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桜舞い散る頃に…  作者: 彩莉
3/30

起源

「おい…どうして二人共倒れたんだ!?」

「わかんないよ!ねえ、これって結構危険なんじゃないの!?」


声が聞こえる。

圭の声でも鈴の声でもない、誰の声だろう。

目の前は村の光景はなく、白一色が広がっていた。

俺の意識の中だろうか。

何にしろ戻らないと。皆が待ってる。


「どこへ向かう?」

誰かの声が聞こえてきた。

男の声だった。聞いたことがあるような、懐かしい声だった。

「誰だ?」

振り返ると若い青年がいた。

透き通るような銀髪。何かを訴えかけるかのような紅の瞳。

俺はこの青年を知っている。

名は…


「シダ…ってもう覚えてないか」

「俺はお前のことを知っている気がする」

シダと名乗る青年はふ、と息をもらす。

「輪廻転生を信じる?」

「なんせ、複雑な家庭なんでね。

何回も親から聞かされた話だ」

「なら話ははやい。霰、俺は君の前世だ」

なんとなく、気づいていた。

他人には思えないこの口ぶり、話し方といい、

まったくとは言えないが、俺のようだった。


「なんなんだ、ここは。こんな魔訶不思議な空間にずっといるのか?」

話を逸らす。

「うん。ずっとではないけど」

「ここは懐かしいにおいがする」

シダは驚いたような顔をする。

「そうか、君も…このにおいを覚えているんだ」

梅の香りがする。優しいにおいだ。


「どうしてここに来たんだ」

シダは踵を返し、凛とした声で俺に問う。

「それはこっちのセリフだ。気づいたらここに来てたんだ」

「ここには俺が連れてきたんだ。

そうじゃなくて俺が聞いてるのは…君たちはなぜこの村に来たのかということ」

「俺たちはこの山でフィールドワーク…

違う目的地を目指して歩いてたんだ。

なのに気づいたら道が変わっていた」

結局日が暮れて、気づいたら霧がでてきた。


「そう。通常ならこの村には入れないはずだ。

立ち入り禁止の看板が掛かっていて、何重にも通行止めの縄と木の板があるから」

木の板…?

シダはそう言った。

おかしい。木の板どころか、看板すらなかった。

「俺達がここに来たとき看板すらなかったぞ…?」

「そうだ。本来なら有り得ない」

シダは焦りの顔を見せる。

「なあ、何を焦ってる?」

目を合わせてくれない。いや、集中しているだけかもしれない。

「村の物に、触ったりしてないか?」

「ああ…石?みたいなのには触ったけど…」

「なんだって…?誰が触ったんだ…?」

「香織と、俺だけだ」

香織、と聞いたシダは目を見開いた。

そしてうなだれながら、膝を落とした。


「君にはあの村の話をしなければならない。

俺たちがかつて住んでいた湯ノ神村の話だ」



平安時代中期、農村にシダは産まれた。

美しい白い肌と艶がかった黒の髪、端正な顔立ち。

貴族を上回るほどの美青年になった。


「シダー!」

「痛い!飛び乗らないでくれ、モモ」

「あはは!ごめんあそばせ?」

モモは同じ日に産まれた少女だ。

美しい容貌はシダと並ぶほどであった。

「なんか、緊張しちゃってさ」

「ああ、明日は儀式だから…」

この村には昔からのしきたりがある。

十六歳の男女二人が、神社に参詣する。

そして一晩、座り続ける。

そうして神の子となった二人に村を守ってもらうというもの。


「なんだね、やたらめたらうろつくんじゃないよ!」

怒鳴られ、びっくりしたモモは声の方を向く。

俺たちと同じくらいの男が膝をかがめ、

バシッと叩き落とされた野菜を拾っていた。

どうやら怒鳴られていたのは俺たちじゃなかったようだ。

モモの表情に気づいた村の女が言葉を返す。

「ああ、悪かったねモモちゃん、シダ君。

明日は頑張っておくれよ」

「ありがとう、ございます…」


「おい、大丈夫?」

「ほら、果物落ちてたよ!」

モモは拾って男に渡す。

「…あ、ありが…とう」

「君はどうしてあんなひどいことをされたんだ?」

表情が雲る。

「俺は鬼の子…だから」

「おに…の…こ…?」

「何だそれ…?」

「あんた、名前は?」

あんた、と言われたシダは目を見開く。

「シダ。こっちはモモだよ」

「シダ、モモたちは神の子、だろ…?」

「うん、でも鬼の子なんて聞いたことない」


「満月の夜に産まれた子は神の子、新月の夜に産まれた子は鬼の子。

そう決まってるんだ」

「…そんな決まりがあったのか」

「明日儀式なんだろ?俺たちもだ」

「え?鬼の子にも儀式があるの?」

モモは不思議に感じたのか、そう問う。


「…明日俺ともう一人の鬼の子は首を切られる」


「なんだって…?」

「そんな、ことって…!」

「いいんだ、俺はそもそも、今日二人と話すまで人と話したことすらなかったから」

嬉しそうな顔をする青年に違和感を感じた。

「そんなの、おかしいよ」

モモがそう答えた。

「ああ、その通りだ。…君の名前は?」

「…コバ」

「コバ、か。誰がつけてくれたんだ?」

「母さん。もう死んだけど…」

「その母さんはきっと、君に生きてほしかったから君を産んだ。名前をつけた。

死んでいいはずがないんだ。そうだろう」


珍しく熱く語る自分がいた。

「迫害をしていたのは?」

「あんたたち以外の村人全員だ」

モモは何か心に決めたような顔をしていた。

もしかしたら同じことを考えているのかもしれない。

「ねえ、コバ。聞いて。

私はあなたを悪い人間だとは思わない。

悪いのは村の人たちよ」

「そうだ…だから、俺たちは明日の儀式に出ない」


コバは目を見開き驚く。


「「逃げよう、この村から」」



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