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桜舞い散る頃に…  作者: 彩莉
22/30

緋色の夢

‪「香織……」‬


‪霰は後で来た香織と神崎を見て驚く。‬

‪「霰君、ちょお来て」‬

‪神崎に手を引かれ、霰は社の外へと連れていかれる。‬

‪「神崎!なんだよ!離せって」‬

‪神崎は霰の話を聞かない。‬

‪「離せって!」‬

‪霰は無理矢理手を振り、怒鳴る。‬


‪「なんなんだよ、香織もお前も。俺がどうしたって言うんだ」‬

‪神崎はじっと霰を見つめる。‬

‪「さっきのやつもだよ、酒呑童子ってなんだよ、ふざけんのもたいがいに……」‬

‪そこまで口にしたあと、霰ははっと我に返る。‬


‪「落ち着いた?」‬

‪「神崎……」‬

‪「俺にもなんのことやら。全然わからへんけど、香織ちゃんに頼まれたんや」‬

‪「何を?」‬

‪香織が神崎に頼み事なんて、珍しいと思った。だが神崎が嘘をついてるようにも思えなかった。‬


‪「霰君をな。霰を見つけたらすぐに連れていって、って言われたんや」‬

‪「……」‬

‪頭冷やせたんならええんちゃう、と肩をポンッと叩かれる。‬

‪「心配せんでも、香織ちゃんはちゃんと霰君のこと思ってくれとるで」‬

‪何故かはわからないが、神崎は霰の心を見透かしているようだった。常に余裕を保っているところを見ると、到底同い年とは思えない。‬


‪「俺、本当頼りないよな……」‬

‪霰は自嘲気味にハッと笑い、顔を覆う。‬

‪「皆そんなもんや」‬

‪そんな霰を笑うこともなく、神崎は言う。‬

‪「だから助けおうとる」‬

‪そうか。圭も、鈴も、神崎も。皆自分以外の仲間を必要とし、頼っていた。‬

‪俺も同じだと思っていたが、それは表面上だけで、心の奥底では一人で突っ走ることしか頭に無かった。‬

‪今の俺は以前のコバのようだった。‬

‪人の助けを是とせず、己のみを信じる。それはとても寂しい生き方だと改めて理解した。‬


‪「連れて帰らな怒られるかもな。でも帰る気ないやろ?ならとりあえずここで待機しとこ」‬

‪「……さんきゅ」‬


‪ー‬


‪「あのときの神子か」‬

‪「霰の血から、出てきた……?」‬

‪ははは、とあのときと変わらない笑い方で笑う。‬

‪「言ったろ。奴は鍵だ」‬

‪解釈違いを起こしていた。霰は鬼門の鍵ではなく、酒呑童子復活の鍵だった。‬

‪「そんな……」‬

‪「古き世で討たれ、適わぬ夢かと思ったが……ははは」‬

‪顔を覆い、頭を上げて笑う。‬


‪「蛟、天狗と赫夜は?」‬

‪「二人共死んじゃいねえが、ここらにはいないみたいです」‬

‪赫夜。はるか昔の月の姫。月に帰ったところで物語は終わっている。‬

‪しかし現実は違った。赫夜姫は月の姫ではなく、月の光を浴びて生まれた妖だった。‬

‪そのことに気づいた武士が討ち取ったはず。‬


‪「変な面してんじゃねえよ」‬

‪蛟は香織のもとへ歩いてくる。‬

‪香織の首を掴みながら蛟は言う。‬

‪「ふーん、お前、悪くねえな」‬

‪「何……す……の……!」‬

‪「俺がお前を妖にするっつってんだよ」‬

‪「妖な……て……なり……くない……」‬

‪私は人でありたい。人のまま、大切な人に……。霰に、想いを伝えたい。‬


‪「うるせえよ」‬


‪ビュッと刀を蛟の首の前に出す。‬

‪「香織から手ぇ離せ」‬

‪「戻ってきたんかよ、つまんねえなあ」‬

‪蛟は手を離し、酒呑童子の元へ戻っていく。‬

‪「霰どうして戻ってきたの!」‬

‪「お前が死んだら意味ねえだろ!」‬

‪香織に怒鳴り返す。‬

‪「お前は俺を止めてくれる唯一の存在だ。それに……」‬

