第8話 折れた剣
「フィルドさん、クリスター政府の“一般攻撃機アルファ”と“分隊攻撃機ベータ”です!」
アサルトライフルと呼ばれる軍用銃を持った人間型ロボット――一般攻撃機アルファが3体。脚が4つあり、両腕にマシンガンが装備されている分隊攻撃機ベータが1体……。
[ターゲットを確認。フォーメーション・オメガ。排除します!]
「邪魔するな」
私は剣を抜き取り、3体の一般攻撃機アルファに斬りかかる。一般攻撃機アルファがアサルトライフルで私に銃撃してくる。私は物理シールドを張り、銃弾を完全に無効化する。そして、流れるかのような動きで彼らの細い体を次々と斬りつけ、機能を停止させる。
[排除セヨ!]
残りの軍用兵器――分隊攻撃機ベータが攻撃をしようと両腕の銃口を私に向ける。だが、銃弾が放たれることはなかった。分隊攻撃機ベータの背後からパトラーがサブマシンガンを使い、その身体に銃撃をした。銃弾を受けた黒き軍用兵器は、正面から地面に向かって倒れる。
分隊攻撃機ベータが倒れ、私たちの行く手をふさいでいた敵はいなくなった。私とパトラーは、クラスタを追い、本棟に向かう。だが、――
「――これは?」
本棟の上層エントランスでは、六花形をしたブロック状の小さなシールドが無数に並び、一つの巨大なシールドを形成していた。小シールドの端がピンク色に光り、巨大シールドはハチの巣状の模様を描いていた。
「多角形シールドですね。普通のシールドの数十倍の高度を持つシールドです。しかも、このシールドには――」
「そうか。堅いシールドか」
「えっ、フィルドさんっ……!」
私は右手に握っていた剣――デュランダルを大きく振り上げ、パトラーの静止を耳にも止めず、勢いよく振り下ろす。多角形シールドとデュランダルが触れ合った瞬間、辺りに強力な衝撃波が広がる。普通の人間だったら、弾き飛ばされているだろう。
「ダメか……」
私は多角形シールドからデュランダルの刃を離す。そのときだった。私の目に信じられない光景が飛び込んでくる。
「仕方ない。他の――。…………!?」
なんと、デュランダルの刀身が、中腹で真っ二つに分かれていた。欠けた刀身が音を立てて地面に落ちる。今まで無数の敵を真っ二つにしてきた剣。今度はその刀身が真っ二つに折られていた。
「なっ……!?」
「……恐らく、極めて特異な魔法が使われたシールドです。もっとも、これまで蓄積されてきた剣自体のダメージも相当大きいとは思いますが……」
私はパトラーの言葉を受けつつ、折れたデュランダルをもう一度目に入れる。ファンタジア地方で採れるクリスタルと金属を混ぜ合わせ、生み出された名剣。この剣を初めて手にしたのは、もう13年も前になる。それ以来、何度となく私はこの剣で激しい戦いを切り抜けてきた。
「フィルドさん、どうしましょうか……。この剣で戦いを続けることは難しいです。クラスタ、シリカ、フィンブルはいずれも強力な魔法を使う手練れの戦士です。それに――」
パトラーがそこまで言ったときだった。後ろから女の声が上がる。
「いたぞ、クラスタ政府代表暗殺未遂犯だ!」
「ヴァルハラ帝国の刺客を捕えよ!」
私たちの後ろから、大勢のクローン兵たちが走ってくる。いや、クローン兵だけじゃない。さっき破壊した一般攻撃機アルファやベータといった軍用兵器も無数にいる。空からは戦闘ヘリ――ガンシップがこっちに向かってきている。
「勝てないことはないと思いますが、かなりの人数です……」
「…………」
私は折れたデュランダルを腰の鞘に戻す。目の前には普通には壊せない特殊なシールド。後ろからクリスター政府の軍勢。前にも後ろにも苦難が待ち受けている。クラスタたちも、もうかなり遠くに逃げただろう。探し出すまでにどれだけの兵士を相手することになるか……。
私はため息をつき、後ろからパトラーの右肩に手を乗せる。パトラーが軽く振り返る。
「フィルドさん……」
「ミッション失敗だ。撤退するぞ」
「分かりました……」
パトラーは頷くと、左腕を軽く振る。すると、私たちの周りに複雑な模様――魔法陣が、青白い光と共に現れる。白い光が私たちを包み込む。
「移転魔法だ!」
「逃がすな!」
クローン兵たちが私たちに銃口を向ける。だが、もう遅い。彼女たちが発砲する前に、私たちはその場から消える。
攻撃魔法に特化した私とは対照的に、パトラーは補助魔法に特化していた。彼女は回復、強化、妨害といった魔法や空間魔法を操り、その能力は私よりも高い。
だからこそブリュンヒルデは、攻撃型の私と補助型のパトラーとでペアを組ませ、『クラスタ暗殺』という極めて難度の高いミッションを遂行させようとしたのだろう。
だが、結果は失敗。私たちはミッションを終えることなく、首都アレイシアシティに撤退を余儀なくされた。
今後、クラスタらは警備を強化するだろう。もし、もう一度同じミッションを与えられても、今回の手はもう使えないだろう――。