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欠損者
その腹痛は母の病院で起こった。
立っていられない程の痛さで視界は暗くなり、周りが殆ど見えない。意識が遠のきそうな感覚に囚われ、このまま気を失ってしまいたいとさえ願った。
引きずった体を落ち着けたその下は、薔薇の花束かの様であり、そしてそれは真っ白なタイルにその朱が眩しく映えた。
痛みの中で私は、全ての物に怒りを覚え、心に悲しみを感じ、そして深い絶望感に襲われていた。
私が混濁の意識の中に沈んでいる間に、処置が終わっていた。
初期の流産だった。
「もう少し出血はしますが、問題はありません」
痛み止めが効き始めると、私は日常に帰る事になった。
疲れきった体から出る索漠としたものはなんなのか。
あった物が無くなった寂寥感なのか。
それははじめからなかったものだし、必要でもなかったはずで、何も知らなかったはずなのに。
そして何も“問題はない”はすなのに。




