表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私の命終わる日に ――終焉の女騎――  作者: 葉都菜・創作クラブ
第1章 変貌の白い夢 ――シリオード南都――
10/146

第9話 Fクローンと人間

※前半はパトラー視点

※後半はフィルド視点

 【帝国首都アレイシアシティ アレイシア城 月詠の間】


 『クラスタ暗殺作戦』は失敗に終わり、私とフィルドさんはアレイシアシティに戻ってきた。フィルドさんは、ブリュンヒルデに作戦失敗を伝えに行った。私はブリュンヒルデのいる星見の間には入れないから、この部屋で待機している。


「パトラーさん、お疲れ様です」


 私が青色の椅子に腰かけていると、ヴァルハラ帝国の女性軍人――コミットが声をかけてくる。彼女はフィルドさんと同じく赤茶色の髪の毛をした女性だ。……ヴァルハラ帝国のブリュンヒルデやボルカ、クリスター政府のシリカやフィンブルも同じだ。


「この帝国にも慣れてきましたか?」

「思った以上に『Fクローン優位政策』が行き渡っているなと思った。これもブリュンヒルデ皇帝の意向かな」

「はい。ブリュンヒルデ皇帝はFクローンをあらゆる面で優遇する政策を進めています。明確な階級社会の構築が進んでいます」


 私は窓から夜のアレイシアシティに目を向ける。高層ビルが立ち並び、深夜の街からは青白い光が放たれている。この街はFクローン――つまり、フィルドさんのクローンしか入れない。フィルドさんの弟子である私は、例外的に入ることを認められている。


「私たちFクローンは人間とは異なり、魔法を使えたり、強い生命力を持っています。また、人間よりも素早く動けます。高い能力を持つクローンでしたら、空を飛ぶことだって可能です」

「“人間よりもずっと優秀な力を持っているFクローンは、あらゆる面で優遇されなければならない”、だよね?」

「ブリュンヒルデ皇帝はそのように考えています。だから、帝国関係者も今やFクローンが大半を占めています」


 ヴァルハラ帝国――。中央大陸の南西を支配するこの帝国は、Fクローン至上主義の国家だ。人間を最下位種に位置づけ、中間種を『サキュバス』、上位種をFクローンとしている。

 かつて、人間によって、戦うためだけに作られた戦闘用クローン。それがFクローンだった。人間に使われ、消費されるだけの存在……。


「以前、人間とクローンが対等に手を取り合っていた時期もあったのに……」


 私は机の上に散乱した資料を整理しながら、呟くように言う。資料は世界各国の状況を表したものだ。


「残念ながら、ブリュンヒルデ皇帝が皇帝になって以来、その関係は崩れました。私も……いえ、なんでもないです。私は……」

「…………」


 私はとある紙を一番上にし、資料をファイルに挟む。

 人間とフィルド・クローンが対等だった社会。かつて、人間がFクローンを消耗品として使っていた時代に、お互いを対等関係とした国家があった。世界の大半を統治し、自由と平和を再生させた国の名前は――。


