異変
若干ホラー描写
「あー!」
圭の大きな叫び声が響く。
なんだよ、うるさいな。
ただでさえ日光がジリジリと照りつけるのに。
「お前らよく平気な顔してんな…」
霰はそう言って香織と鈴の方に目をやる。
「んー、そりゃ暑いけどさあー」
「これくらいなら、へっちゃらよ♪」
ルンルンと鼻歌を歌いながら山を登っていく。
「チェックポイントはこっちだぞー!」
先生の声が聞こえてくる。
「はーい!6班到着したよ!」
「班長点呼!」
班長の香織が前に出てくる。
「初田霰」
「ん」
「火山圭」
「はい」
「青山鈴」
「はーい!」
「全員いました。次のチェックポイントはどこですか?」
香織は凛とした声でそう答えた。
「お前たちが最後の班だ。
次は、4キロ先にある歩道に菅野先生がいる」
「菅野かよージュースくれなさそう」
「初田、お前だけ無しだな」
「ひどくね?」
そんな他愛ない会話をかわして、次のチェックポイントに向かう。
「旅館って山の麓だったっけー?」
鈴のおとぼけ発言が始まる。
「うん、そうよ。まさか忘れてたわけ?」
「だってこんな登らされるなら、頂上なのかなって思って!」
香織はふふっと手を口に被せながら笑う。
「オレらだけ頂上だったりしてな!」
圭も鈴の話にのっかる。
「圭、お前だけ山に残れよ」
「てめー!お前も道連れに決まってんだろ!」
元気出るのかよ、とツッコミを入れてやった。
「ねえー、長くない?」
「もう一時間は歩いてるわね…」
そうだ。たしか4キロ先だと先生は言っていた。
なのに菅野どころか人の姿さえ見えない。
「さっきまで暑かったのに、急に冷えこんできたしな」
圭はそういって眉を歪ませる。
「オレらが道間違ってるのか?」
霰は怪訝そうに問う。
「うーん、でも地図の通りなのよ、ここ」
「ここに菅野がいる筈なんだよね?香織」
「そうなんだけど…」
皆の表情が雲る。
「なあこれ、霧出てきてね…?」
圭がそう言ってから、皆気づいた。
「気味悪い…早く菅野のとこ行こうよ!」
鈴が半泣きになりながらそういう。
「そうだな…俺とりあえずそこらへん見てくるわ」
なんだよ…ここらへんほんとにフィールドワークの道か?
少なくとも人が通れそうな道じゃねえぞ。
そう悪態をつきながら、ザクザクと土を踏みつけ歩いていく。
「あ?なんだここ」
霰の声に反応した圭が走ってくる。
「なんだよ、大声出して…」
圭は目の前の景色に絶句する。
「ねえ、何二人共立ち止まってるの?」
「そーだよー!驚かさないでって言って…」
「ここ…一体なんなんだ?」
目の前には、村があった。
ここに来るまではただの獣道だった。
そんなところに、人が住めるというのか。
「ねえ…これっておかしいよ」
鈴が怖さを押し込め、ようやく声を出す。
「大体こんなところに村なんてなかったはずよ。ほら、パンフレットにも載ってないわ」
冷静沈着な香織でさえ少し焦りを感じていた。
「おい圭、お前確かスマホ持ってきてたよな。
菅野に連絡しろ」
「わかった…あれ?繋がんねえ…なんで…?」
タン、タン、とタップをしてみても、全く反応しない。
「電源すら入んねえ。圏外でも、電源は入るはずなのに」
イライラしながら、何回もタップする。
「困ったな…俺らは皆スマホ預けてきたし…」
「日、暮れてきたね…」
途方に暮れるとは、まさにこのことを言うのかもしれない。
「やっぱりおかしいよ。ほら見て?
暗くなってきたのに、光すらつけてないんだよ?」
鈴が村の方を指差す。
「人、住んでないんじゃないかな」
香織は視線を落としたままそう返す。
「とりあえず、さ、どうすんの?」
圭がそういってしゃがみこむ。
「村に入るのはどう考えても危険だろ…
でも、キャンプするような道具も…」
と、そこまで言いかけて目を見開く。
「なあ皆何持ってるんだ?
俺は…水筒と、消毒液と、あとガムだ」
「私は…水筒と、ばんそうこうと、筆記用具」
「オレはスマホと水筒と…あっペンライト」
「私は、マップと、水筒と、砂糖氷」
香織の砂糖氷という言葉にびっくりした。
「なんで、砂糖氷?」
「甘いの、好きなのよ。疲れたときに食べれるかなって…」
聞いて、今使えそうなものは、ペンライトだ。
でも、何か知らせる用には使えないだろう。
いちかばちか。
「俺、村見てこようかな。
やっぱり訳ありな気がする。こんなタイミングに怪しげな村なんて出てこないだろ?普通」
「いや、でも霰だけじゃ何かあったときに助けに行けない。私も行くわ」
俺に続いて香織が続く。
「オレも行く」
「じゃあ、私も行くよ!
一人でこんなところ嫌だし…それにもうこれ以上、はぐれたくないじゃん」
その通りだ。たしかに四人全員で行った方が安全かもしれない。
「なら行こう。先頭は俺が行くから」
少しずつ、少しずつ歩いていく。
人どころか、明かりもない村の中を。
不自然なのと同時に、どこか怖さが押し寄せてきた。
「ふう。何にもないな。どうする?戻るか?」
思った以上に何もなかった。
「うん、ゆっくり戻…」
ガツンと、香織が何かに足を引っ掛ける。
「ねえ、これ…照らしてみて」
圭は言われた方に光をやる。
「うっうわ!!なんだ…これ…?」
大きな石のようなものには、『湯ノ神村』と書かれていた。
「なにこれ…村の…」
「この村、この石の状態からすると、もう何年も前に廃村してるのかもね」
そういって石に触れようとしたとき、
香織は呻くようにして倒れた。
「香織!?おいしっかりしろ!香織!」
そう言った瞬間、霰自身にも激痛が走った。
「霰!?お前もか!おいどうした!?」
あの先まで元気であった圭ですら泣きそうになっていた。
「も…モモ…シ…ダ……?」
そう霰は継ぎ接ぎの言葉をもらし、意識が途切れた。