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私の命終わる日に ――終焉の女騎――  作者: 葉都菜・創作クラブ
第1章 変貌の白い夢 ――シリオード南都――
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第6話 白い夢の大敗

 1年前の“あの日”、私の希望は失われた――。



 20万人の兵を率い、私は『天』に挑んだ。


 空に浮かぶ鋼の要塞。


 そこを拠点とする者たち。


 彼らを、ある国では「邪悪なる神のしもべ」と呼ぶ。


 私はその「邪悪なる神のしもべ」に挑み……。


 そこから先は、もう思い出したくもない。



 だが、私の想いとは裏腹に、 


 “あの日”のことは何度も夢に見る。


 そして、今日も悪夢で思い返すのだろう。


 “あの日”のことを――。






















「クラスタ将軍、――!」


 左目を黒い眼帯で覆う女性が、私の名を口にする。彼女の振るう剣は、真っ赤な鮮血で染まっていた。そのすぐ前で、黒装束の男が身体を傾け、雪の上に倒れる。

 私は――冷たい洞窟の壁に、背を預けていた。もう、身体が動かない。まるで鉛にでもなってしまったかのようだ。


「ははっ、死ねクラスタ!」


 私を守ろうと戦う女の隙をついて、別の男が槍を振り上げる。その鋭い先は、私の頭を狙っていた。このままだと数秒とたたないうちに、私は殺されるのだろう。

 だが、彼の身体が上半身と下半身で真っ二つに引き裂かれる。おびただしい鮮血が飛び散り、私の服を血に染める。


「クラスタ将軍、急いで――」

「あ、ああ……。そうだ、な」


 女が私を半ば無理やり立たされる。立ち上がった私の目に広がる光景。――雪山の戦場。黒い機械の兵士と黒装束の男たちが、白い装甲服を纏った女性兵士――Fクローン兵たちを次々と殺していく。


「いやぁっ!」

[攻撃セヨ!]

「助け、てっ……!」

「ククっ!」


 状況はどう見ても、黒い兵団が白い兵団を圧倒している。もう、戦いと呼べるものじゃない。黒による白の掃討。私たちは狩られていた。


「あれれっ、あれれっ、どこ行くのかなぁっ!?」


 背後から槍を手にした黒装束の男が、私たちに向かって飛び込んでくる。赤く汚れた槍が私を狙う。そのとき、私を支えていた女が男に向かっていく。


「お前たちに、クラスタ将軍は殺させない――!」

「シリカぁ、どうせその女はもう――」


 眼帯の女――シリカの剣と男の持つ槍が交わる。私は再びその場に座り込む。激しく咳き込む。――口から真っ赤な血が垂れる。


「――全てを失ってぶっ壊れたんだろぉ?」

「…………!」


 下唇を噛み締めるシリカが、男に向かって白い魔法弾――衝撃弾を飛ばす。衝撃弾は男の目の前で爆発し、強烈な衝撃波で男を弾き飛ばす。男は地面に何度も身体を打ち付けながら、遥か彼方に吹き飛ばされる。

 シリカは再び私の所に戻ると、今度は私を背負う。私はもう声を発することさえ出来ないでいた。意識が朦朧とする。



「シリカ将軍――。「神聖レナトゥス」の軍は、私たちクリスター政府軍の退路を完全に絶っています」


 女性の声だ。誰か側に来たらしい。報告内容からして、味方の兵士――「クリスター政府」の兵士だろう。だが、私を背負うシリカの身体が雪の上に倒れ込む。


「シリカ将軍! クラスタ政府代表っ! お逃げください!」


 遠くから別の女性の声がする。味方の兵士……。あれっ? 今、ここにも味方の兵士がいたんじゃなかったのか? 報告にきた子が……。


「クク、はははっ!」


 私は閉じていた目をゆっくりと開ける。倒れたシリカの目の前に立っていたのは、黒い装甲服を着た女性兵士だ。ああ、そうか。さっき報告に来たのは、神聖レナトゥスのクローン兵だったか……。


「シリカ将軍、これからどうしましょ? クリスター政府軍壊滅状態ですよぉ?」


 笑みを浮かべながら話すその女は、剣に付いた鮮血を口に垂らす。――血? 倒れているシリカ?


