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桜舞い散る頃に…  作者: 彩莉
15/30

古の友人

‪「圭……」‬

‪「どうした?鈴」‬

‪鈴は目をぐっと瞑ってから、圭の方を向いた。‬

‪「あの後のことを伝えたいの」‬

‪あの後、つまり鈴羽が失踪した後のこと。‬

‪鈴の話によると、鈴羽はそれから自らの腹を短刀で切り裂いて、圭太の遺体に寄り添いながら死んでしまったらしい。‬

‪その場所があの、桜の木の下だったという。‬


‪「しっかし前世かあ。オレら四人はなんか不思議な縁を持ってるんだな」‬

‪「霰と香織の前世見たかったなー!」‬

‪「五人よ、神崎も私たちの前世と絡んでたから」‬

‪香織の言葉に少し驚く圭。‬

‪「あ……痣無くなってるぞ」‬

‪圭と鈴は身体を見て、確認する。‬

‪「俺が、鈴ちゃんが意識戻したら痣がなくなるようにしといたんや」‬


‪なるほど。あのときかけていた術か。神崎は案外念入りなだけではなく、強力な力を持つ神主なのかもしれない。‬


‪「ゲームで言うたら、僧侶ってところや」‬

‪「宗教違うけどな!」‬

‪圭にツッコまれ、神崎は本当だとでも言いたげな顔をした。‬

‪「とりあえず一件落着ね」‬

‪香織がそういって、笑顔を見せた。俺は昔からこの笑顔には弱い。‬

‪「時間旅行した気分だ~」‬

‪鈴はいつも通り呑気にそう言う。‬

‪「やっぱり俺含めて、皆そういう縁があるんやな」‬

‪うんうん、などと自分で言っておいて相づちをうつ。神崎が神主というイメージが、いまいち出来ないのは何故だろう。‬


‪「そういうことで、明日から皆で特訓しよ」‬

‪パンッと手を叩きそう言った。‬

‪特訓?何のだ?‬

‪「君らはこれから先、色んな人の記憶や陰の気に飲まれるかもしれやんから。それを防止するために色々練習してもらうで」‬

‪ようはここ数日で起こったことへの対処法を教えるというわけか。‬

‪「練習って何をするの?」‬

‪香織は不思議そうに尋ねた。それはほかの三人も同じだろう。‬

‪「圭君と霰君は秋野についていって」‬

‪神崎がそう言うと、秋野は部屋に入ってきた。‬

‪「こんにちは、若、この二人ですか?」‬

‪「うん、頼むわな」‬

‪圭と霰はペコッとお辞儀をして、秋野の後ろをついていった。‬


‪「鈴ちゃんと香織ちゃんは、俺が教えるわ」‬

‪そういうと、神崎は着物をしゃんと直して、立ち上がる。‬

‪「俺なあ、鈴ちゃんの前世の記憶は知らんねんけど……おそらく香織ちゃんと似たような結末やったんかな……って思ってるねん」‬

‪「香織の前世と?」‬

‪神崎のフリのせいで、香織は話すハメになってしまった。‬

‪「うん。私の前世はね……霰の前世を庇って一人死んだの」‬

‪鈴は手を口にあて、黙って下を見た。‬

‪「うーん。ちょっと……違うよ。鈴羽は圭太を殺した天真に復讐をして自害した」‬

‪圭太の実の兄を直接ではないけれど、殺してしまった。と悲しげな目で語った。‬


‪「そうかあ。ごめんな、ありがとう」‬

‪神崎は鈴の肩をポンッと置いた。‬

‪「神崎、その傷……」‬

‪香織は神崎の傷を見てそういった。‬

‪「これは古傷や。俺の身体は記憶だけでなく、傷も一緒に負うみたいやな」‬

‪恥ずかしいわ、と笑っていたが目の奥は静かにどこかを見据えていた。‬


‪「特訓しよって言うたけど、この力は普通の人には見えへん類のモンを倒すための力やねん」‬

‪つまり彼岸に近い『何か』を倒すための力ということ。‬


‪「そのためには何をするの?」‬

‪「俺は会ったときに人の『気』を見るねんけど……オーラみたいなやつな」‬

‪それを見たときにこの二手にタイプが分かれていると気づいたと、神崎は言う。‬

‪「霰君と圭君は身体に力を纏うタイプで、香織ちゃんと鈴ちゃんは別の媒体に力を纏うタイプやな」‬


‪「武闘家と魔法使いといったところかしら?」‬

‪神崎みたいにいうなら、と香織は言った。神崎は首を縦に振る。‬

‪「イメージできたらここからは早いから」‬

‪神崎はそういってニコッと笑う。‬

‪「言うより慣れろやな。とりあえず俺にむかってなんか当てるイメージしてみて」‬

‪そう言われたので、二人は想像してみる。‬

‪「おおー、鈴ちゃんは短刀で、香織ちゃんは針か」‬

‪神崎はそう言いながら短刀と針を掴む。そして短刀と針を食べはじめる。‬


‪「え!?一夜君何食べてるの!」‬

‪鈴もびっくりしている。‬

‪「一回食べたらその相手の攻撃は効かへんねん」‬

‪「そうなの、なら私たちも」‬

‪香織がそう言うと、神崎は手をぴっと出す。‬

‪「あ、俺のは特殊でな。食べやんでもいけるねん」‬

‪そんなタイプもあるのかと納得して、香織は畳の上に座る。‬

