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虚ろな生き甲斐に
「猫でも飼う?」
彼は私が元気がない事を分かっていた。彼の声はとても優しかった。
猫……。
私が寂しそうだからなのか、それとも家族が増える事を望んでいるのか。
彼は何も言わないけれど、子供が欲しいのではないのだろうか。
こんな私が子供を持って良いのだろうか。
子供が生き甲斐になってしまわないだろうか。
昔テレビで見たドキュメント番組を、ずっと忘れられないでいる。
それは、何度も自殺未遂を繰り返していた娘の、母親のインタビューだった。
『娘はいつも死にたがり、生きる気力を失っていました。
でも、娘に子供が産まれてからは、娘は子供が生き甲斐になり、楽しく過ごしていました』
子供だけの為に生きる。子供の事だけ思う。子供を自分の人生として見る。
子供はそんな重圧に耐えられるのだろうか。
そして私はもっと空っぽの人間になる。
そのドキュメントの最後のインタビューは
『娘は孫が五歳の誕生日を前に自殺しました』
と、遠くを見つめながら話す母親の映像で終わっていた。




