表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桜舞い散る頃に…  作者: 彩莉
17/30

過ぎた力

ちょっと後半注意

‪霰は香織を肩に担いで鬼人と山を降りていく。‬

‪「しっかしよく寝てるなあ」‬

‪霰は香織を見ながらそう言った。‬

‪「ま、いいか。山降りたら神社があるからそこ行くぞ鬼人」‬

‪「ああ。わかった」‬


‪ー‬


‪「あれ?ここで行き止まりやな」‬

‪山の中腹まで登ってきた神崎たちは行き止まりに差し掛かっていた。‬

‪「うーん、でも山頂じゃないよね」‬

‪鈴は他に行けそうな道がないか探す。‬


‪「霰たちを攫った奴はどうやってここ通っていったんだろうな」‬

‪圭は不思議そうな顔でそう呟く。‬

「裏道とかあるんかもなあ、あんまりゆっくりしてられへんし」

神崎はいそいそと当たりを見渡しながらそう返す。


「あ!ここ通れそうだよ」

鈴が見つけた道はえらく小さな洞穴のようなところだった。せいぜい一人入れるかどうかといったところだ。

「おい……ここしかねえのか」

圭は微妙な顔をしてそう言った。

「うーん、ものは試しやな。俺入ってみるわ」

そう言って神崎は洞穴に入っていった。しばらくして中から神崎の声が聞こえてきた。


「二人とも来てー」

「じゃあ俺入るわ。鈴も後で来いよ」

そう言って圭も洞穴に入っていく。次に鈴も入っていく。三人とも洞穴をくぐり抜けると、広い道が広がっていた。


「ここを突っ切って行けば霰たちに会えるっぽい?」

「そやな。とりあえず登ろ」

三人は広い道を登って行った。しばらく登ると、廃れた古い建物が見えてきた。灯籠や色が落ちた鳥居があるところを見ると、おそらく廃神社だろう。

「こんなところに神社があったっけ?」

「フィールドワークの地図にもなかったよねー」

圭と鈴は修学旅行のために配られた、この山の地図を思い出しながら話し合った。

「うーん、俺もここが地元やけど、こんなとこに神社があったんは初耳やわ。そんな前の神社なんかな?」

神崎は首を傾げてそう言った。この山の麓の神主である神崎が存在を知らない神社、というのは少し不気味な気がした。


「神社を通っていかないと通れなさそうだぞ、上まで」

「圭君、ちょっと静かに。向こうに人がおる」

この廃神社に誰が来るんだよ、と言いたいのを抑え、圭は神崎の言うとおりに黙る。

圭の思うとおり、こんな洞穴をくぐり抜けて入るような道の先にある神社に、それも廃れた廃神社に来る人はそういるものではない。

神崎や鈴もそこまで考え、会話を一旦止めて三人は深く茂っていた草の影に隠れた。


神社の敷地内には人が二人いた。女と男だった。

「天真様何探してはりますの?」

女は男を天真と呼び、呼びかける。

「うん、まあ大したものじゃないんだけど」

そう言って天真と呼ばれた男は、敷地内の土を手で掘り返す。

「落し物、探してるんだ」

「あら落し物、なら探さないと。わたくしも手伝いましょうか?」

「いいよ、もう見つかったから」

そう言って天真は土の中から首飾りを掘り出した。


「何ですかそれ」

女は天真に尋ねる。天真は怪しく笑う。

「ああ、これ?」


圭はその首飾りを見て目を見開く。

「あれ、オレ見たことある……」

「え?圭が?どこで?」

鈴はひっそりとした声で尋ねる。圭は一生懸命思い出そうとする。

「そうだ、夢で見たんだ。あれは圭太が天真にあげたやつだ」

「天真にー?仲悪かったんでしょ?なんで」

わからない、と圭は言った。圭は断片的な記憶を見ただけなので、記憶はあやふやだった。


「可愛い弟がくれた大切な首飾りだよ」

