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第5話 あと3ヶ月で、あなた死にまーすっ!

「フィルドさん。あと3ヶ月で、あなた死にまーすっ!」


 満面の笑みを浮かべ、ボルカは私に死の宣告を下した。


 その言葉、偽りだ――。こんな軽い口調で言われれば、本気にしない者もいるだろう。

 なに戯言を抜かしているのか――。怒りを心に宿す者もいるだろう。

 そうですか――。呆れて相手にしない者もいるだろう。


 だが、私はいずれの感情でもなかった。ただ、ぼんやりと死の宣告を受けていた。ボルカの言葉を受けつつ、渡された資料を目にする。……余命3ヶ月の原因は生命維持に必須な“マナ”の使い過ぎだった。


「ボルカ、それは本当なんだな?」


 背もたれの長い青色のイスに腰かける女――ブリュンヒルデが、先ほど私に死の宣告をした女に真偽を問う。私に笑みを向けていた彼女は、くるりと背を向け、問いに答える。


「もっちろんっ! ブリュンヒルデ皇帝陛下っ!」

「……そうか」


 私はブリュンヒルデとボルカの会話を耳にしつつ、意識は渡された資料にいっていた。


 マナの使い過ぎ。記憶にないワケじゃない。パトラーとここに来る前、私はベヒーモスと戦っていた。あの時、私は足に衝撃波を纏い、魔物の周りを自由自在に飛んでいた。アレは魔法の応用だ。

 魔法を使うと身体の中にあるマナを消費する。マナは生命エネルギーや精気ともいわれ、生き物が生きていく上で必要不可欠なものだった。そして、失われたマナは二度と戻らない――。

 私はもう何十年も同じような戦い方をしていた。何度も魔法を使い、あらゆる敵を殲滅してきた。敵だけでなく、巨大な要塞や頑丈な防御壁を破壊したこともあった。その間に、私は大量のマナを失い続けたのだ。それが、『余命3ヶ月』という結果を招いたのだろう。


「……検査結果は分かった。それで、用件はそれだけか?」


 私は渡された資料を軽く握りしめながら、ブリュンヒルデに向かって言う。


「あ、ああ、そうだな。それだけだ」


 そう言うブリュンヒルデの声は震えていた。目も落ち着きなく動き、手はぎこちない動きで机上の命令書を片付けようとしている。


「どちらかと言えば、結果報告がメインではなく、私に『ミッション』を出すつもりだったのだろう?」

「…………!」


 ブリュンヒルデの眉がピクリと動く。今まさに片付けられようとしていた命令書を握る手が止まる。微かに震えていた。


「……ああ、そうだ。本当は初めてのミッションを出そうと思っていた。だが、あんなことを聞かされて出せるハズがない。お前の、残り時間をこんなことに使わせたくない」

「それだと、私を筆頭将軍に任命した意味がなくなるんじゃないか?」

「…………」


 ブリュンヒルデは下唇を軽く噛み締め、机に向かって俯く。だが、すぐに顔を上げ、命令を発した。


「ホノカ、ミズカ! ヴァルキュリア4名を引き連れ、このミッションを遂行して貰いたい」

「オッケーっ!」

「ああ、任せろ」


 今まで私の後ろで控えていた2人のイノベーション・クローン――ホノカとミズカが返事をする。私服のFクローンと青い和傘を持ったFクローンだ。

 私はブリュンヒルデの前に進み出ると、やや折れ曲がった命令書を奪い取る。


「ほう、『「クリスター政府」のクラスタ暗殺』、か。これはまたずいぶんと難易度の高いミッションだな」

「わ、私たちFクローン最大の敵だ……! 「クリスター政府」のクラスタを討ち、ヴァルハラ帝国の憂いを取り除いてほしかった」

「…………。……そうか」


 私は命令書を手にしたまま、ブリュンヒルデに背を向ける。「クリスター政府」のクラスタを暗殺。イノベーション・クローンやヴァルキュリアについては詳しくないが、まぁ無理だろう。あの2人じゃ死にに行くようなものだ。


「あれあれっ、新人将軍が行くんですかっ?」

「ああ、そうだ。私とパトラーで遂行する」


 私服の女――ホノカにそう言い、私は星見の間の出入り口へと歩いていく。そのとき、後ろからブリュンヒルデが言った。


「フィルド! 私は確かに世界の覇権を取ることが夢だ。お前にもその手伝いをして欲しい。……だが、もし逃げ出したくなったら、いつでも逃げていい。私の理想に、お前が付き合う必要も、死ぬ必要もない。これだけ、覚えていてほしい」

「……ああ、逃げたくなったら、逃げさせてもらうよ」


 私はそう言い、扉に手を触れる。魔法で扉の封印が解かれ、ゆっくりと左右に開いていく。私はブリュンヒルデの部屋から廊下へと足を進めていく。


 “逃げたくなったら、逃げていい。私の理想に付き合う必要も、死ぬ必要もない”、か。そういうことを言うリーダーがいるとは思わなかった。恐らく、ルミエール政府のリーダーは、私に逃げてもいいとは言わないし、付き合う必要はないとも言わないだろう。


 ……もっとも、私は誰かに忠誠を誓うつもりも、誰かのために命を捨てるようなこともしない。他の人間なら、感動してますます忠誠を強めるのだろうが、あいにく私はそんな感情は持ち合わせていない。

 ブリュンヒルデも、そんなことは百も承知だろう。それでも、あの女は本心から言ったのだろう。


 さて、私は『使命』を果たしに行こう。余命3ヶ月。これまでの戦いで幾多の命を奪ってきた私だが、とうとう私も終わりらしい。それまでに『使命』を果たせるといいのだが……。

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