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第4話 Fクローン

 【帝国首都アレイシアシティ アレイシア城】


 ブリュンヒルデという女は、どうにも私に対して特別な感情を抱いているらしい――。私がそのことについて知ったのは、ここへ来て1ヶ月後のことだった。


「ウワサは耳にしていましたが、真実である線が強まりましたね……」


 私の寝るベッドに腰かけるパトラーが言う。

 ここはアレイシア城の上級医務室。ヴァルハラ帝国中枢メンバーしか使うことの出来ない場所だ。ブリュンヒルデの意向で私はここを使っている。


 私とてブリュンヒルデが『そういう想い』を抱いていることを何度か耳にしていた。このことは、私がルミエール政府でなく、このヴァルハラ帝国を選んだ要素の1つとなっていた。

 ブリュンヒルデが私に、少なくとも悪意は抱いていない――。そのことは、私にとって極めて都合がよかった。


「ただ、将軍たちは何を考えているか分からないです。ヴァルハラ帝国六将軍がフィルドさんを歓迎しているか疑問です」

「そうだな。特にフウカは私が来たせいで筆頭将軍をクビになったからな。もしかしたら、暗殺しに来るかも」


 私は今まさに飲もうとしていた水を机に戻す。もし、毒でも入っていたら、――いや私の生命力なら大丈夫か?

 フウカという女性軍人はブリュンヒルデの命令で『ミッション』に赴いているらしく、今はここにいないと聞く。

 あの日、――私がヴァルハラ帝国に迎え入れられた日、ブリュンヒルデを護衛していた4人の女性軍人たちは全員、将軍だという。

 彼女たちは全員、強大な力を誇る『イノベーション・クローン』という存在らしい。室内で青い和傘を持っていた女も、白ビキニ姿の女も、軽口叩いていた女も、私服だった女も、ヴァルハラ帝国の将軍なのだ。


「ヴァルハラ帝国を支える5人の『イノベーション・クローン』たち。その下には9人の『ヴァルキュリア・クローン』……。ヴァルハラ帝国は、確かに強い力を持っているんだな」

「あのエイルって子も、『ヴァルキュリア・クローン』でしたね。ずっと私たちを監視していたって言ってましたし……」


 エイルが私たちを監視していたこと、気が付かなかった。『ヴァルキュリア・クローン』は『イノベーション・クローン』よりも劣るが、それでも相当の力を持っているのだろう。

 こうなると、勢力ではルミエール政府がヴァルハラ帝国を上回っているが、ルミエール政府敗北もあり得るのかも知れない。もっとも、両勢力は、今のところ同盟国であり、戦争中ではないのだが……。


「フィルド筆頭将軍、失礼します」


 病室の扉が開かれ、白衣を着た女性が入ってくる。


「先日の検査結果が出ましたので……皇帝陛下の執務室――アレイシア城星見の間にてお伝えするとのことです」


 眼鏡をかけたその女性は、手にしていたカルテに目をやりながら言う。

 ブリュンヒルデは、エイルの進言で、私に何らかの検査をするようボルカに命令したらしい。恐らく、時々訪れる『発作』の件だろう。ホープシティで、アレイシア城で私は『発作』に苦しめられていた。

 だが、ここでは伝えず、星見の間で伝えるのだという。星見の間はブリュンヒルデの執務室だ。なぜ、わざわざそのような場所で……? 重大な結果が出たのだろうか? いや、まさかな。


「分かった。それで、星見の間にはいつ行けばいい?」

「今夜19時でお願いします」

「そうか、了解」

「あと、――」

「…………?」

「そちらの方は“人間”ですね?」


 白衣の女性はパトラーを指さしながら言う。パトラーが人間なのは、当然のことだ。もちろん、私も人間だ。私は無言のまま頷く。


「人間の方は星見の間に入室することは出来ません」

「なに?」

「ブリュンヒルデ皇帝の命令で御座いますので、よろしくお願いします。それでは……」


 そう言うと白衣の女性は私たちに背を向けて部屋から出ていく。ただ、扉を閉める直前、彼女が一瞬だけ私に視線を向けた。その目は、どこか憐れむような目だった。


「私が星見の間に入れないって、どういうことでしょうか……?」

「……理由は何となく分かる。ブリュンヒルデは『人間』が嫌いなんだろう。帝国を見ても分かるだろう?」

「…………! でも、ブリュンヒルデやボルカ、フウカも、そしてフィルドさんも、みんな人間じゃないですか……」

「ああ、そうだな。でも、決定的に異なる点がある。……分かるな?」

「……はい。ブリュンヒルデやボルカ、フウカは――『Fクローン』ですよね」


 パトラーは淡々と言う。そこに驚きや困惑の感情はない。ブリュンヒルデらが『Fクローン』である事実は常識だった。そして、『Fクローン』の存在も今や一般的なものとなっていた。

 私を迎えたエイルも、皇帝を護衛していた4人の将軍も、さっきこの部屋にやってきた白衣の女性も、皆『Fクローン』だ。


「ブリュンヒルデは『Fクローン』を好み、『人間』を嫌っている。だから、自分の執務室に入れないんだろうな」


 私はそう言いながら、ベッドから起き上がる。そろそろブリュンヒルデの星見の間に行く準備をした方がいいだろうな。筆頭将軍が皇帝の元に行くのに遅れてはまずいだろう。


「では、私はここで待たせて貰います」

「ああ、そうだな。なるべく早く戻るようにする」


 私はそう言いながら病衣を脱ぎ、いつもの服に着替える。さて、どんな検査結果が出たのか、聞きに行くとしよう。大した結果ではないと思うが……。

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