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私の命終わる日に ――終焉の女騎――  作者: 葉都菜・創作クラブ
第5章 悪夢と悪夢 ――ウロボロス本部――
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第87話 さようならの時間

 振り下ろされるチェーンソー。私は空間魔法で狙われていたホノカを移転させる。あのチェーンソーには瞬時に属性魔法を纏うことも出来るらしく、斬り付ける瞬間、ホノカの弱点属性である水属性が纏われた。

 ホノカはズタズタに切り裂かれた地面の上に倒れ込む。私たちの体力は既に限界に近かった。ボルカの表情にも疲労の色が濃い。そんなときだった。“彼女”が名乗り出たのは。


「私がやります」

「えっ?」


 ヒュンドラが覚悟を決めた目で、神聖巨戦士タイタンの正面に飛び出す。そして、私に背を向けたまま言った。


「――いつでも私たちを助けようとするブリュンヒルデのこと、よろしくお願いします」

「…………?」


 私がその意図を掴む前に、彼女は駆けだす。その身が光に包まれ、青色の魔法陣を展開する。一気に光の塊は巨大化する。その大きさは神聖巨戦士タイタンとほぼ同等にまでなる。


「貴様は退場してください!」

「…………!」


 光が消え、ヒュンドラの姿が露わになる。タイタンと同じく50メートル近い体長になった彼女がそこにいた。

 だけど、別に優勢になったワケじゃない。むしろまだ劣勢だ。神聖巨戦士タイタンは右腕のチェーンソーに加えて、各種の大型魔法やレーザー光線を撃てる。対してヒュンドラは素手だ。


[敵を確認。破壊します!]

「敵を確認。破壊します!」


 ヒュンドラはタイタンのセリフをマネる。彼女は紫色をした半透明の剣を召喚して右手に持つ。身の丈に似合う剣だった。


「ヒュンドラ、本当に死にますよっ!?」

「えっ、どういうこと?」


 ボルカのセリフの意味が分からなかった。その意味を教えてくれたのはコミットだった。


[マナの過剰使用です。あそこまで巨大化するだけでも相当のマナを使用します。加えてあれだけの大きさの剣。……マナの使い過ぎです]

「…………!」


 マナの過剰使用という言葉が突き刺さる。忘れていた言葉だ。フィルドさんも、Fクローンも、マナを一度に大量消費すると身体エネルギーのバランスが狂う。そうなれば、マナの欠乏を待たずして死に至ることもある。

 フィルドさんもかつてそうなったことがあるって話していた。だから、私には一度にマナを消費し過ぎるなと忠告されていた。


「退場をお願いします!」

「…………!」


 ヒュンドラが身の丈に合わない軽快な動きで、タイタンの左肩に深々と剣を斬り込む。機械の破片が飛び散り、炎が上がる。相当深く斬られ、更にそのまま押し切ったのか、爆発音と共に左肩が吹き飛ぶ。左腕が落ちる。

 だが、ヒュンドラの様子は思わしくなかった。息は荒く早い。額に汗が滲み、頬を伝う。下唇を噛み、その身体は震えていた。


「ッ、あと少しで御座いますか……?」

「ヒュンドラ、もういいです! 今すぐ戻ってください!!」


 ボルカの叫びは届いているハズだ。それでも彼女は剣をもう一度振り上げ、今度は斜めに斬り付ける。大量の機械部品が炎と共に飛び散る。続けて剣を胸部に突き刺す。剣先が背中から飛び出す。

 だが、ヒュンドラの快進撃もそこまでだった。彼女はタイタンにもたれ掛かる。すでに体力が限界なのは、誰の目にも明らかだった。


「いい加減……退場ッ、――」

「ヒュンドラ!」

「…………!?」


 残っていたタイタンの右腕――チェーンソーがヒュンドラの左わき腹に勢いよく突き刺さる。女の身体に激しく動く凶刃は簡単に埋まり、真っ赤な血が噴きだす。


「ッ、ああぁぁあぁッ!!」


 タイタンは彼女の命を奪おうと、徐々に腕を持ち上げる。血と肉片が飛び散る。ヒュンドラは激痛に顔を歪ませながらも、突き刺した剣でタイタンを持ち上げる。チェーンソーが身体から抜ける。


「さ、ようならの時間でござ、います……」

[も、ク…ひょ、って――]


 タイタンの口が開く。光と共に強いエネルギーが溜まっていく。レーザー光線を撃つ気だ。

 ヒュンドラがタイタンを剣ごと付近を飛んでいた神聖レナトゥスの大型飛空艇――司令艦に向かって投げる。レーザー光線が飛ぶ。タイタンの巨体が司令艦を巻き込んで市街地へと落ちる。頭から落ちていったタイタンは身体から炎を上げ、木っ端みじんに吹き飛ぶ。


「ヒュンドラッ!!」


 タイタンを倒したVクローンは、急速に身体を縮めていく。空中で元の大きさに戻った彼女の身体はそのまま何の受け身も取らずに落ちていく。そんな彼女の身体を、空中で誰かが受け止める。


「――ブリュンヒルデ皇帝!?」


 ヒュンドラを受け止め、地面に降り立ったのはブリュンヒルデだった。彼女はそっとヒュンドラを降ろす。私たちとフィルドさんたちもすぐに彼女の元に向かう。


「あ、ああ……ブリュンヒルデ、皇帝」

「い、今すぐ回復液を――」


 ブリュンヒルデは懐から試験官に入った回復液を取り出し、そのコルクを抜き取ろうとした。その手を止めたのは、血まみれの手をしたヒュンドラだった。


「もう、私はダメ……。貴様たちは…必ず、アレイシア城に――」

「うるさい黙ってろ! お前も一緒に――」

「――皇帝、ありが、……と」


 試験官を持つブリュンヒルデの手を掴んでいたヒュンドラの手が、崩れるようにして倒れる。ヴァルキュリア・ヒュンドラの生命は失われた。


「そ、そんな……!」


 震える腕でヴァルハラ帝国の皇帝は、息絶えたヴァルハラ帝国の中将を抱きしめる。その血が服にべっとりと付く。

 見上げればすぐ近くに中枢施設がある。門衛のいない中枢ゲートも見える。あと少しだった。あと少しで7人全員でたどり着けるハズだった。でも、ヒュンドラは死んだ。私たちは6人となって、中枢ゲートに辿り着く。そんな運命を迎えた――。

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