第11話 おとり作戦or尾行作戦
【サフェルトシティ サフェルト北公園】
私とパトラー、それにホノカの3人は、サフェルト北公園に来ていた。公園の砂場に裸のクローンが1人、ベンチに両腕を切られたクローンが1人、ブランコに腹を裂かれたクローンが1人。全員で3人の死体があった。
「ここ1ヶ月、こういう事件は特に酷くなっています。それまでは一週間に一度あるかないかだったのですが……。被害者数もこの1ヶ月に集中しています」
「ほんと、最低ねーっ! 皇帝のように人間を下等種族ってまでは思わないけどさ、こういうの見ると野蛮種族って感じちゃうよねーっ!」
年若いイノベーション・クローン=ホノカが、サフェルト警備軍のクローン兵に向かって言う。これでも彼女はヴァルハラ帝国の将軍だ。炎に関する魔法を操るらしい。その実力は相当高いと聞いている。
「こんなの皇帝が見たら、あの人ブチ切れて、犯人惨殺しちゃうよっ! 間違いなく全裸に剥いた後、両腕切り落として、最後はお腹裂いて殺しちゃうだろうねーっ!」
やたらハイテンションな口調でしゃべり続けるホノカ。警備軍のクローン兵たちがドン引きしているかも知れないな。
「犯人は神出鬼没です。我々も捜査を続けているのですが、難航しているのが現状です」
「聞き込みは?」
「ダメです。クローン優位政策に対する反発や過激派レジスタンスに対する恐れも相まって、中々有力な情報がありません」
「そうか……」
聞き込み調査は使えない。もたもたしていると、被害者は増えていく一方。手っ取り早く解決するには……。
「よし、おとり作戦で行こう」
「えっ、ええっ……?」
警備軍のクローン兵が困惑したかのような声を上げる。まぁ、そうだろうな。だが、この方法が最も確実で、最も素早く解決できる。
「し、しかし、帝国本部から派遣された方をおとりにするなんて……!」
「フィルド、名案じゃない! いいねぇ、いいねぇ! それ最高じゃない! 自分でおとりになって、拉致された先で暴れ倒してレジスタンスを壊滅させるのね!」
「まぁ、そんなとこ――」
私がそこまで言ったときだった。
「フィルドさん!」
パトラーが叫ぶ。同時に警備軍や野次馬の市民たちから悲鳴が上がる。私はとっさに後ろを振り返る。……数人の男たちが背中に背負った小型ジェット機で飛び上がっていた。彼らは深夜の空に消えていく。
「パトラー、どうした!?」
「い、今、あの建物の上から何かを投げ捨てて、……」
「なにっ!?」
私は人だまりが出来始めているところに向かって走る。後にホノカやパトラー、警備軍のクローン兵たちも続く。
「うわっ……」
「また……」
「ひどい……」
私たちは人だまりをかき分け、落とされた“何か”に目をやる。……私服を着たクローンだ。落されたときの衝撃からか、頭からはおびただしい量の血が出ている。
だが、落とされて殺されたワケじゃなさそうだ。……首に深い切り傷がある。手足にも何か傷がある。何か細い物を刺し込まれたかのような跡だ。殺して捨てた、といったところか。
「……一刻も早く解決した方がよさそうだな」
「おとり作戦、ですか?」
「ああ、それが一番いい」
私は顔をしかめているパトラーを置いて、死体に背を向けて歩き出す。そのとき、私の左手首に装着した小型無線機に通信が入る。コミットからだ
「どうした?」
[フィルド筆頭将軍、おとり作戦ですが、誰がおとりになりますか?]
「危険な役だ。私がやる」
まさか、パトラーやホノカに押し付けるワケにもいかないだろう。それに、戦闘能力が最も高いのは私だ。できるのは私しかいない。
[フィルド筆頭将軍、ボルカ将軍が言ったこと覚えていますか?]
「ボルカが?」
[あなたの命はあと3ヶ月しかありません]
「…………!」
[しかも、そうなったのは魔法の使い過ぎからです。今また魔法を使えば、余命は更に短くなります]
「なっ……!?」
コミットの言葉に、私は愕然とする。そうだ、私の余命はあと3ヶ月。これは魔法の使い過ぎによるものだった。今また魔法を使えば、私の余命は……。
「では、どうする……? このままだと犠牲者は――」
[大丈夫です。こちらでも事件について調べましたが、連中はさっきのように小型ジェット機で移動します。これはクローンをさらうときも同じです。こちらも小型ジェット機で追えばいいのです]
なるほど。尾行作戦というワケか。おとり作戦より安全で確実だな。これなら私も魔法を使わずに済むかも知れない。
「そうか、分かった」
[ただ……]
「…………?」
[彼らが次にどこで人をさらうのか、どこに現れるのかは全く分かりません]
「なに……?」
尾行作戦は早くも暗礁に乗り上げたらしい。このサフェルトシティはサフェルト州の州都でもあり、その面積は広大だ。なのに私たちは3人しかいない。彼らを見つるのに、どれだけの時がたっているか……。警備軍のクローン兵じゃ、逆に捕まって終わりだろう。
「つまり、役者不足ってワケね!」
「ホノカ……!」
[ホノカ将軍!]
いつの間にか後ろに立っていたスゴカが声をかけてくる。この様子からして一連の話を聞いていたのだろう。
「じゃぁ、ここは“命短し、恋せよ乙女”のフィルドさんに代わって私がおとりになるしかないってことねーっ!」
恋せよ乙女の下りは余計だ。
[いいのですか、ホノカ将軍?]
「任せなさいよ! 過激派レジスタンスなんて焼き尽くして上げるわ!」
[では、危険な役ですが、お願いします]
「おっけーっ!」
[では……]
そう言って、コミットは通信を切る。残されたのは私とホノカだけだ。
「危険な役だぞ」
「大丈夫!」
ホノカはそう言って、軽快な足取りで私の前から歩き出す。だが、不意に立ち止まり、私にさっきまでの笑みを向けながら言った。
「――あのクーデターの方が、ずっと危険でしたし!」




