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桜舞い散る頃に…  作者: 彩莉
12/30

桜の木

「おーい、霰君」

神崎の声が響き渡る。

「うるせえ」

バシッと枕を投げつける。

「……!?寝起きすこぶる悪いんやな」

枕は見事神崎の顔面にヒットしていた。

「眠い」

頭をガシガシと掻きながら、あたりを見回す。

どうやらあれからずっと寝ていたようだった。

「おはよう、早速やけど君の連れ、来てるよ」


言うが早いか、連れと呼ばれた者が入ってきた。

「霰ー!おまっ無事だったか!」

「心配したんだよ!」

圭と鈴だった。

「神崎サンはああ言ってたけどよ、実は悪いなんかだったのかなって……心配してたんだ」

目の下が少し暗いのは隈だろうか。これほどに心配してくれる友達がいるなんて、俺は幸せものだ。

霰はそう思いながら、珍しく笑った。

「ありがとうな」

「そうだ!香織は?どこ?」

鈴がぴょんぴょん跳ねる。三人で香織を探してたんだから、そりゃあそうだ。


「香織ちゃんは朝早く起きてたなあ」

不思議そうな顔が二つ並んだ。

「何でだろ?」

「香織昨日まで倒れてたんだろ?な?霰」

「そうだ。俺も心配だし探しに行っ…」


「おはよう、皆」

ひょこっと縁側の庭から顔を出す。

「香織…無事で良かっ」

「かおりぃー!私心配したんだよ!よかったー!」

鈴が霰の言葉を遮り、香織に抱きついた。

「おお!香織もなんともなさそうでよかったぜ」

圭はししっと笑った。

「修学旅行、全部終わっちゃったのね」

「わりぃな……俺たちのせいで」

「は?何言ってんだよ!気にしてねーよ!」

「そーそー!二人だけだと何もできないもん」

「鈴さん……?それは一体」

それを聞いて少しだけ残念がる圭を見て、香織は少し笑う。


「そや、二人にも話しとかなな」

「ん?オレ?」

「私?」

「圭君、鈴ちゃん、君らにもあの時代と縁があってん」

あの時代。それはシダやモモのいた時代のことだろうか。

「霰君と香織ちゃんの、前の魂がな。今回の村の一件に関わっててんけど。二人にも村は見えたんやろ?」

「おう、見えたぞ!ばっちし」

「私も〜怖かったな〜」

口をいーっとする鈴。あのときは、おそらく鈴でなくても皆怖かったと思う。

「あの時代に、前の二人……つまり圭君と鈴ちゃんの前世がおったんやと思うねん」


静まり返る。無関係だと思っていた二人からすると、衝撃の事実なのかもしれない。

「実はよぉ」

圭が口を開け、話す。

「昨日旅館に帰ってから変な夢見てたんだ。

オレが着物着て、なんか倒れてるやつ」

「私も……圭に似てる男の人が刺されてる夢を見たの。縁起悪くて、言えなかった」

「気にせんでええよ。夢の話信じろって言う側の気持ちがわからんわけでもない。せやから俺は信じる」

神崎は普段の口調には合わないような表情を見せた。

「神崎サン」

「神崎でええよ、俺君らと歳同じくらいやし」


え?神崎が?