天真はそう言うと、三人が隠れている茂みに近づいてくる。


「やべえぞ、こっち来てる」

圭は焦って鈴と神崎に状況を伝えた。

「天真って言ってたよね、もし気づかれたら圭が一番危ないよ!」

鈴は神崎にそう訴える。圭は自分を心配してくれている鈴を見て少し嬉しくなる。

「もし気づかれたら圭君は先に一人で霰君たちのところに行ってな」

「でも、一夜と鈴は

「俺らはなんとかするから、信じてほしい」


神崎の真剣な声色に圭は押し負ける。


『圭君、俺たちに危険が迫ったら、君は絶対逃げて』


神崎が言っていたのはこのことだったのかと納得した圭は、神崎には予見の能力があるのではないかと思った。


「気づいてないと思ってた?始めから気配でわかってたよ」

天真がニタアと笑い茂みの前に立ちはだかる。

「行って圭君!」

「おう!頼んだ!」

圭は全力で走っていった。女は天真の近くにやってくる。

「一人逃げはりましたけど、ええのですか?」

女は狐の面をつけたまま天真に尋ねる。

「うん、まあいいや」


「天真……!やっぱりあの天真だ、一夜君!」

鈴は大きな声で神崎に伝える。神崎は少し汗ばんだ手で札を取りだす。

「鈴ちゃん下がっといてな」

鈴は神崎の言われたとおり、神崎の後ろに下がる。

「さっきの子、圭太に似てたね」

「……さあ、俺は知らんで」

「俺の名前聞いて焦ってたでしょ?耳いいから全部筒抜け」

天真はそう言うと、またニタアと笑った。


「そっちの子は鈴羽の生まれ変わり?復讐でもするつもりかな」

踵を返し、鈴を見る。鈴は有り得ないものを見ているような顔で天真を見つめる。

「君甘いよ、俺あんなんじゃ死なないから」

あのときの姿のまま、天真は目の前にいる。その事実に鈴は混乱していた。


「懐かしい面子やねえ、そこの色っぽい兄ちゃんはお初にお目にかかります」

はんなりとした声で女は囁く。神崎は寒気を感じ、ばっと女から離れる。

「なんや……この気配、吐き気がする」

神崎は今までにないほどの嫌悪感に包まれる。

「えらいことを言いはりますなあ」

「神様にも嫌われてるみたいでね、俺らが来たら神様は消えちゃったよ」


神殺し。神崎はかつてのレンの話を思い出す。

だがレンの魂にはこれほどの嫌悪感は湧かなかった。別格だ。目の前にいる二人は相性が悪すぎる。

「ちょっと荷が重いなあ」

神崎は苦笑いしながら、後ろの鈴に目をやる。鈴も焦りと恐怖を感じているような表情で、後ろに立っていた。


「門開けてくれてありがとう」

天真は二人にそう言う。

「門……?」

「ああ、別の人が開けたのかな?」

へらっと笑いながら女の方に目をやる。

「社神はどっちに行きたい?」

社神と呼ばれた女は天真の方に歩いていく。

「わたくしはあの逃げた男の子が気になります」


「じゃあ俺はこの二人に聞きたいことがあるから、そっちは頼んだよ」

社神の肩をポンッと叩き、天真は前に出てくる。

「ほなまた会いましょ」

社神はそう告げると、去った圭を追う。



「まあそんな緊張しなくていいよ」

こわばった顔をする鈴と神崎に天真はそう言う。

「いやあ、あんた聞いた話やとそうとう恐ろしい人らしいから」

神崎はさっき出した札をまだ握りしめていた。

使う間が掴めないほど、張り詰めたこの場は心知れず寒いと感じられる。


「そうなの?」

「圭太を瀕死にまで追い込み、息の根を止めたのも天真でしょ?」

鈴は神崎の後ろからひょこっと顔を出して言う。

「ん、それはついでだよ、ついで」


人一人を殺しておいてついでなどと言う目の前のこの男は、嗤った。

目の奥は何を見ているのかわからない。何も読めない。不気味な笑い。


「ついでって何?」

