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私の命終わる日に ――終焉の女騎――  作者: 葉都菜・創作クラブ
第2章 静かな猛毒の逆襲 ――海風都市サフェルトシティ――
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第12話 デュランダル

 【海風都市サフェルトシティ 南部市街地】


 私は剣を見ていた。


[……フィルド筆頭将軍、何かよさそうな剣ありましたか?]


 通信機を介してコミットが聞いてくる。


「……ダメだな」


 私はガラスの向こうにある大小さまざまな剣を見ながら言う。

 ここはサフェルトシティの市街地――武器屋や携帯型飲食料品を取り扱う店が並ぶ商店街だ。私はここでデュランダルに代わる剣を探していた。

 この鍛冶屋には、賞金稼ぎや傭兵向きの剣が並んでいる。つまり、一般人が使う護身用の物やレジャー用の「すぐに壊れる安物」は置いていない。だが、それでも私の戦いに耐えられそうな剣はなさそうだ。


[そうですか……。これでサフェルトの鍛冶屋は全滅ですね]

「まぁ、あのデュランダルの代わりなんてそう簡単に見つかるハズもない」


 前使っていたデュランダルは南シリオードで折れた。修理をヴァルハラ帝国の武器製造・改良部に依頼したが、手に負えないという理由で突き返されてしまっていた。


[一応、ブリュンヒルデ皇帝も新しい剣について検討しているそうです]

「ブリュンヒルデが?」

[ええ。今、有力な案として挙がっているのが、皇帝自らが新しく剣を精製する案だそうです]

「…………」


 サフェルトの市街地を歩く私の頭に、薄汚れた鍛錬場でブリュンヒルデが熱された刀身を一生懸命鍛えている図が浮かぶ。……皇帝のやることじゃないな。


[皇帝はフィルド筆頭将軍のことを考え、魔導剣――つまり、魔素マナを宿す剣にしたいようです。今までフィルド筆頭将軍は、自身のマナを使って魔法をり出していました]

「それで私の寿命が削られていたんだな」

[そうです。だから、今度は剣自身に強力なマナを宿し、そのマナを使って魔法を操れるようにするようです]

「余命3ヶ月の私にとっては、かなりの親切設計だな」


 私は市街地を抜け、サフェルト南中央公園に足を踏み入れる。木々に囲まれた湖の側にあるベンチに腰掛ける。月明かりが水面を照らしている。……恐らく、このミッションが終わったとき、私はもうここに来ることはないだろう。この光景も、最後になるかも知れない。

 冷たい風が吹き付け、水面を揺らす。私はコートの襟を立て、冷えた風をしのぐ。


[ただ、その魔導剣をどうやって精製するかについては、まだ見通しも立っていないようです。想定している強力なマナと金属を混ぜ合わせる方法が――]

「このデュランダルは魔法クリスタルと金属を混ぜ合わせて生み出されたハズだ。何か参考にはできないのか?」


 私は青白い月明かりを目にしながら、腰に装備されたデュランダルの鞘を無意識のうちに触れる。刀身が半分しかない剣が収まる鞘を……。


[デュランダルの性能は、使用者のマナを引き出し、引き出されたマナを4~6倍の威力にして放出できるものです。例えば、威力3の魔法を精製できるマナを出したとき、デュランダルを持った状態で魔法弾を撃てば、その威力は15程度にまでなります。デュランダルとはそういう武器です]

「……だとしたら、皇帝の考える魔導剣とやらには使えないな」

[はい、残念ながら……。魔導剣はデュランダルとはタイプが完全に異なる剣です]


 私は折れたデュランダルを鞘から抜き取り、月明かりに向ける。刃は何度見ても完全に砕けている。剣としても攻撃範囲リーチが半減し、今までのようにはいかないだろう。


「コミット、今この剣に、威力倍増の効果はあるのか調べてほしい」

[はい。一応、もう調べておきました。……残念ですが、その効果も半減しています。引き出されたマナの2倍程度にしかなりません。今後、同じだけのマナを使って魔法弾を撃っても、威力は今までの半分です]

「――ということは、もうこの剣では戦えないか」

[無理に今までと同じような戦いをすれば、命を今まで以上に奪われます]

「分かった。……正直言って、想定していたことだ」


 私はデュランダルを鞘に戻す。コミットの話、全く予想していなかった話じゃない。ある程度、分かっていた。そこに何か理論的なものがあったワケじゃない。こう、……直感だ。


[デュランダル、筆頭将軍の愛用だということは私たちもよく分かっていました。なのに、治すことができなくて申し訳ありません]

「いや、いい。形あるもの、いつか終わりがくる――。そういうものだ。私も、クリスター政府も、いつか終わりがくる。……ほら、1800年続いた統治機構も滅んだじゃないか」

[フィルド筆頭将軍……]

「形あるうちに、何かいいことを成し遂げられれば、私はそれでいいと思う。……私は悪いことしかやってこなかったけどな」


 私は通信を切り、再び欠けた月を見上げる。風に揺れる草木の音だけが、私の耳に入る。デュランダルが終焉を迎えた。次に迎える終焉は、私の命だろう。それまでに何が出来るか。もう、残された時間は少ない――。


「はぁ……」


 私は視線を地面に落とし、なんとなくため息をつく。

 「形あるうちに、何かいいことを成し遂げられれば、それでいい」、か。私はこの力を使い、ずっと戦い続けてきた。奪った命は数知れない。こんな私だからこそ、何かいいことを残さなきゃいけない――。

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