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私の命終わる日に ――終焉の女騎――  作者: 葉都菜・創作クラブ
第7章 余命3ヶ月Re ――廃都グリードシティ――
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第115話 ヴァルキュリア・エイル中将

「神聖レナトゥスの人工知能「ウロボロス」残存データから、ブリュンヒルデは何者かに操られていた可能性がある。……エイル、ブリュンヒルデは治癒対象だと分かっていたんじゃないのか?」

「…………」


 捕縛されたエイルは無言で頷く。ここはティトシティのヴォルド宮――ルミエール政府の中枢。そうか、彼女はルミエール政府に囚われていたんだな。時期は恐らくヴァルハラ帝国崩壊後か。


「同じ残存データから、相手の心に自らの分身を組み込む魔法は、物理的に密着する必要がある。そこで我々は諜報員を使い、調査を進めた。その結果、そのようなことが出来る者は5人まで絞り込めた」


 諜報員だと……? まぁ、驚くほどのことでもないか。ルミエール政府もヴァルハラ帝国と同じようにスパイを潜り込ませていたのだろう。


「――クラスタ、フウカ、ミズカ、ホノカ、ボルカ。恐らくはこの5人の誰かがやったのだろう。いや、クラスタは違うか。もしそうなら、クリスター政府崩壊などは招かなかったハズ」

「……Iクローン4人は、ブリュンヒルデの寝所にも出入りしていた。主らの言うことが真なら、ヴァルハラ帝国は――」

「誰かがブリュンヒルデを操り、創設された帝国だということになる。突然のクーデターも、明らかに破綻的なクローン優位政策も、その誰かが彼女の心を操りやらせたもの」


 私は神聖レナトゥスのウロボロス本部・中枢施設で、ブリュンヒルデの記憶世界に入った。そこで見たのは、何者かの分身。私はブリュンヒルデと、同じ分身のクラスタと共にその分身を倒した。だが、その本体はまだ分かっていない。

 一連の動きは人工知能「ウロボロス」も見ていた。彼女の言う残存データとやらはこのときのものだろう。


「エイル、ヴァルハラ帝国が崩壊した今、私たちの目的はクリスター政府崩壊事件の真相を解明し、事件の黒幕を倒すこと」

「……つまり、私にどうしろと? ――カルセドニー筆頭将軍」


 青い光の中で知能派のFクローン――カルセドニーは薄っすら笑う。彼女はソフィアの弟子だ。ソフィアが政府代表となり、その地位を引き継ぐ形で筆頭将軍となったらしい。


「今、ブリュンヒルデらはグリードシティにいる。クローン兵を率い、彼女たちを捕まえよ」

「窮鼠猫を噛む――。強引に攻めれば、思わぬ反撃を受ける」

「ああ、分かっている。だから、ソフィア代表と策を練った。まず、フィルド、パトラーの2人を誘い出して捕まえろ。出来ることなら、スカジもだ。この3人には事の真相を話し、作戦への協力を持ちかけろ。本命のフウカ、ミズカはそれからだ」

「断ったら?」

「その時はティトシティまで連行しろ。――なに、フウカとミズカ以外は殺しはしない。作戦担当はケイレイトを任命する。これで安心だろう?」

「……了解」


 エイルは承諾の返事をする。

 もうヴァルハラ帝国は蘇らない。すでにブリュンヒルデたちの居場所もマークされている。もし断れば、この取引はなくなり、ブリュンヒルデたちも殺されるかも知れない。それに作戦担当はケイレイト。彼女なら約束をたがえないだろう――。そういった考えがエイルの中で動いたのかも知れない。




 私の頬に生暖かい液体が垂れる。そこでようやく私はぼんやりとしていた意識をハッキリとさせる。


「…………!?」


 最初、この生暖かい液体は涙か何かと思った。だが、それは違った。液体の正体は――


「エ、エイル!? お前ッ!」

「わ、私は……治癒のヴァルキュ、リア」


 再び液体が垂れる。青色の光に満ちるこの空間と相反する色をしたその液体。……私の顔を汚すそれは、赤い液体――血だった。

 私に強力な回復魔法を浴びせるエイルの鼻と口から血が垂れていた。私は直感的に、それが魔法の使い過ぎ――マナの欠乏であると悟った。


「エイル、やめろ! それ以上魔法を使ったら――」

「や、約束しろ……」

「…………!?」

「残り、3ヶ月でっ……ク、クリスター政府を壊し、ブリュン、ヒルデ皇帝を操った、ヤツをっ、――必ず、必ず殺せ」

「エイル!」

「、――もう私は…、さよなら……」


 青い光が急速に消えていく。私に跨っていたエイルの身体がふらりと倒れる。


「エイルッ!」


 私は震える手でエイルの首筋に手を当てる。


「ケイレイト将軍ッ!」

「パトラー、移転魔法!」

「えっ!?」


 フウカが十字ブーメランでケイレイト斬り倒し、その隙をついて私の側に降り立つ。パトラーとスカジもすぐにやってくる。

 私は脈の止まったエイルから手を離す。パトラーが移転魔法を発動させる。エイルは……ケイレイトたちに任せた方がいいだろう。少なくとも、もう私たちには何もしてあげられない。


「ケイレイト将軍!」

「に、逃がさないでっ……」

「追えッ!」


 叫ぶようにして声を張り上げるレク中将。側にいたジュピター中将が数人のクローン兵たちと共に私たちに飛び迫る。

 だが、もう間に合わない。彼女たちが私たちのいる魔法陣に入る前に、私たちの姿はそこから消える。私たちの視界からも彼女たちの姿は消える。


 ブリュンヒルデの心に分身を埋め込んだ者の正体。エイルの記憶ではIクローンに絞られていた。今、ブリュンヒルデの側にいるのはフウカとミズカだけだ。

 エイルは“あと3ヶ月でクリスター政府を壊し、ブリュンヒルデを操ったヤツを殺せ”と私に言った。……私の残り寿命はあと“3ヶ月”だろう。あのエイルの治癒魔法は、失われたマナの補充。それと引き換えに彼女は命を失った。なんとなくだが、私はそんな気がしていた。


 神聖レナトゥスとヴァルハラ帝国が滅び、ブリジットが失脚したルミエール政府。世界は3ヶ月で大きく変わってしまった。

 次の3ヶ月。世界はどう変わっているのだろうか。この世界、一寸先は闇だ。だが、私のすることは変わらない。私は自らの課した『使命』を果たすだけだ――。

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