「ゆの…?」
「うん、君らの入った村やね。あそこはそう呼ばれとったんよ」
「それで、それが何か?」
「入ったとき、何か感じへんかった?」
そう問われ、緊張がはしる。
「感じた、凍りつくような不気味な感覚だった」
「私も!」
「君は?」
青年は霰に話をふる。
「俺も」
「まあ、あの村に入ったら大体そうなるんよ」
「あの村、何なんだ?突然オレらの前に現れたんだよ」
青年は圭の問いにこう答えた。
「うん、簡単に言えばあの村は『見えるはずのない』村なんよ。君らの先生にも見えへんかったはずやで」
青年の言葉に、妙に納得がいった。
だから不気味だったのかもしれない。
「あの村はな、特定の条件を満たしたモンにしか見えへんねん。心当たりは?」
「ねえよ、あったらとっくに言ってる」
霰はそう言った。
「あるはずやで?不思議な声が聞こえた、とか、変な夢を見た、とか」
「!」
そんな、なんでこいつがそんなことまで知ってるんだ?
「霰?顔色悪いぞ?」
「まさか霰は、聞いたの?」
「…村に入って、気絶してから……」
静まり返った。
「それは、霰君だけかな?」
「オレは見てねえ」
「私も……」
「ほな、二人は大丈夫そうやな。先生んところに送ったる。
そや、今日は安静にしとき。絶対あそこに戻ったらあかんで」
「でも、香織が……」
「お友達が心配なんはようわかる。でもこれは守ってもらわな困る」
「わかった、霰は?」
「霰君には、もうちょい残ってもらうわ。先生には俺が伝えとく」
「おっけい!じゃあ、先帰るね霰」
「おう」
「霰君」
「なんだよ」
「君態度悪いなあ、俺のこと嫌いなん?」
「いけ好かねえ野郎だと思ってるよ」
「それ嫌いって言うねんで」
「そうかい」
「君まだなんか隠してるやろ?」
いきなり話を切り出してきた。
「は?」
「いや、さっきはあんなこと言うてたけど、
あれは村に入ってなったことやろ?」
「……」
「松田香織」
「!」
「彼女の失踪と関係あるんちゃうか?」
「…夢を見た、つったろ」
「言うてたねえ」
「シダってやつとモモってやつの話を、聞いた」
記憶を見たと言った方がいいのか。
青年からクククッと笑い声が漏れた。
「くくっやっぱり訳ありやと思ったで」
「知ってんのか?」
「いやあ……」
笑うのをやめ、こちらに視線をやる。
「俺が『神崎』やでって言ったらどない?」
!?
「ちなみに言うと、この家もその血を継いどる」
「知ってるのか!?千年前の村のこと」
「聞きたいか?ええよ、答えたる。
その前に自己紹介せんとな。俺は神崎一夜」
「俺は初田霰だ」
「霰君、これに見覚えある?」
そういうと神崎は着ていた着物を脱ぎ、背中を見せる。
銃痕を何倍も大きくしたような赤黒い傷が、神崎の背中一面を覆っていた。
「いいや…ていうかえらくグロいな」
「これな、千年前死んだときにできた傷やで」
「え…!?」
千年前、こんな傷をつけられるようなやつがいたっていうのか?
「まあ風穴空けられてたらしいわ」
「いや…待てよお前、千年前からずっと生き続けてんのか?」
ありえない。人間がそんなに長く生きられるわけがない。
「八百比丘尼……みたいやろ?」
「本当なのか!」
「なはは、なわけないやろ!」
「……」
何なんだこいつ。人をからかってるのか?
やっぱりいけ好かないやつだ。
「俺はこれで十回目や。生まれ変わんのはな」
「生まれ変わり……?」
「そうや。俺は何回生まれ変わっても前の記憶があるんや。それでいつもこの傷は生まれたときからある」
「不気味だな」
「はは、今更やろ?」
「いや……」
着物を着直し、神崎はじっと目を瞑った。
「千年越しや。やっと、こうやって会えたな、シダ君」
「……俺の前世のことか」
「そうや、君が生まれ変わるまで待っとったんやで」
「どうして」
神崎は、たしか村の神社のモンだった。
だがそれだけだ。他に接点はない。
あのとき生き残った俺とコバを恨んでるのか?
「もう霰君を解放したりいや、シダ君」
「俺を、解放…?」
「霰君も香織さんも、こちらの人間です。
シダさんとモモさんもかつてはそうでしたが…」
神崎の話し方が変わった。
いや、これは…『千年前の神崎』だ。
話し方がそっくりだ。記憶が残っているならそうなんだろう。
にしても、さっきからシダと言っているが。
シダがどこにいるって言うんだ?
村にしかいないんじゃないのか?
「人と人ならざる者が交わった先にあるのは地獄です…それは貴方が一番よく知っていたんじゃないですか?」
「おい神崎、誰と話してるんだ?」
「シダさんですよ」
「シダなら村にしかいないはずだけど……」
「…妙なことを聞いてもいいですか?」
「おう」
「そのシダさんには、霰君の頬にあるのと同じ模様がありましたか?」
模様…?
ああ、逆三角の模様か。
「いいや…」
「!」
神崎の顔が歪む。それと同時に顔色が少しずつ悪くなっていく。
「なんということだ…」
「え?なんだよ、この模様が何かあるのか?」
「つまり貴方はシダさんではなかった」
どうやら、神崎にはシダが見えていたらしい。
だが、シダじゃないとはどういうことだ?
そこに何がいるんだ?神崎。
「今度はシダさんの生まれ代わりの霰君に降りるつもりなんですね」
「なあ神崎、だから誰と…」
「ええ、守りますよ。霰君も香織さんも。貴方からね」
『楽しみだ』
どこからともなく風が吹き、そんな声が聞こえてきた。
「悪かったなあ、色々と俺は勘違いしてたみたいや」
先ほどの神崎に戻る。
迫力のある声とはほどとおかった。
「心配せんでええ」
「神崎…」
「もう一つの知られざる昔話、湯ノ神村の話をするわ。聞いてくれるか」
答えは一つしかなかった。
「おう…聞かせてくれ」