‪俺はお前のことが好きなんだ。そんな無責任なこと、今は言えるわけなかった。‬


‪「……もう大丈夫…だ……から」‬

‪ふらっと香織が倒れる。‬

‪「香織!」‬

‪「香織ちゃん!」‬

‪神崎は戻ってきた。霰は香織を支え、横の木にもたれかかるようにして手を離す。‬


‪「香織!霰!」‬

‪「大丈夫?」‬

‪圭と鈴も走ってきた。‬

‪「香織は大丈夫だ。今は気を失ってる」‬


‪ゴッ‬


‪圭が霰を殴る。霰は殴られた反動で地面に倒れる。本気で殴られたようだった。‬

‪「お前、無茶しすぎなんだよ!」‬

‪「……」‬

‪「お前が一人いなくなったとき、香織は泣いてたんだ!真っ先に心配してた!倒れたのもお前のことを守ろうとしたからじゃねえのかよ!」‬

‪「圭!落ち着いて!」‬

‪鈴は圭を必死に止める。圭はそれに抵抗する。圭が霰に怒ることも、その圭を鈴が止めることも、初めてのことだった。‬

‪霰はただ黙って圭の話を聞いていた。‬


‪「お前が守らないとダメだろ……香織はお前のこと……」‬

‪そこまで言って、圭は鈴に強く引っ張られる。‬

‪「それは香織が直接霰に言うことでしょ」‬

‪鈴の言葉で、はっとした圭は抵抗をやめる。‬

‪「……霰、独りよがりはもうやめろよ」‬

‪「本当だな。すまなかった」‬

‪霰は圭、鈴、神崎に頭を下げる。圭はにっと笑った。‬

‪「わかったらいーんだって。殴ってごめんな」‬

‪「むしろありがとう。目ぇ覚めた」‬


‪「天真、あいつだな」‬

‪圭はじっと天真を睨む。‬

‪圭太は天真に殺された。その天真さえ乗っ取られていた。圭は誰が本当に卑劣なのか、わからないでいた。‬

‪「圭太の生まれ変わりか、お前を真っ先にぶっ殺したかったんだよ」‬

‪「とりあえず天真の身体返せよ、蛇野郎」‬

‪「俺は蛇じゃねえ!蛟だクソ野郎!」‬

‪そういうと天真から抜けて、蛟本人が出てきた。天真はそのまま倒れる。‬


‪「天真様!」‬

‪社神は倒れた天真にかけよる。鬼人も着き、全員揃った。‬

‪天真は意識を失っていた。社神は天真をそっと抱える。目には涙を溜めていた。‬

‪「よかった……天真様」‬

‪天真の目元には鱗が残ったままだった。水色の頬は少しずつ肌色に戻り、血色は元に戻る。‬


‪「社神さん、ちょっとごめんな」‬

‪神崎は天真の前にしゃがみこみ、天真の額に札を用意する。‬

‪「畏み畏みもうす。祓いたまへ、清めたまへ。守りたまへ、幸えたまへ。急急如律令」‬

‪目の下の鱗は剥がれ落ち、天真は目を覚ます。‬


‪「ん……」‬

‪「天真様……!」‬

‪社神は天真を強く抱きしめる。‬

‪「社神……」‬

‪天真は辺りを見回す。そして圭と鈴を見て、全てを思い出す。‬

‪「……そうか」‬

‪天真は懐から短刀を出し、自らに突き刺す。‬


‪「天真様!何を!」‬

‪「ひっ……」‬

‪鈴は目を背ける。天真は自刃した。‬

‪社神は慌てて天真の短刀を抑える。刀を抜いては余計に失血してしまう。抜くことは出来ないため、止めることしかできなかった。‬

‪「俺が生きていて……いいわけない」‬

‪「そんな……」‬

‪「二人にも、お前にも、本当に……悪いことをしてしまった」‬


‪「死んだらあかん」‬

‪神崎は天真にそう告げる。そして治癒用の札を出し、短刀を抜いて札を貼る。‬

‪「ほんまは戦うと思ってたから、それ用に持ってきてんけどな」‬

‪「……」‬

‪天真はぐっと下を向いている。‬


‪「俺かて君とはちゃうけど、自分の判断の過ちで村を壊滅させてしまったんや。まあ、俺の場合は即死やったから……でも、何回生まれ変わってもこれや」‬

‪千年前、かつての神崎が受けた傷を見せる。‬

