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私の命終わる日に ――終焉の女騎――  作者: 葉都菜・創作クラブ
第2章 静かな猛毒の逆襲 ――海風都市サフェルトシティ――
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第16話 過激派レジスタンスの本拠地へ

「はい、完了です――」


 パトラーが私に美しい水色の魔法――治癒魔法を浴びせ終わる。これでオニビとファントムから受けたダメージを癒し終えた。

 彼女は補助魔法に特化している人工魔導者サイエンネッターだ。つまり、移転魔法・防御魔法・回復魔法・妨害魔法を自由自在に操れる。その一方で、攻撃魔法や強化魔法といった戦闘魔法は、私よりも劣っている……ハズだった。


[……大丈夫ですか?]

「ああ、もう傷は――」

[いえ、過激派レジスタンスと戦えるのでしょうか……?]

「…………」


 私はすぐに返事を出来なかった。オニビやファントムと戦う前までは、何の心配もしてなかった。でも今は……。

 さっきの戦いを見る限り、戦闘魔法で私よりも劣るハズのパトラーが、私よりも遥かに戦えていた。

 私が過激派レジスタンスの本拠地に乗り込んでも、何が出来るのだろうか? いや、戦術的に考えると、私は行かない方がいいんじゃないのか……? そんな考えが私の頭に湧き上がる。一度、コミットやパトラーと相談した方が――。


[えっ、ちょ――! …………! フィルド筆頭将軍!]


 急にコミットが焦ったかのような声を上げる。


「どうした、何があった?」

[大変です! おとり作戦のホノカ将軍が過激派レジスタンスと思われる人々にさらわれたとの情報が!]

「なんだと!?」


 ようやくホノカの作戦が実をつけたらしいな。だが、今ここを離れるワケには……。もう間もなく過激派レジスタンスの輸送車が――。


「フィルドさん!」


 今度はパトラーが声を上げる。私はパトラーの指さす方向に目を向ける。


「…………!」


 黒色に塗装された浮遊輸送車が目の前のメインストリートを走って行く。その車体には紫色のペンキで何かが書かれている。……アレはシリオード文字か? 『社会を喰らう魔女を殺せ』――。

 私とパトラーは後ろに背負った小型ジェット機を起動させて深夜の空に飛び上がると、走り去った浮遊輸送車を追いかける。誰もいないのをいいことに、かなりのスピードを出して進んでいる。


「フィルドさん、アレがきっと過激派レジスタンスの――」

「ああ、そうらしいな」


 浮遊輸送車はこちらに気付いている感じはしない。あの中に今夜の儲け金があるのだろう。そのカネで彼らはクローンを殺す。そして、殺したクローンから金品や金目の物を奪い、また露店市場に流す。だが、それも今夜までだ。


[コミット、さらわれたホノカはどこにいる?]

[サフェルトシティ北部の郊外――これは廃工場?]

「廃工場?」

[ええ……。今はもう消えた「連合政府」の軍用兵器工場です]

「なるほど。消えた会社の廃工場とは連中も都合がいいな」


 廃工場――。隠れ家にはうってつけの場所だ。恐らくそこが過激派レジスタンスの本拠地だろう。現に、あの輸送車もそこへ向かっていそうだ。


[フィルド筆頭将軍――。もう今更ですが、私たちクローンはあなたをベースに作られています]

「ああ、そうだな。私は世界で唯一、戦闘魔法に特化した人工魔導者サイエンネッター。私をベースにクローンを作れば、戦闘兵としての活躍が期待できる」

[はい。だから、人間たちはFクローンを次々と作り、使い捨てにしてきました。その反動から、ヴァルハラ帝国はクローンを優位する政策を取り、結果として人間の反発を招いています]


 人間の下位種でしかなかったクローンが、今度は自分たちを下位種にしている。それで過激派レジスタンスはクローンを狙い、殺している。人間の不満が、恩恵を受けるクローンに向かう。それがこの事件の背景だった。

 クローンを使い捨ていた時代の反省から、クリスター政府はクローンと人間を対等に扱った。だが、今のヴァルハラ帝国はクローンを優位させた。そして、こんな状態に陥った。


「フィルドさん、廃工場が見えてきました!」

「やはりな……」


 サフェルトシティの北部市街地を抜けた先に広がる小さな谷間――サフェルト・バレー。その先に、やや大きな廃墟同然の工場が建っていた。輸送車は吊り橋の上を走って行く。


[フィルド筆頭将軍、どうか気を付けてください]

「ああ、分かっている。無茶はしないようにする……」

「大丈夫です。私がフィルドさんを守りますから!」


 先行するパトラーは笑みを浮かべながら言う。私は苦笑いをしながら言葉を返す。


「このミッションが終わったら、筆頭将軍の地位はパトラーに渡した方がよさそうだな」

[クローン優位政策の時代ですから、難しいかも知れませんけどね]


 そんな会話を交わすうち、私たちは吊り橋を渡り切る。窓ガラスはほとんど割れ、鋼の壁は黒くさび付いた廃工場が迫ってくる。メイン・エントランスの扉は開いている。浮遊輸送車はすでに建物の中に入っている。私たちも飛び込む。中では黒いローブを纏った人間――過激派レジスタンスのメンバーが数人いた。


「…………!?」

「う、うわっ!」

「サフェルト警備軍だ!」

「いや、違う。帝国防衛軍だ!」


 私たちは浮遊輸送車の上に降り立つと、狼狽える過激派レジスタンスのメンバーたちに向かって言い放った。


「過激派レジスタンス。ブリュンヒルデ皇帝の命により、お前たちを逮捕する――!」

  <<クラスタの懺悔 ――喪失――>>


 【人工魔導者サイエンネッター


 人は夢想する。もし、人間に魔法が使えればどれだけ便利になるだろうか――?


 EF2002年、人類の夢――魔法の駆使は遂に現実となった。人は遂に魔法を使える人間を造り出すことに成功した。その最初の実験台こそが、フィルドだった。開発組織は、組み替えられた人間のことを『人工魔導者サイエンネッター』と名付けた。

 だが、フィルド以外の人間に、その技術を使えなかった。体質や遺伝子とその技術は、上手く融合しないのだ。やがて、普通の人間を人工魔導者サイエンネッターとすることを諦め、フィルドの遺伝子を使ってクローンを製造することにした。やがて来る世界大戦に備えるため……。


 それから13年後のEF2015年、ようやく技術は目的地に辿り着いた。完成した技術は、普通の人間を高度な人工魔導者サイエンネッターに変えられるようになった。そのときの実験台こそが、私のかつての盟友パトラーだった。

 私はその技術を奪い取り、開発した組織を滅ぼした。そして、自らの身体を人間から人工魔導者サイエンネッターへと変えた。


 溢れ出る力、湧き上がる力、無限のような力――。

 私は最強の戦士になったと思い込んだ。そして、クリスター政府をより確かな統治機構とするため、世界に残る最後の敵を一掃しようと考えた。

 だが、それが破滅の始まりだった。私は信じていた多くの仲間に裏切られ、クリスター政府はバラバラになり、事実上、崩壊した。



 人は夢想する。もし、過ぎ去った時間を巻き戻せたら、と――。

 私は唯一残った仲間――シリカに支えられながら、今日も冷たい北方の大地で、苦い後悔を噛み締め続ける。失った仲間も信頼も覇権も、もう二度と戻らない。例え、どれだけ強大な魔法を操れようとも――。

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