皆唖然とした。

「君ら何歳?」

「十五歳だけど…」

「タメやな、よろしゅう」

青年だと思っていた神崎が予想以上に若かった。

大人びた服装とはんなりとした話し方に影響されていたのかもしれない。

「名前はなんて言うんだ?」

圭が何気なくそう問うた。

「一夜やで」

「一夜!よろしくな」

圭はにっと笑い、手を差し出した。

「一夜君よろしく〜!」

鈴も圭の手の上に手を重ねた。


「じゃあ、君ら四人は東京戻り……って言いたいところやねんけど」

「けど?何かしら」

香織が不思議に思い、神崎に問う。

「ちょっと色々気になるところがあってな。

しばらくこの京都に住んでもらいたいねん」


衝撃的な一言だった。

「え、なんで……」

「うーん、単刀直入に言うてもいいかな?」

手を顔にあて、悩みこむ。

「いいから話せよ」

「霰、言葉遣い直さないと駄目よ」

香織に咎められ、霰は少しいじけたような顔をする。

「君ら四人、前世との縁が深く結びついてるみたいやねん」

「えにし?タニシか?」

圭のおバカ発言に四人はどっと笑う。

「圭ー!真剣な話だよこれ!」

「ふふっ圭らしいわね」

「馬鹿かてめえ」

最後の霰の一言は圭の心にグサッと刺さる。

「縁は怨にもなる。修学旅行の場所が悪かったのか、必然だったのかはわからんけどな」

「つまり、その縁が強く結びついてるから…

何か起こるというの?」

神崎のその言い回しに香織が食いついた。


「此岸から離れていってる。これは危険なことやねん」

異質な力が漂っていると、神崎は続けて言った。

「あの件は終わったんだろ?」

霰は確かめるように神崎に言う。

「霰君……何も終わってないで」

「は?」

「物語に例えるなら、第一章。いや……プロローグが終わっただけや」

プロローグ……序章に過ぎない。

その言葉は、四人の表情を暗くさせた。


「圭君と鈴ちゃんのその夢の話も気になるなあ。

もしかしたら今度は二人が霰君らみたいになるかも知らへん」

「え……?」

「霰、みたい……?やっぱお前あの後なんかあったのか!」

「というわけでや!東京に帰られたら護れるもんも護られへんくなる。だからしばらく京都……ていうか、うちに住んでもらう」

「そっそれ……って」

「五人で共同生活や!」

「「ええー!?」」

「もちろん部屋は分けるで!うち広いから安心しい」

さりげなく家自慢をされたような気がするが、気のせいだろうか。

「あっでも学校どうしたらいいんだ?」

「圭君心配せんでええで、あともうちょっとしたら夏休みやろ?その間になんとかする」

「そっか!」

そんなわけで、よくわからない共同生活が始まる。


「早速泊まるわけだ」

「そうだな」

「霰、今オレらはどこにいる?」

「風呂だ」

「することといえば?」

「ゆっくり浸かることだ」

「馬鹿!てめえ馬鹿か!?」

馬鹿はお前だろ、と言いたくなる。

「向こうは女湯だぞ!覗くしかねえだろ」

何言ってるんだこいつは。

俺のイメージでは、こいつは爽やかバカだった。

圭にはそんな知識なんて無いと思っていた。


「聞こえてるわよ」

「圭のばーか!ふんっ!」


女湯の方からそんな声が聞こえてきた。

どうやら声は通るらしい。

「そんな……」

「どんまい、圭」

男の野望が……などと言いながら、風呂を上がっていった。

俺もそろそろあがろうと思い、ふと空を見上げた。青黒い空が広がっていた。

空には満天の星。ここらは人が少なく、そのせいで街灯が少ないからだろうか。

星は澄んで見えた。

端の方に、二つの星が見えた。一つは紅く、もう一つは薄暗い青色の星だった。

俺にはその青色の星が、明るい星に隠れているように見えた。


「蒼天の星に願いを」


凛とした声で囁く。誰の声だろうか。心なしか、その声は少し憂いを含んでいるような気がした。


「そうだな……仲間を。友達を。護れますように」

と呟いて、いやそんな声が聞こえるものか。

きっと夢か何かを見ていたのではないか?と考え、正気に戻る。


風呂を出ると、居間には神崎がいた。

「おかえり霰君」

「おー」

どこを見ても、現代とは切り離されたような和の の建物だ。そう関心しながら火照った顔をつたう汗を、タオルで拭う。

「圭は?俺より先に出てったんだけど」

「圭くん?知らんで。俺さっきここに来たからなあ」

神崎は少しはだけた和服を脱ぎ、寝間着に着替えている。

「おい……女が見てたらどうすんだ?」

「大丈夫やって」

「大丈夫、じゃあないわよ」

香織が腕を組み、神崎にそういう。

「わお、なんや香織ちゃん出てきてたんかいな」

「鈴が先出ちゃったから」


……鈴も?圭もだったよな。偶然か?

「え?何?圭もいないの?」

香織はいたずらな顔をし、霰の肩にひじをのせる。

「霰、あの二人きっと抜けがけよ」

「あ?なんだそ……ああ、両想いだったっけな」

「あの二人できてるん?」

「んー、告れば付き合うと思うくらいのレベル」

神崎もにっと笑い、こちらに視線をやる。

「なら邪魔はしたらあかんな」

「そうだな。そういや俺らはどこで寝たらいいんだ?」

「あの端の部屋に霰君と圭君。俺はその横の部屋。それで香織ちゃんと鈴ちゃんはその向かい」

なるほど。男と女で分けるみたいだな。


「なら俺は先に寝てくる。圭が帰ってきたら教えてやってくれ」

「うん、じゃあおやすみ、霰」

「おやすみ〜ゆっくり寝えや」

「おー、おやすみ」

そういうと俺は襖を開け、布団を敷いて寝た。


「……!」

「ら………れ……」

「……て……霰……!」

霰?俺の名前が誰かに呼ばれている。

「起きて霰!」

「ん……なんだよ、香織か。しかしなんでお前この部屋に来……」

「圭が!」

圭?そう言ったのを聞き、ふと部屋を見回す。圭の姿はなかった。

「圭が……大変なの」

「なんだよ、ゆっくり話せ」

「……来て、神崎の部屋に」

香織はそういって霰の手を引く。少し強く握られたその手につられ、神崎の部屋に入る。

「霰君……」

「なんだよこれ……」

目の前には、口元から血が垂れた圭がいた。

「倒れててん。近くの桜の木のところで」

「おいっ圭!」

「大丈夫!生きてる。ただ、治し方がわからないの」

香織は目を伏せながら話し始める。

「圭の……胸元を見て」

そう言われたので、服をまくり胸を見る。

「黒い……痣?」

「うん……倒れてたときにはその痣動いていたの」

痣が動く?そんなこと有り得るのか?

いや、有り得る、有り得ないの段階で話が済むなら俺たちのあの怪異も説明がつかない。

とりあえず、圭をどうにかして元の状態に戻さないと……。


「あれ?鈴は?」

「鈴は……まだ戻ってきてない」

「俺、探しに行ってくる」

「いや、あかん霰君」

「なんでだよ」

神崎に制され、霰は不機嫌そうに返す。

「中学生やろ?こんな真夜中に危なすぎる。大丈夫、鈴ちゃんは秋野に探させてるから」

秋野……前にここに連れてきた案内役の男か。

「す……ず」

圭が呻く。かすれ気味の声で。

「鈴……」

「鈴を、呼んでる……?」

「鈴羽…………」


その名を呼ぶと、痣は金色へと変わった。


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