‪「ほんまはこれ出せるようにするのが特訓やってんけどな。二人共もう出せるみたいやし、今日のところはこれで終わり。おつかれさま」‬


‪そう告げると、神崎は自分の部屋に戻っていった。‬


「案外早く終わったね、どうする?」

鈴が尋ねると香織はにっと笑う。

「圭と上手くいってよかったわね」

「ひゃ!?そんなことないよ」

顔を真っ赤にしてそう答える。しかし顔が赤いことがその証拠だ。

「ねえ、香織はどうなの?」

鈴は恥ずかしさを紛らわせたいのか、そう聞いてきた。

私は霰のことが好きだ。でも今まで色々あって忙しかったからなかなか伝えられない。

修学旅行の前の日だって、はぐらかしてしまった。霰も私に好意を持ってくれているのはわかる。その気持ちに甘えてしまっているのかもしれない。


「ありがとう……私は、どうだろう。霰のことは好きなの。でもたまに遠い気がするの」

今は小さい背中だけど、いつかは大きな背中になるだろう。私はその大きな背中を追いかけるだけなのかな。

香織はそう考えると、少し胸がつらくなった。


「私も、圭のことが遠い存在に見えるときがあるよ。太陽みたいだな、私はこの人の光に照らされて生きてるみたいだなって」

鈴もそんなことを思っていたのかと少し驚いた。

香織にとって二人は明るい太陽のようだから。


「でも、圭しかいないんだよね。私には」

鈴は照れくさく笑った。

「私も、霰しかいない。考えたって仕方ないわよね、私霰に今度伝える」

頑張れ、と優しく小突かれて香織は笑った。


「はああ、疲れた」

そう言いながら襖を開け、圭が入ってきた。

「あれ?霰は?」

「霰は残って聞きたいことがあるって、だから先戻ってきた」

そう言うと机に置いてあったお茶をがぶがぶ飲む。稽古中にかいたのであろう汗が滴り落ちる。


「私、霰にタオル持って行ってくる」

そういって香織はタオルを手に持ち、部屋を出た。

「頑張れ、香織」



「なあおっさん」

「おっさん…!?俺はこれでも28だぞ」

「俺はまだまだ弱い。でも仲間を守りてえんだ。もっと強くなりてえ」

霰がそう言うと、秋野は愉快そうにはっはっはと笑う。

「その心意気なら、お前は大丈夫だ。それにな、皆それなりに強いんだ。お前一人が背負い込むな。若や圭がいる。女の子たちも強いさ」

ワシワシと霰の頭を撫でる。霰は少し照れくさそうに手を振り払う。


「ほら、心配して迎えに来てくれてるじゃねえか。今日はもう戻れ」

香織が部屋の外からちょこんと覗いていた。


「……香織」

「お疲れ様」

香織は霰にタオルを渡す。霰は少し嬉しそうに受け取る。

「サンキュ。……あー、俺汗臭いから離れといた方がいいぞ」

「ううん、そんなことないから」

緊張でどうにかなりそうになりながら、圭たちの元へ戻った。


「おかえりー」

「おー、二人共おつかれ」



「圭君と鈴ちゃんの件は予想外やったな。思ったより早く会えそうやな」


一人呟く。蝋燭の火が揺らぐ。手元にある紙を拾い上げ、目をやる。


「次はコバ君……か。これはこれは……」


『一宮鬼人。京都第五収容所から脱走中。現在京都の山奥に入ったとの情報が寄せられている。』

紙にはそう書かれていた。

「山奥ね……向こうから会いに来てくれるんか?」


紙を火で炙り、揺らめく火をぼんやりと見る。


「元気そうで何よりですよ、コバさん。二人も喜ぶでしょうね」

「若」

秋野に呼ばれ、我に帰る。

「秋野、今日はありがとうなあ」

「いえいえ、顔色悪いけど大丈夫ですか?」

幼少の頃から面倒を見てくれていた秋野には、見透かされてしまう。


「ううん大丈夫やで、じゃあ俺皆のとこ行くから」


そういって席を立ち、霰たちのいる部屋に戻る。


そこには負傷した圭と鈴がいた。

霰と香織の姿はない。そして雨戸が蹴破られていた。

「一夜……」

「霰と香織が、連れていかれちゃったの」


「二人が?」

先ほど目にした紙の内容を思い出す。一宮鬼人。おそらくコバの生まれ変わりだ。


「ごめん、攻撃したんだけど……全く歯がたたなくて」

「一夜君……私たちのことはいいから二人を探して」

「……すまん、じゃあ俺は二人を探してくる。手当ては秋野に頼んで」


俺の失態や。もっと早く自室に戻れていたら注意くらいはできたかもしれへんのに。

そう自分を責めながら、神崎は走り出す。


「冷静さを欠くと全てを失う……その通りやん」

あの二人を助けられなければ、先祖に向ける顔がない。

コバさんなら二人に危害は加えない、そう信じたい。前世の自分と思考がごっちゃになりながら考えだす。



「やっと会えたな、二人に」

千年待ったんだ。待ちきれなかった。

「約束……覚えてるよな」


青年はぽつりと呟いた。

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