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第3話 選ばれた帝国

 【ヴァルハラ帝国 帝国首都アレイシアシティ アレイシア城】


 エイルと名乗る女に連れられた私たちは、ヴァルハラ帝国の小型飛空艇に乗せられ、帝国首都アレイシアシティへとやってきた。

 アレイシアシティはホープシティとは異なった発展を遂げた都市だ。あちらが『娯楽都市』と呼ばれているのに対し、こちらは『軍事都市』とも呼ばれていた。

 青白い光を放つ不気味な大都市。無数に立ち並ぶ高層ビルの間をスピーダー・カーが飛び交う。都市規模はホープシティを遥かに凌駕する。


 私たちを乗せたヴァルハラ帝国の小型飛空艇は都市上空を飛び、やがてひと際巨大な建物――アレイシア城の中腹に入っていく。小型飛空艇のプラットホームだ。


「よし、降りろ」

「スカウトを受けたのに、まるで扱いが連行されているみたいだな」

「そうか? すまんな」


 エイルに先導され、私たちはアレイシア城の飛空艇プラットホームに降り立つ。そこには何千人もの兵士が二手に分かれて整列し、私たちを待ち構えていた。


「エイル、アレは……?」


 二手に分かれて整列した兵士たちの間を通り、誰かがやってくる。4人の女性軍人に護衛されたあの女は……? だが、エイルは私の問いに応えず、その場でひざまずく。


「……私が彼女と会うのは初めてだな」

「ああ、そうだな。お前が“創られた直後”、あの2人は『組織』を離脱したからな」


 灰色の軍服を着た女が、護衛される女と言葉を交わす。彼女の片手には青色の和傘が握られていた。ここは室内なのに、何に使うんだ……?


「エイル、よくやった。……下がれ」

「はい、将軍閣下」


 どういうワケなのか白色のビキニ姿をした女が、エイルに命令を下す。彼女は頭を下げ、その場から立ち去る。


「……よく来てくれた、フィルド」


 私たちの前に立った女が言う。護衛されながらここまで来た女だ。……そうか、彼女が――


「――私はヴァルハラ帝国皇帝ブリュンヒルデだ。フィルド、お前を歓迎する」


 灰色のコートを纏い、黒色の肩当てを付け、背中に二振りの刀を装備した女――ヴァルハラ帝国皇帝ブリュンヒルデが言った。


「ひとまず私の執務室に向かおう。詳しい話はそれからだ」

「ああ、そうだな。それにしても、皇帝がお出迎えとはな。そこまで私は偉かったかな?」

「……私は当然のことをしているだけだ」

「当然のこと?」

「本当は私が自ら出迎えに行くべきだった。だが、私も責任ある身。だから、お前を迎えるよう部下にミッションを与えた」


 ブリュンヒルデは歩きながら話す。


「だが、なぜ私を? オファーによると私を筆頭将軍に任命するらしいじゃないか」


 私は肩を並べて歩くブリュンヒルデに疑問をぶつける。招待状にはヴァルハラ帝国軍を統括する最上位軍人――筆頭将軍への任命が明記されていた。普通、外から連れて来た人間には任せることの出来ない重要な地位だ。


「ふふ、簡単なことよ。私は――」


 ブリュンヒルデは足を止め、少し間を置いて続きの言葉を紡ぐ。


「――お前と共に、新たなる時代を築きたいからだ」

「新たなる時代だと? 西のヴァルハラ帝国、東のルミエール政府という世界の勢力図を書き換えるつもりか?」

「…………」


 ブリュンヒルデはニヤリと笑いながら、私の側に寄って来る。そして、私の耳元で自身の考えていることを、――野望を囁くように言う。


「ああ、そうだ。あのルミエール政府を、その他の勢力をも滅ぼし、世界はヴァルハラ帝国が支配する。それが私の夢……いや、使命だ」

「使命?」

「…………」


 ブリュンヒルデは私の側から離れ、再び歩き出す。私も後に続く。周りの護衛軍人たちも続く。


「……で、私を筆頭将軍に任命すること、他の帝国将軍たちも納得済みなのか?」

「…………」


 ブリュンヒルデは黙ったまま、歩きながら左手で右手の甲に触れ、何かを操作する(あの手、タッチパネル式なのか?)。すると、彼女の前に立体映像が表示される。映っているのは……1人の女性軍人だ。


「あら、ブリュンヒルデちゃん、どうしたのかしら?」

「イノベーション=フウカ筆頭将軍。申し訳ないが今日で筆頭将軍はクビだ。明日から一般将軍をやってほしい」

「あら、藪からスティックね。ふふふ、ということは彼女、来るのね?」

「そういうことだ」

「そう……。なら、いいわよ。可愛い可愛いあなたの頼み事は断れないわ」


 立体映像の女――フウカはニヤニヤとしながら、筆頭将軍クビを承諾する。二人の間には相当の信頼関係があるようだな。ブリュンヒルデはフウカの言葉に、不満や怒りを見せることなく、むしろやや申し訳なさそうな顔で受け取っていた。


「……ということだ。フィルド、お前を筆頭将軍に――」

「…………ッ!」


 立体映像を切ったブリュンヒルデが私を筆頭将軍に任命しようとした時だった。私は胸を押さえて、再びその場に膝をついて倒れ込みそうになる。


「フィルド!?」


 私のただならぬ事態を察したブリュンヒルデが、傾きつつあった私の身体を抱きしめる。


「あらら、こりゃ結構ヤバそうね……」


 護衛の1人がそう言いながら、左腕に装備した小型端末で連絡を取る。


「イノベーション=ボルカ、何とかなりそうか?」

「んー……、明日死ぬかもっ!」

「な、なにっ!?」


 ブリュンヒルデが驚いたような声を出す。一方の私は意識が遠のき始めていた。後ろでパトラーの声がしている。


「冗談冗談。ただの発作じゃないかな? エイルの渡した薬の効果が切れたんでしょ? 薬飲ませればすぐに収まるよ」


 軍服の上から白衣を羽織るボルカが、腕の震えているブリュンヒルデとは対照的に、特段焦っているような表情を見せることもなく淡々と答える。


「おやおやっ? 悪い冗談言い過ぎのこの子もクビでいいんじゃないかなっ?」

「フウカもボルカもクビになったら、俺が筆頭将軍と1人分の一般将軍を兼任するしかないな。ブリュンヒルデ、俺がお前を導いてやる。安心しろ」

「俺っ娘のミズカちゃんには無理でーすっ! っていうか、室内でパラソルってどういう趣味ですかーっ!?」

「これはパラソルじゃない。和傘だ」


 状況とは裏腹にのんきな会話をしている護衛たちに構わず、ブリュンヒルデは私を何かに乗せる。私の意識があったのはそこまでだった。

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