第88話 神聖レナトゥス軍の猛攻
【ウロボロス本部 中枢施設ゲート前広場】
ヒュンドラの遺体を空間魔法でアレイシア城に移転した私たちは、中枢施設ゲート前広場に辿り着いた。この巨大なゲートの先はウロボロス本部の中枢だ。
「高度多角形シールドで守備がなされている。攻撃でやぶれそうにないな」
私はゲートに触れながら、意気消沈したブリュンヒルデたちに話す。触れると一瞬だけ六角形のブロックが垣間見える。六角形のブロックシールドを大量に敷き詰めたのが多角形シールドだ。その防御力は通常のシールドとは比べ物にならない。
今、アレイシア城にいるサーガがシールドの解除とゲートのロック解除を進めているらしい。ネットワーク系統が同じだから同時に出来るとか言っていたが、詳しいことは知らない。
「あとどれぐらいで出来る?」
[あと10分もあれば解除できます]
「そうか。頼む」
私は作業状況を確認して通信を切ろうとする。そのときだった。
「待て、アレはなんだ?」
「…………?」
市街地方面から何かが飛んできてる。灰色の空に浮かび上がった黒い点は、見る見るうちに大きくなる。――ああ、そういうことか。
「フィルドさん、アレって――」
「分かってる。――神聖レナトゥス軍だ」
空に見えた黒い点は空戦士デルタの大群だった。1機1機が衛士メシェディをぶら下げている。こちらに全速力で向かってきている。中枢ゲート前の敵を排除するためだろう。
「殺す、ぶっ殺す……。お前らみんな殺してやる!」
憎悪に染まった目をしたブリュンヒルデが立ち上がり、背中に装備していた二振りの刀を勢いよく抜く。ミズカやパトラーも身構える。ボルカとホノカも複雑な表情をしつつ、それぞれの武器を手にする。
エンジン音を立てながら、空気を切り裂く空戦士メシェディはすれ違い様に衛士メシェディを切り離す。一気に数十機の衛士メシェディが降り立つ。一部、着地に失敗し、壁に叩き付けられた機体もあった。
「ヒュンドラの仇だッ!」
ブリュンヒルデは重力魔法を纏った刀で、一気に数機の衛士メシェディを斬り飛ばす。細身の彼らは紙切れの様に吹っ飛ぶ。
降り立った衛士メシェディたちはアサルトライフルで銃撃しながら走り寄ってくる。私たちは近づいてきた機械兵士から順に斬り壊していく。
[お前たちの進撃もここまでだ]
私たちの通信機に無線が入る。相手は神聖レナトゥス軍の司令士タクティクスだ。戦術士アレスよりも上位の司令系ロボット。
全ての機械兵器を倒しそうになった時、再び空からエンジン音が鳴り響き、最初と同じように衛士メシェディを切り離していく。それだけではなく、私たちの通ってきた横幅が20メートル近くある階段からも衛士メシェディが走ってくる。
[殺せ!]
「殺す? それは私のセリフだ!」
怒り狂うブリュンヒルデは両手に握った刀で斬り飛ばすだけじゃなく、重力魔法で機械兵士の残骸を走り迫る衛士メシェディに叩き付ける。残骸は機械の身体に埋め込まれ、火花を散らして機能を停止させる。
ミズカやパトラー、ボルカやホノカも流れ作業の様に素早い動きで無数に群がる衛士メシェディを斬り壊す。それは私も同じだった。
[かかれっ、かかれっ!]
空からのエンジン音。振ってくる衛士メシェディ。階段から聞こえてくる無数の足音。駆け上ってくる衛士メシェディ。――これじゃキリがない!
私は目の前の衛士メシェディを斬り壊しながら、衝撃波を纏った足で背後の機体を蹴り壊す。剣を抜き取り、すぐに右から迫る機械兵士を斬り壊す。
[殺せ、命を奪え!]
空にひと際大きな影が現れる。2機の空戦士デルタに吊り下げられた親衛士オーディンが降ってくる。ファンタジア遺跡でも見た機械騎士だ。
親衛士オーディンは6本の腕にそれぞれ剣を持ち、私たちに狙いを定め、全速力で走ってくる。目の前にいた衛士メシェディを斬り飛ばす。
「クソッ……!」
何十機もの衛士メシェディを斬り壊した私は、すでに体力の限界だった。親衛士オーディンの振り下ろす大剣をバスターソードで防ぐ。攻撃してこなかった他の剣が、私を斬り刻もうとする。私はすぐにその場から飛んで離れる。剣は虚空を斬る。
私はハンドグローブを振る。大型の電撃魔法が親衛士オーディンに落ちる。激しい雷の嵐だ。地面が揺れ、雷鳴が轟く。続けて衝撃波を纏ったバスターソードを大きく振りかぶる。白い斬撃が親衛士オーディンの外装に亀裂を入れる。
「これで、壊れろッ!」
私は走りながらバスターソードにエネルギー・チャージを行う。ハンドグローブでも物理攻撃力を倍増させる。その上に衝撃波を纏う。
地面を蹴って飛び上がる。両手でバスターソードを握り、重力に任せて親衛士オーディンを斬り壊そうとする。オーディンも6本の剣で防御態勢に入る。私の剣と大型機械兵器の剣が重なり合う。
――押し切ったのは私だった。親衛士オーディンの剣にひびが入り、粉々に砕け散る。そのまま、バスターソードは親衛士オーディンの頭部から胸部にかけて真っ二つに斬り壊す。大型機械兵士は機能を停止させた。
「こ、これで全て、だな……?」
私は激しい疲労を感じながら、残骸だらけの広場に座り込む。広場の機械兵器は全滅していた。だが、全員がすでに体力の限界を超えているようだった。だが、そんな私たちに絶望的な光景が広がる。
「う、ウソでしょ……?」
「……今日、死ぬかも」
「おやおや……」
「……チッ」
全員の顔に絶望の色が現れる。私も呆然とその光景を見ていた。――市街地の空に浮かぶのは、新たなる神聖レナトゥス軍だった。
灰色の空に、無数の空戦士デルタが飛ぶ。今度は衛士メシェディじゃなくて、何十機もの獣士ウガルルムが吊り下げられている。ウガルルムだけじゃない。さっき倒した衛士オーディンの姿まである。それも1機、2機のレベルじゃない。
これだけでも絶望なのに追い打ちと言わんばかりに、守護士ティアマットや蛇士クサリクまで飛んできている。極めつけは、一番後ろに控える3隻の軍艦か。
どうやら、私たちに生存という運命は残されていないらしい――。




