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桜舞い散る頃に…  作者: 彩莉
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19/30

生きろ

「お、起きたか」


香織が目を覚ますと目の前には霰がいた。

「皆は?」

「向こうの部屋にいるよ」

香織は起き上がり、ぐっと腕をまっすぐに伸ばす。

「久しぶりにこれだけ寝たわ」

「そりゃよかったな」


香織と共に部屋に戻った。

「あ!香織おはよー」

「おはよう」


鬼人は香織を姿を見ると立ち上がり、頭を下げた。

「すまない香織」

「……いいのよコバ」

香織の言葉にキョトンとする皆を見た鬼人は訂正する。

「そうか……ああ、今は鬼人って呼ばれてる」

「鬼人……あなた」

鬼の人と書いて鬼人。時を重ねても鬼という字に縛られ続けている。

だが鬼人は気にしないようになっていた。


「ちょっと、いい?二人で話したいことがあるの」

香織は鬼人と共に席を外した。

「霰、ヤキモチやいてんのか?」

「うるせえ馬鹿」

「馬鹿って言ったぞこいつ!」

圭にからかわれ霰はキレる。

「圭のばーか」

「鈴まで!?一夜なんとか言ってくれ」

「どんまい圭君」

「ひでえ」



「話って?」

「謝っておきたくて。モモはあのあと結局シダとコバに会えなかったから」

「……あのあとモモは?どうなったんだ?」

「ユウとリコは逃がすことが出来た。でも……」

香織は少し顔を下げて黙りこむ。

「ん?」

「モモは最期に、海の中に飛び込んだの」

「なん、で」


モモが自殺?そんなことはない。そう思いたかった。

かつてのまま生きているのはオレだけで、神崎もモモもシダも輪廻転生しているからか、三人の過去への思い入れは薄いのかもしれない。

だがオレは違う。オレは村人の言うとおり、鬼だった。オレ一人当時と変わらず生きのびている。

そのせいか、ただの過去とは捉えられない。


「わからない……でも笑ってた」

「笑ってた……?」

「シダが人を殺したり、ユリがシダを殺そうとしたりしてたでしょ?そのことへの責任をしらずしらず背負ってたのかもしれない」

そして、全てが終わったとき、解放されたかったのかもしれない。

香織はそう語った。


「でも、モモは生きてたの」

「飛び込んだんじゃなかったのか?」

「そう、飛び込んだのに。生きてた」

「それで、モモは山の中の神社に向かった」

さっき神崎たちがいた神社のことだろう、と推測しながら話を聞いた。


「そこからは覚えてないの。でもモモにはシダみたいに干渉される人物なんていなかった」

つまり、身体を干渉されたわけでもなく、意識が飛ばされた。

そして生まれ変わり香織として生を受けた。

「さっきまでその夢を、見てた」

香織は寝ていたときにその記憶を見たと言った。

「わかった。心当たりがあれば香織に伝える」

「ありがとう、じゃあ戻ろう」

「霰には伝えなくていいのか」


香織はにこっと笑った。

「うん、これ以上心配かけられないわ」


そう言うと、香織は部屋に戻った。


「かなわないな、昔も今も」



「香織、鬼人君と何の話してたの?」

鈴は香織に問う。

「そら男と女が話すことって言ったらなあ」

「神崎表出ろ」

「霰君怖い」

冗談や、と笑いながら霰に手を振る。

霰はむすっとしてあぐらをかく。


「私が倒れてたときにおぶってもらってたから、重くなかったかどうか聞いてたのよ」

「そんなん俺もおぶってただろ」

霰は少し顔を背けて言う。

「そうね」

香織は霰の元に歩いていく。

「ありがとう」

そういうと霰の額に口付けをした。


「許す」

そういうと霰は香織にキスした。


「何を見せつけられてるんだ!オレたちは」

圭はそう言いながらも鈴の方に目をやる。

「……しないよ?」

「ですよねー」

圭は目の前の香織と霰の関係を目の当たりにしながら、呆けていた。

「二人共積極的やなあ、鬼人君はええの?」

「……オレは二人が幸せならいいんだ」

少し顔を緩ませ、微笑む。


「そういえば天真と社神、どうして生きてたんだ?」

「オレは女の方しか会ってないが……あの感じは、不死者に近い」

「ふしんしゃ?」

圭はまた素っ頓狂なことを言う。

「黙れ馬鹿」

霰に睨まれ、圭は黙る。

「多分、今まで生まれ変わることもなく生きてる」

「じゃあ正真正銘の生身の人間ってこと?」

鈴は天真を殺せなかったことへの疑問からか、そう尋ねた。


「人間かは怪しい……だがおそらくな」

「鬼人と同じってこと?」

圭は早くも黙るのを忘れて問う。

「うん、オレも奴らも直接致命的な傷でも負わない限り死なないから、寿命はないに近い」

鬼人は鬼だった。ということは社神や天真もその類なのだろうか。


「でも圭太は人間だった……てことは天真だけが特殊なのか?」

「そうか、その男は圭の前世と縁があるのか……わからない。もしかしたら後天的な何かかもしれない」