「クラスタ、私たちどこで間違えちゃったんだろう……」



◆◇◆



 【アレイシア城 星見の間】


 私は椅子に座ったまま、ブリュンヒルデに一連の報告を終える。ブリュンヒルデも椅子に座ったまま、私の話を聞いていた。


「――フィルド、私たちクローンと人間が対等だった時代を知っているか?」

「ああ、もちろん。3年前までそうだったな。……それを壊したのはブリュンヒルデという私のクローンだそうだ」


 私は軽く皮肉を込めて言う。対等関係を壊した張本人は笑みを浮かべる。


「ふふっ、そう……。3年前のあの日、自由と平和を再生させ、世界の覇権を握っていた国家は、突如として消滅した」


 ……3年前――EF2016年12月、世界の覇者、圧倒的一強、白い夢の集大成と謳われたその国の崩壊は、あまりに当然だった。

 その国の政府代表がシリオード大陸を攻撃中、ブリュンヒルデはクーデターを起こした。そして、その国を強奪し、あっという間に解散させてしまった。

 だが、強奪した直後、その国は分裂した。その片割れこそがこのヴァルハラ帝国だった。いや、残りものというべきかな? かつての国の8割は別の国を形成した。


「当然、その国の政府代表は怒り狂い、単独で破壊者――私の元へと乗り込んできた。私は……」

「いや、いい。お前の左腕が義手なのはもう知っている」


 椅子から立ち上がり、左腕の袖を捲し上げようとしているブリュンヒルデに私は言った。彼女は苦笑いをしながら、再び椅子に座る。

 ブリュンヒルデはその国の政府代表と直接戦い、左腕を失った。だが、相手側も重傷を負っていたらしく、双方引き分けという形になったらしい。その戦いにより、当時の首都中枢であったポートシティの議事堂は損傷が激しく、ブリュンヒルデの思惑も重なり、首都はこのアレイシアシティに移転となった。


「フィルド、戦ってみての感想はどうだった? 私の左腕をもいだあの女と戦ったのだろう? 強かったか?」

「逃げられたからな。しっかりと戦ったワケじゃない。強いかどうかはお前が一番よく知っているんじゃないのか?」

「そうだな、愚問だったな……」


 そう言いながら、ブリュンヒルデは机の上に設置された大型コンピューターを操作する。彼女の後ろに電磁スクリーンが現れ、写真が映し出される。2人の若い女性――Fクローンが殺されている。辺りには彼女たちの持ち物と思しきバックや小物が散乱している。背景は……どこかの街だ。


「これは……?」

「次のミッションだ。最近、“サフェルトシティ”でFクローンを狙った惨殺事件が横行している。犯人は『過激派レジスタンス』と呼ばれる連中だ」

「ほう、レジスタンスか……」

「私の進めるフィルド・クローン優位政策が気に入らない“下等種族――人間”の犯行らしい。ただ厄介なのは、そのリーダーが特殊能力者パーフェクターだということだ。そのリーダーに煽動された下等種族が事件を起こしている」

「そうか……」


 ブリュンヒルデの『次のミッション』を受け取った私は、椅子から立ち上がる。過激派レジスタンスのリーダーを始末しろ――。それが次のミッションだろう。


「ところで――」

「…………?」


 星見の間から出る直前、私は呟くように言葉を発する。これもある種の皮肉だった。


「“クローンと人間に対等な関係をもたらした国――クリスター政府”が世界を統治していた時代、こういう事件は起きたのか?」

「……“クリスター政府の政府代表だった女――クラスタ”に解決方法を請うた方が帝国のためになるかな、ふふっ……」

 【登場人物】


◆ブリュンヒルデ

 ◇クローン女性

 ◇ヴァルハラ帝国皇帝

 ◇フィルドのクローン

 ◇概要

  ・元々は「クリスター政府」所属で、クラスタ執行部では政府代表代行を務めていた。

  ・クラスタがシリオード大陸に遠征中、コミットらと共にクーデターを起こす。

  ・クーデター成功後、クリスター政府を解体・再編し、「ヴァルハラ帝国」を設立する。


◆コミット

 ◇クローン女性

 ◇ヴァルハラ帝国行政長官

 ◇フィルドのクローン

 ◇概要

  ・元々はクリスター政府の将軍。

  ・クーデター後はヴァルハラ帝国行政長官として帝国の統治を行っている。

  ・実は透明になれる魔法を使える。



 【世界の流れ】


◆クリスター政府崩壊事件

 ◇発生日時:EF2016年12月

 ◇主な関係者

  ・クラスタ(クリスター政府代表)

  ・ブリュンヒルデ(クリスター政府代表代行)

 ◇概要

  ・政府代表クラスタがシリオードに遠征中、政府代表代行のブリュンヒルデが起こした事件。

  ・ブリュンヒルデは、イノベーション・クローンを率いてクリスター政府を乗っ取り、一方的に解体・再編し、「ヴァルハラ帝国」へと組み替える。

  ・遠征中のクラスタ、シリカらは反発し、シリオード大陸で「クリスター政府」を継続する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