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妄執
「あれから元気に過ごしているの? 」
母から電話があった。
兄が家を出たそうだ。だから一度帰って来てはどうか、と。
兄は何かの資格を取るのを諦め、何かの仕事に就いたらしい。
兄の新居は実家から徒歩5分のアパートらしい。
兄は夕飯時にはちょくちょく帰って来ているらしい。
兄は近所だからと、母に買い物を頼むらしい。
率直に、気持ち悪いと思った。
でも、何とか人並みに生きて行くのだろうと、少しホッとしたところもあった。
そう思えたのはほんの束の間だった。
実家に帰ると、兄の物が家中に溢れていた。
私の部屋は入る事すら儘ならなかった。
「これでも少しは片付いたのよ」
と、この前に会った時より一回り小さく見える母が呟いていた。
いい加減にしなさいと何とか家から出した事、父は母に文句だけ言い何もしなかった事、家を出すために兄にかなりのお金を貸した事を聞いた。
「こんな家さっさと出ていってやるよ」
「俺のものに勝手に触るな」
「ついでに持ってきてくれてもいいだろ、ケチ」
「金があるなら最初から出せよ」
もう聞きたくもなかった。
それでも母は兄を見捨てようとはしない様だった。
そんな母にイライラしたが、これが子供に対する母親の気持ちなかと、自分の未来を思った。