「一夜君、あのときの言葉……」

鈴は神崎に尋ねる。


「うん、俺は当時の天真のことがわからへんからあない言うてんけど」

「天真は社神とは違う。何かが違うかった」

「もしそれが本当なら、オレたちが見た女とは違うものがあるのかもしれないな」

鬼人は神崎の話を聞いた上でそう言った。


その後しばらく語った後、六人はそれぞれの部屋に散った。

「鬼人君も男部屋な」


「しっかし鬼人と一夜は物知りだなー羨ましいぜ」

「お前が馬鹿なんだよ」

「生きてる年数が多いだけだ」

鬼人はふふっと笑う。


「オレは弱いからわかんねえけど。他人と違うって怖いのかもな」

「え?」

鬼人は圭の発言に耳を傾けた。

「だって、オレだけがほかの人と違うなんて言われたら、なんか寂しくなると思うんだ」

「寂しい、か。そうだな」

オレはモモやシダと会うまでずっと生きてることに実感がわかなかった。それは寂しさ故に感じた辛さだったのかもしれない。


「社神も天真も敵だけど、そういうこと考えたりして、辛くなってないか心配なんだ。

おかしいよな、敵なのに。オレの前世は天真……兄ちゃんに殺されたのに」

「……」


「あんま深く考えんな」

霰は圭の頭をわしわしと撫でた。

「お前は優しすぎるんだよ」


「お前もだぞ、鬼人」

霰は鬼人にビシッと指を指す。

「お前は頭いいけど考えすぎ」


「じゃあ霰はどうするんだ?次二人が迫ってきたら」

「俺は…」


「お前らに何もしないなら俺も何もしねえ。お前らに何かしたなら戦う。シンプルイズベストだ」


鬼人は香織の言葉を理解した。


「なら、霰は背負いすぎだ。オレにも背負わせてくれ」

「そうだよ、オレもそうする!」

仲間って、そういうもんだろ?


「オレ、天真が優しいやつならいいなって思うんだ」

「もし優しいやつなら、今度こそ仲良く兄弟になれるだろ?」




「圭太……」

「天真様?」

「俺はどうして圭太を、殺したんだ」

「大切な弟だったのに、俺のことを慕ってくれていたかわいい弟だったのに」

「天真…様……?」

社神は天真の異変に気づく。

「そう、お前がかわいがっていたから殺したんだ」

「何言ってはるん……

「俺はお前が憎い、俺はお前が大嫌いだ……そうだな、次は生まれ変わりの方を殺すか」


「あんたはんは誰ですの……?」

「天真だけど」

「違う、天真様は……こんな方じゃない」

「千年前から共にいるだろ」

「!……いいえ、一度だけ天真様と離れたときがあった。蛇退治の時、天真様は私を置いて一人で討伐に行かれました。それからつい先日まで、会えなかった……」


社神は最悪の事態に気づく。

「まさか、天真様のフリをしていた……あんたはんは……あのときの大蛇とちゃいます?」



「はは、遅いよ」

拍手をしながら社神のもとに近づく。


「俺は大蛇ではない、蛟だ」

「蛟……!?」

「あの日俺に挑みにきたのはこいつだった。俺を穿ったあと、こいつは俺の身体を池に沈めやがったんだ」

「腹がたったから舌を伸ばして丸呑みしてやった。そして俺はこいつの身体を使って、天真として屋敷に戻った」


圭太を殺し、鈴羽を怒りに染め上げた張本人は天真の皮を被った化物だった。


「お前は天真と一番仲が良かったからな。お前を殺すのは最後だ、だがその前に圭太の生まれ変わりを殺す」

「そんな、天真様はもう……」

「そういえばお前は狐憑きの末裔か、お前に憑く狐と俺は変わらんだろう」


「もう黙ってください」

「……社神逃げろ」

天真の声が聞こえる。

「くそ、また出てきたな。お前はもう用済みだ」

天真と蛟の魂、二つの魂が存在している。

天真はまだ消えていない。僅かなれどその可能性を信じる。


「鈴羽……俺はお前の妹には合わせる顔がない」

「兄弟、姉妹がいがみ合うのは滑稽だったな」

「だまれ化物、貴様のせいであまたの命が奪われてしまった」


「天真様……」

「社神、鈴羽の生まれ変わりのもとへ行け、お前は鈴羽の姉だ。兄弟ってのは似るらしいな」


圭太が拾ったのは生き別れの妹。

天真が拾ったのはその姉。


「鈴羽がわたくしの妹……?」

「本当にすまなかった、俺は最後まで中途半端だった」

社神は首を横に振る。

「今までありがとう。それと圭太にはこう伝えてくれないか?お前を嫌ったことは一度もなかったと」

「うるさい、俺が殺す、お前の仲間は俺が全部潰してやる」


社神は走り出す。

このことを早く知らせなければ。わたくしはなんてことを……。



蛟に意識を乗っ取られながらも天真は呟く。


「生きろ社神」



振り返ると、懐かしい笑顔が見られた。


「う……ぅ……ぅう……」

泣いてはいけない。天真はじきに蛟に乗っ取られる。その前に圭太に伝えなければいけない。かつての生き別れの妹、鈴羽にも伝えなければいけない。




「天真様……」

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