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そんな
母は弱くて強い人だった。
父に怒鳴られても殴られても、別れない。
出ていけと詰め寄られても、次の日のご飯は作る。
家の物をぐちゃぐちゃにされても、仕事に行く。
弱いから逃げないのか、強いから逃げないのか。
母の行動は、私にはまったく理解できなかった。
そして母は自分の事しか考えていなかった。
兄に殴られて鼓膜が破れた時、病院で母は
「転んで耳を打った様です」
と医者に言っていた。
「そんな事が知れたら、恥ずかしいでしょ」と。
私は子供ながらに絶句し、息を呑んだ。
守られるべきものは私ではないのだ。