‪「消えへんねん。でも生きるしかないやろ。業は背負って生きやなあかん」‬

‪霰は知らなかった。神崎がそんな考え方をしていたなんて。確かに、神崎がシダを刺して湯ノ神村は壊滅してしまった。そうでもしないと止められなかったから。‬


‪「妖に乗っ取られてた期間が長いから、普通の生活は出来へんかもしらん。それに、世の中も随分と変わったからな」‬

‪「俺は、圭太を……弟を」‬

‪圭は天真のもとに歩いていく。‬

‪「オレ今、兄ちゃんいねえんだ」‬

‪圭はにっと笑う。天真は圭の顔を見る。‬

‪「今度こそ仲良くしてくれよ、兄ちゃん」‬

‪そう言って、天真に手を伸ばす。天真は少し目を潤ませ、手を取る。‬


‪「ありがとう……圭太」‬

‪「圭だ」‬

‪「圭か……ありがとう……圭」‬

‪社神は二人の様子を見て、涙を流す。古では見れなかった光景が、時を越えて実現する。夢のような話。‬


‪「社神」‬

‪天真は社神の方を見て、彼女の名前を呼ぶ。社神は天真の、かつてのままの姿を見て、安心する。‬

‪「ありがとう……そして、本当に、不甲斐ない主で申し訳なかった」‬

‪天真は社神に謝罪をする。‬

‪「そんな!わたくしの方こそ……天真様が苦しんではるのに気づけなくて……」‬

‪「そんなことないさ」‬

‪天真の笑みは、圭太そっくりだった。鈴は天真と社神のやり取りを見て、そう思った。‬


‪「感動の再会は終わったかよ」‬

‪蛟はパチパチと手を叩きながら、そう悪態をつく。蛟こそ、天真を乗っ取り、圭太を殺した張本人である。‬

‪「ふぁ……」‬

‪酒呑童子は、呑気に欠伸をしている。‬

‪「で?今決着つけるか?」‬

‪長い舌をチロチロ出しながら、蛟は笑う。‬

‪「蛟……」‬

‪圭は鈴をかばいながら、蛟を睨みつける。‬


‪「おれの目的は知ってるやろ、かつて神子だった己なら」‬

‪酒呑童子は霰の方を指差し、そう告げる。‬

‪「……?」‬

‪「ははは、そうか、お前は何も知らされてなかったのか、哀れよの」‬

‪あざけ笑う酒呑童子に、霰は腹を立てる。‬

‪「何の話だよ」‬


‪「おれはずっと、お前の体に干渉してた」‬


‪霰はシダの記憶を思い出す。レン以外にもう一人、シダに干渉し、コバを誘発した何かがいた。それが酒呑童子だと、言う。‬

‪「黄泉の門を開けさせたのもおれだ」‬

‪蛟はニタニタと笑いながら、酒呑童子の話を聞く。‬


‪「おれは、ずっと弟を探してた」‬

‪酒呑童子は、そういってこちらにやってくる。‬






‪「茨木童子、お前のことをな」‬

‪酒呑童子は鬼人を指さし、そう言う。‬

‪「は……?」‬

‪「母上はおれを産んだあと、消えてしまった。だからおれは死んでからも、母上の行方が気になって、思念となりて母上を探した」‬

‪京の噂で、鬼の赤子の噂が流れる。‬

‪酒呑童子はそれで、母の行く末を知る。‬

‪「茨木童子、母上はお前を産み、人間に殺された」‬

‪「オレは、茨木童子じゃ、ない」‬

‪鬼人はそう言いきる。‬


‪「母上は封印を施したようじゃ」‬

‪酒呑童子はそう言うと、何かの呪を唱え始める。‬

‪唱え終えると、鬼人は倒れる。‬


‪「鬼人!大丈夫か!おい!」‬

‪霰は鬼人のもとに駆け寄り、呼びかける。薄く目を開く。‬

‪「鬼人……」‬

‪霰はバンっと跳ね除けられる。とても強い力で、霰は鳥居にぶち当たる。‬

‪「き……び……」‬



‪「おかえり、茨木童子」‬

‪酒呑童子は、にっと笑う。‬



‪「ただいま、兄様」‬

‪緋色の髪が、揺れる。‬

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