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なんとなくの  作者: 華鳳
33/58

恋着

大衆居酒屋は、相変わらずガヤガヤとしていた。


先程までの、胸が痛くなる程の想いはここに来ると落ち着いた。やはり、それが狙いなのだろうか。


美味しいつまみと、冷えたビールは私をとても心地よくさせた。

部長は、相変わらず私に優しい言葉をかけ、温もりを感じる眼差しで私を見る。


聞きたくないが、聞かなければならない事を、いつ切り出そうかと考えているうちに、お酒が進む。

やはり、少し飲み過ぎたのかもしれない。部長を見るだけで胸が高鳴っていた。


「桜はほとんど散ってしまったけれど、夜桜でも見ませんか」


と部長は言った。


近くに神社があり、その裏の公園が桜の名所になっている。数週間前には、大学生やサラリーマンなど、花見客でごった返していた。


公園に向かうと、人はもうまばらで、ほとんどが葉桜になっていた。しかし、大きなしだれ桜は、花を付けていなくても、どっしりと存在感を示していた。


「寒くないですか?」


と、部長は私に聞きながら、売店で買った温かいワンカップを渡し、ベンチに腰を下ろした。


「少し肌寒いですが、大丈夫です」


私はそう答えながら、少し部長に近づいて座った。


子洒落たバーや、ムードのあるお店なんかより、この夢幻的な状況に、愛慕の情を抱かないわけがなかった。


ベンチに置いていた手に、部長の手が、ちょん、と当たった。私はその手に小指を少し絡ませた。すると、部長は私の手をそっと包んでくれた。部長の少し骨ばった手は、暖かかった。

部長と私は、何事もなかったかの様に会話を続けた。

繋がった右手から、激しい鼓動が伝わってしまうのではないかと焦っていた。



『奥さんはいらっしゃるんですか』

この状況が終わってしまうのが怖くて、聞きたくない事は聞けなかった。


しっとりとした風が、夜の公園を優しく包む。



いつの間にか私たちは手を絡ませて繋いでいた。







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