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淪落の女
「じゃあ、また月曜日に」
私の昂った感情は、あっさりと駅に消えていった。
不規律な人混みの中、細身で少し猫背の背中を、見えなくなるまで見ていた。ホッとした気持ちとは裏腹に、私の体は渇きを静めるのに必死だった。
こうして、恋にもがき苦しむのか。手にいれたいものは、すぐ側にあるのに、触れてはいけない。奪い取るには、リスクが高すぎる。
お金も仕事もキャリアも希望も無い女に、不倫というおまけ付きなんて、不幸街道を花を背負って歩いている様なものだ。
ただ、静かに淪落の淵に沈むだけだ。
昔、同窓会で会った元カレと、寝たことがあった。元カレには奥さんがいた。
事が終わってそいつに「おまえから誘ったんだからな」と言われた。
最初から、一夜限りの遊びのつもりだった。勿論、二度と連絡すら取らなかった。
私も最低だったが、元カレも本当につまらない男になってしまった。
部長はつまらない男だろうか。
そういえば、あの美しい指には、指輪はなかったのではなかったか。