鈴は怒っていた。神崎は怒る鈴にも、笑う天真にも恐れを感じた。

「……秘密。俺の私怨」

兄が弟を殺すなんて言うのは、あの時代なら珍しくはなかった。しかし直接殺す、自らの手を汚すようなやり方で弟を殺したのは天真が初めてだった。


「目的は?」

神崎は天真に問う。

「特別に教えてあげるよ」


「俺の目的は圭太を奪うこと」


鈴はその言葉を聞いて短刀を出す。

「鈴ちゃん!」

「圭に手を出すのは許さない」

浮かび上がった短刀は天真めがけて飛んでいく。


刹那、短刀は止められた。天真によって。

「おーすごいすごい。進化したね鈴羽」

「な……何それ……」


天真は短刀を自らの舌で巻きとり、食べてしまった。

「もう効かないんじゃない?」

神崎は天真が攻撃の仕組みを知っていたことに驚く。

「ただの人間じゃない……」

「お互い様でしょ」

長い舌をシュルシュルと元に戻す。


「んーでも殺す気はないから、そんな気張らなくていいよ」

完全に相手にされてない。そう感じたものの、鈴の攻撃はもう効かないし、もし神殺しなら神崎の攻撃も跳ね返される可能性がある。


「あっちはどうなったかなあ」



「くっそ!霰ー!香織ー!どこだよー!」

圭は叫びながら走る。

「あっ圭」

そこにいたのは香織だった。

「おー!香織!よかった、オレお前と霰探しに来てたんだよ」

圭は香織に駆け寄り、話しかける。

「よかった、私も圭に会いたかったんだ」

「?おー、霰連れて戻るぞ」

香織は後ろから圭を抱き寄せる。


「おい、お前寝ぼけてるのか?オレ圭だけど」

ぐいっと押そうとするが、香織は離れない。

「間違ってないわよ……だって」





「折角会えたのに逃げるなんて興ざめですやろ?」

「っお前!天真と一緒にいた女かっ……!」


香織に化けていたのか、騙された……!

圭は後ずさり、社神を睨む。



「ほら、わたくしと遊びましょう」

狐の面をとり、圭の前に詰め寄る。


「くっ、霰と香織はどこだよ!」

圭は社神に怒り混じりに問う。

「わたくしは存じ上げません。姿を借りただけ」

無事でいてほしい。

こんなところで足止めされてる場合じゃねえのに……!

圭は焦りながら社神と対峙する。


「ほら、宴の始まり始まりい〜」

酔狂な舞を披露し、圭に近づく。



「燃えゆくは〜命の灯火人の業〜」

「なんだよ、それ……タンクか?」

「もしかして短歌のことおっしゃってますのん?

これはただの文字合わせの歌……ふふ、あなたも酔狂なお方やねえ」

「うるせえよ!馬鹿で悪かったな」

少し恥ずかしそうに圭は怒鳴る。


「わたくしあなたのこと気に入りましたわあ」

「オレは気に入らねえよ!」


「わたくしらの仲間になりませんこと?」

社神は圭の唇をなぞり、耳元で囁く。

「はあ!?嫌だよ、オレお前らのこと嫌いだし」

圭はそう言うと顔を歪ませた。

社神は怪しく笑った。圭にはそれが少し恐ろしく感じた。


「いずれこちらに来はるやろうなあ」

「だからねえよ!」

「今は、言うこと聞いてほしいから……

ちょっと強引になりますけど、ごめんあそばせ」


社神はそう言うと圭に口付けをした。

圭は突然口を塞がれ戸惑う。

「……!!…!!」

「あなたの思考力……今は邪魔やから、わたくしがいただきました」

圭の思考力はどんどん奪われていく。目の前の社神が敵か味方かさえわからなくなる。


「あなたはしばらくわたくしの傀儡。あなた、わたくしの好みやから……たくさん可愛がってあげます」


虚ろな目になった圭の頭を撫で、耳元で囁いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