白い灰
若干注意
「シダ…!?お前…!
生きてたのか!よかった……」
コバはそういって泣きながらこちらを見上げる。
シダと仲のいい友達。そう記憶している。
悪いな、俺はシダじゃないんだ。
俺は×××だから。
本当は、そのことをモモにも話すべきではなかった。
まあ、本当の名前を知られなければいいか。
「ユリ、は?」
俺がコバの家を見渡す素振りを見せると、
顔色を少し変えた。
「…モモから聞いたのか?」
「…」
いや、そうではない。
殺意を向けられていることは、シダが知らずとも俺はわかっていた。
だがそれを言うべきなのか、いや言わない方がいいだろう。
「オレはモモとユリから聞いた。
お前を殺そうと謀ったのはユリだと。
だから、ユリを殺しにきたのか?」
返答はしなかった。
「そうか…」
「ユリはどこだ?」
よくよくコバの顔を見ると、憔悴しきっていた。
「…裏にいる、見てきたらいい」
裏にはユリがいた。
怯えきっていたのだろう、土には爪の形に筋が入っていた。
「私を、殺しにきたのね…」
「…」
俺は何もしない。俺が黄昏時に降りたらそうなるだけだ。
人や動物、生き物から出た瘴気を焼き尽くすから。
「…私には最後まで、シダ。あなたの本性がわか、らな…か」
ヒュー、ヒュー、と呼吸が細くなっていく。
動物とは違って人だと、この通り後味が悪い。
シダは何も知らないだろうから、羨ましいかぎりだ。
「せめて埋めといてやるよ」
細く灰のようになってしまったユリを抱きかかえて、村の墓地に埋めておいた。
「ユリは?」
「コバか、ユリは埋めてきた」
複雑な顔を見せ、厳かに手を合わせた。
「…日が暮れるから、もう帰ろう」
「じゃあな、シダ」
まったく、お前のフリするのは難しいぜ。
苦笑いしながら、意識をシダに明け渡した。
「おい、シダ」
目を覚ますとコバがいた。
何故か泣いていた跡が、痛々しく残っている。
「なあ、なんで泣いてんだ?」
「お前がっ!…いや、何もない…お前は悪くなかった…」
「何の話だよ?」
カッとしたコバが胸ぐらを掴み怒鳴る。
「お前ふざけんなよ!人が、死んでるんだぞ…!?」
爛々と瞳の奥で揺らぐ炎のような意志には、
嘘一つないことが確認できた。
「コバ!わかんねえよ!どうしたんだよ急に…」
「待ってコバ!」
モモがやってきた。モモもひどく疲れきった顔をしていた。
「…もう帰ろ?きっとシダも…疲れたんだよ…」
「…そうだな、いつまでも眠りたいくらいだ」
「コバ!」
「帰ろう、ね。オレは…誰を信用すればいいのか…わかんねえよ」
コバは投げやりになったような言葉を投げて、その場を後にした。
「コバのやつわけわかんねえ…なんなんだよ」
あのままモモが来なければ俺は殴られていたのだろうか。
殴られる理由が思いあたらない。
「…シダ今日は何してたか、覚えてる?」
モモが問う。
「今日?朝からユウと海に行って遊んでただろ?それで帰り道うとうとしてきたから、
先にモモとユウが帰ったんだ」
「うん…楽しかった?」
もちろん。久しぶりの家族三人揃っての団らんだったからな。
「当たり前だ!楽しかったよ」
そう言うと、モモは涙を流した。
「どうしたんだよ、モモ!?」
少し笑いながら、モモはこちらを向く。
「大好きだよ…シダ…私が守るから…」
その次の日、ユリが死んだことをコバから聞かされた。
ユリが死んだ日に俺がとぼけていたのだから、
コバが怒るのも当然だろう。
「そんなの、もう耐えられない!」
「いいや、もうそれしか方法はないんです!」
「それなら何したっていいって言うの!?」
「あなたは村人全てを殺す気なんですか!」
その一週間後、モモが怒鳴り散らして社から出てきた。
神崎と話していたときのことだった。
「シダさん、死んでください」
走りながら短刀を出し、神崎はシダに刃を突き立てる。
「神崎ぃ!なんてことを!」
「この場所なら、×××もきっと手出しはできません!終わりです!」
泣き叫ぶモモの顔が見えた。
そこからは叫ぶ村人の声、神崎の声、…
いつしか村の人々は全て息絶えてしまった。
ー
「俺はこれは呪いだと思ってる」
シダがそういう。
「呪いだと?」
霰は不思議そうに尋ねる。
「怒り狂ったモモのね。そしてこの村は生き残った俺とコバで封鎖して、山に祀ったんだ」
「なるほど。それで今危ないのは」
「そう、君たちが触れたのは呪いが残っているかもしれないんだ」
「なら、心配なのは香織だな。
話を聞いている限りモモの生まれ変わりは、香織だろ?」
シダは頷く。
「モモがもし我を失っていたら、助けてあげてほしい…」
「わかったよ。じゃあ、もう戻るから」
そういって霰は表層意識の中から出た。
「ちがう…」
誰かの声が響いた。
「村を壊したのは私じゃない…」
誰の声だ?村?壊した?
「私は×××を…シダを止められなかった」
シダ?×××?まさか…この声は、モモ?
「どうか、次の世では…」
「何回だって、貴方を助ける…」
声は消えていった。