火の中
「まぶしっ…」
目を覆うようにして後ずさる。
「あれ?たしかに光ってたよな」
圭の痣はまた黒色に戻っていた。
「とりあえず鈴を、探したほうがいいんじゃねえの?」
霰の言葉に、二人も賛同した。
「中学生は寝とき、言うてもきかんやろうしなあ。二人共、この前初めてここに来たときの部屋覚えてる?」
あの簾が置いてあった部屋か。
「ああ、俺は覚えてる」
「私もよ」
「なら、そこにいといてくれる?後で俺も行くから」
神崎にそう言われ、香織と霰はその部屋に向かった。
「す……」
「圭君?どうしたん?」
圭の口からこぼれでる言葉に耳を傾ける。
「鈴羽……」
「鈴羽……?誰のことや?」
ー
「ここで待ってたらいいのか?」
「そうみたいね」
そういえば色々ありすぎて気にしてなかったけど、香織の私服、久しぶりに見たな。
二人きりになり、会話が思いつかない。
「鈴、大丈夫かな……」
「早く見つかるといいよな」
「圭も倒れちゃったし……」
修学旅行の気分は抜けきっていた。初日からこんなことになるとは、俺も皆も思わなかっただろう。
「霰」
香織は霰の横に座り、霰の寝間着の裾を掴む。
「お…おお、どうした」
ぎゅっと強く引っ張られる。霰も思春期真っ只中なので、自ずと顔が赤くなる。
「私ね、修学旅行前にね……鈴と会ってたの」
「そうか、俺も圭の家に行ってた」
まあ俺は、圭に相談をしに行ってただけだけど、
と苦笑いをする。
「鈴、修学旅行のときに圭に告白するって言ってて」
「……!そうなんだ」
あいつらは両片想いだったからいつかはそうなると思ってたけど、まさか鈴から告白しようとしてたとは思わなかった。
「それなのに、こんなことになっちゃって……私、鈴や圭のためにできることが何もなくて……」
香織は涙を流していた。
圭や鈴は、俺と香織のことを心配してくれていた。二人は俺たちと会うまでこんな気持ちだったのか。
「待っとこうぜ。あいつらが俺達を待っててくれたように」
そういって香織の頭を撫でる。
「うん」
「霰君、香織ちゃん」
「神崎」
「圭君が、意識を取り戻したで」
「ほんとか!」
「よかった……」
「うん、さっきの部屋来て」
襖を開けると、圭は布団の上に座っていた。
「わりぃな、オレ倒れてたみたい」
「いいんだよ、体調は大丈夫なのか?」
「うん、それがこの気味悪い痣があるだけで、身体は大丈夫なんだ」
たはは、と圭は笑った。
「その痣、さっき光っててん。圭君心当たりない?」
「うーん……関係ねえかもしれねえけど……
また夢見てたんだよ、オレ」
「昨日言うてたやつ?」
「そう、その続きかな?えっとな……」
圭に似た着物を着た男が刺されていた。それを見た女が叫び狂い、その屋敷に火をつけた。
火をつけた女はそのまま火の中に残り、刺された男を抱きしめていた。
圭はそう話した。
「火をつけた女と刺された男か……」
霰はおぞましい夢だなと思いながら、そう呟いた。
「信じてくれるのかよ」
圭は意外そうに言う。
「そりゃー信じるだろ。つーか俺と香織も似たような体験したからな」
「そっか!サンキュー」
圭はにっと笑う。やはり圭は笑顔が一番似合う。
「その火をつけた女が、鈴に似てたんだよなあ」
圭は頭の後ろで手を組みながらそう言う。
「え?予知夢ってこと……?」
「えっそうなのか!?やべえオレ死ぬかも」
「いや逆かもしれねえぞ。昔の記憶……とか?」
昔の記憶。モモとシダのような。
「昔の記憶かー、なんか不思議な気分だな」
「昔の記憶やとしたら、何かを伝えようとしてたんかもしらんな」
神崎はしゃがみながらそう言った。
「おー、そうかも」
頭いいなあと言いながら圭はまた笑った。
香織は神崎の言葉を聞いて、閃いたような顔をした。
「ねえ、その夢の中に出てきた場所に言ったら……鈴も見つかるんじゃないの?」
「夜も明けかけてるし、俺はそこを探すのに賛成だ」
圭は急いで立ち上がる。
「え!?鈴がどっか行っちまったのか!?オレも探す!待ってろ今着替えるから」
と言って寝間着を脱ぎ始める。
「ちょっ…圭!いきなり脱がないでよ」
香織は目を背け、顔を手で覆う。
「あっ香織!わりぃ!」
と言いつつも手を止めずにいそいそと着替える。
「わかった。じゃあみんなで探そう。俺も着替えてくるわあ」
神崎はそう言って別の部屋に向かっていった。
「じゃ、私も着替えてくるわ」
「おー、俺も。外の庭に集合な」
そう言ってそれぞれの部屋に戻った。