「――――!」


 気が付いた時には、私は神聖レナトゥスの女性兵士を右拳で後ろから殴り飛ばしていた。彼女は数機の人間型ロボット兵士を巻き込んで低空浮遊戦車に叩き付けられる。彼女の身体は力なく倒れる。生命エネルギー消失――。


「ク、クラスタ将軍……」


 消えそうな声で私の名を呼ぶシリカの腹部には、ナイフが深々と刺さっていた。白い服に真っ赤な染みが広がっていく。

 私は彼女の側で、崩れるように倒れ込む。シリカを助けないと。このままだと彼女が死んでしまう。私は“最後の仲間”まで失ってしまう。

 私は倒れたまま、震える腕を伸ばして彼女の腹部に刺さったナイフを握り、ゆっくりと抜き取る。赤色に染まった刃から血が滴る。

 ナイフを雪の上に投げ捨てる。彼女の傷口に手のひらをかぶせる。傷口と私の手のひらの間から、水色の美しい光が発せられる。回復魔法だ。これで応急措置は――。


「クラ、スタ…しょう――」


 シリカが重症の身体で立ち上がろうとする。その目は、私の背後にいる者に向けられていた。私は彼女に覆いかぶさるようにして倒れたままだ。動けそうにない。だが、後ろに何がいるのかは気配で分かる。


「そして終わる白い夢の伝説――」


 もう、目の前が真っ暗で何も見えない。強者の気配を感じる。私とシリカを取り囲んでいる黒装束たちのリーダーだろう。味方は残されていない。


「先の大戦で黒い夢を打ち破った英雄よ。主らの功績は永遠に遺るだろう。あとは“偉大なる神”に任せ、主らはゆっくりと休むが良い。偉大なる神は必ずや報いられるだろう。功も罰も――」


 消えゆく意識の中で、私は男の言葉が頭に流れ込んでいた。偉大なる神、か。そんなもの存在するのか――?


「…………! 議長っ!」

「…………?」

「あの女は――!」

「――――!」







 気が付いたとき、私はベッドの上にいた。味方が壊滅した中、雪の上で意識を失ったのだ。普通ならば冥界で目を覚ますハズだろう。よくても、雪の上だ。なのにここは……?

 身体の方は相変わらずほとんど動かなかった。全身に包帯を巻かれ、部屋には薬品の匂いが充満している。


「クラスタ将軍、目が覚めましたか?」

「……シリカ」


 私の寝ているベッドのすぐ側には、シリカが椅子に座っていた。声をかけられるまで気が付かなかった。それほどにまで、私は力を失っているのか。


「私はなぜ生きている?」

「分かりません……。フィンブルの話では、何者かが「神聖レナトゥス」の軍勢を追い払ったと――」

「そうか……」























 1年、ときを遡る。


 シリオードにて邪神の再臨を切望せし者に、


 戦いを挑んだ者たちがいた。



 勝利を掴みし勢力は、


 邪神のしもべ。


 混沌に消えし邪神の勝利にて終焉を迎えた――。




 邪悪なる神のしもべもまた邪なる存在。


 天を用いて天にあがらいし存在。


 邪と戦いて死したならば、


 私は最高の恵みをもって報いよう――。

 【登場人物】


◆クラスタ

 ◇人間女性。

 ◇クリスター政府のリーダー。


◆シリカ

 ◇クローン女性。

 ◇クリスター政府将軍。

 ◇左目に黒い眼帯を付けている。


◆「議長」

 ◇男性。

 ◇神議会のリーダー。



 【登場組織】


◆神聖レナトゥス

 ◇北方大陸で勢力を持つ勢力。

 ◇「神議会」の下位組織。

 ◇機械の兵士と女性クローン兵士から構成される軍を持つ。


◆クリスター政府

 ◇北方大陸にて勢力を有する勢力。

 ◇女性クローン兵士から構成される軍を持つ。

 ◇リーダーはクラスタ。

 ◇主なメンバーにシリカとフィンブルがいる。

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