第28話 ……最低だな
【廃都グリードシティ 市街地】
私はエレメント・ソードを振り、電撃を落とす。電撃を受けたウォズプルは苦しそうな声を上げながら、水撃弾を撃ってくる。その弾をパトラーが電撃弾で打ち消す。そして、両手を出し、電撃を浴びせる。中型のゼリー・モンスターは激しい電撃に蒸発していく。
「エターナル・ウォプル、どうやって倒しますか?」
ウォガプルを消し去ったパトラーが、私の前に降り立つ。私はエレメント・ソードを鞘に戻しながら黙考する。どう考えても倒すことは出来ないだろう。
「物事は、やるかやらないか、だ。俺はやる」
青い和傘を雨避けにしているミズカは相変わらずだ。「やる前から諦めちゃダメ」はよく聞く格言だが、今回はさすがにそういうワケにはいかないだろう。
だが、エターナル・ウォプルがエンドレス・クリスタルを飲み込んでいるのなら、都市を水没させているあの怪物を倒すしかない。倒してクリスタルをもぎ取る。
「分かった。だがその前に、コミットに聞いてみる」
お手上げになった私は、情報担当のコミットにアドバイスを求めることにした。私は耳に着けた小型通信機に触れ、コミットに合図する。
[……正直、私にもどうすればいいのか分かりません。すみません……]
万策尽きたようだ。どうにも、私は諦めの境地に立たされているらしい。このミッションを放棄して、他のミッションをやった方がいいか?
[ただ、――]
「ただ?」
[少し考えたんですけど、あの映像は空から撮った映像でしたね?]
「ああ、そうだな。旧政府中枢エリアが完全にエターナル・ウォプルに飲み込まれている」
[空からはそんな感じですが、地下エリアはどうでしょうか?]
「地下エリア?」
[私はグリードシティには行ったことがないのでよく分からないのですが、確か都市は上層・中層・下層・最下層に分かれているんですよね? 上層・中層は水没しているかも知れませんが、下層と最下層にゼリーがなければ……]
ちょっと苦しいかな。相手は水属性の魔物。どこでエンドレス・クリスタルを飲み込んだかにもよるが、水は上から下に落ちていく。そう考えると、……いや、ウォプルは“水”ではなくて“ゼリー”だ。ゼリーが最下層にまで到達していなければ、最下層から迂回してセントラルタワーに入れるか?
「分かった。最下層から迂回して中枢エリアに入ってみる」
[すいません、こんな策しか出てこなくて……]
私が通信を切ると、ミズカが声をかけてくる。
「了解。迂回策を取るんだな?」
「ああ、最下層から中枢エリアを目指す」
私はそう告げ、先行して歩き出す。……しかし、どこもかしこも廃墟しかない。耳をすませば、聞こえてくるのは雨の音や銃撃音、傭兵・クローン兵の掛け声、そしてウォプルの鳴き声。かつて首都だった頃の音は一切ない。
「お前たちはこの街の人間だったのか?」
不意にミズカが話す。
「……私もパトラーもこの街を首都にしていた国際政府の軍人だった。後に離脱したがな。そういった意味では、この街の人間だったかもな」
「…………。……私はこの街で生まれ育ったんだ。もう今は死んじゃったけど、お父さんとよく一緒に公園に遊びに行ったりもしたな」
しばらく歩いていると、またウォズプルが現れる。私はエレメントソードを、パトラーはエッケザックスを、ミズカは和傘を武器にウォズプルと交戦する。勝負はあっという間だった。
「……最低だな」
「えっ?」
「クラスタのことだ。クラスタがクリスター政府軍を率いてこの街を強襲したから、ここはこんなことになったんだろ? しかも、魔物が大量発生したとき、彼女はこの街を見捨てたらしいじゃないか」
「……そう、だね……」
「確信。あの女に出来ることは破壊だけだ。失う者の気持ちなんて分からないんだろう」
ミズカは青い傘を再び差しながら言う。
クラスタとて、失う気持ちが分からないハズがない。彼女は国際政府軍の空爆で故郷を傷つけられている。それに、この街が廃墟になったのも、戦争末期、国際政府軍が自爆のような攻撃をしたからだ。クラスタのせいだけではない。
「ミズカはクラスタのこと、嫌い?」
「嫌いだな。クラスタは破壊者以外の何者でもない」
「そう……」
パトラーの表情が暗くなる。彼女はクラスタの“元”盟友だ。クラスタとは何度も生死を共にした。国際政府に所属していた頃、クリスター政府の完成、クラスタが政府代表に就任した時、パトラーはずっとクラスタと共にいた。
だが、クラスタが政府代表に就いて1年後、パトラーは袂を分かった。クラスタの進めるシリオード侵略計画に付いていけなかったからだ。
「ここから下に降りれそうだな」
しばらく歩いていると、大きな亀裂に出くわした。元々は建物と建物の間にあった広い空間だ。空の地面なきメインストリートだろう。首都時代はここを多くのエア・カーやスピーダー・バイクが飛んでいた。
この空間――地面なきメインストリートは、下に行けば行くほど狭くなっている。ここからどこまで下に行けるかは分からないが、まずはここからだ。




