はやとくんのすきゃんだる。 その6
前半隼人視点。後半一弥視点。
駅で落ち合った一弥さんが連れてきてくれたのは個室の焼肉屋だった。
まずは一杯っとビールを頼む。
乾杯してからビールを飲み干す一弥さんを見る。
「ん?隼人、飲まないの?」
飲みたいけど、謝ってからだ。
酔っ払ったまま謝るなんて酷い態度は取れない。
「飲みます。・・・けど、その前に一弥さんに謝らないといけないことがあって・・・・。」
俺は思い切って週刊誌のコピーを一弥さんに突き出した。
「すいませんでした!!!」
一弥さんを恐る恐る見る。
記事を読む目がスッと細められる。
めっ・・・・めちゃくちゃ怖い!!!
記事を読み終わったのか、つまらなそうに一弥さんが紙をテーブルに置いた。
「で、隼人は何を謝ってんの?」
「えっ!?」
な、何を・・・・??
「これさぁ、俺ん家にきてくれた時に撮られたんでしょ。
あのマンション芸能人何人かいるからいっつも下で張ってるし。
大方、それに気づいた唯ちゃんがカモフラージュに隼人巻き込んだんでしょ。
俺と雑誌に載るのなんて、死んでもごめんだろうからねぇ。」
自嘲気味に・・・・それでいて皮肉っぽく嗤う一弥さんに目が釘付けになる。
「そこまでわかるんですか・・・・?」
俺、まだ一言も説明してないのに。
「2人の性格考えればすぐにわかるよ。
俺の気持ち知っててお見舞いにわざわざ唯ちゃん連れてきてくれた隼人が、自分から進んでこんなことするなんて思わないし。
というか、そんな奴だと思ってたら弱ってる時にわざわざヘルプ頼まないから。
唯ちゃんは唯ちゃんで、この間の一件で相当警戒してるってのは想像つくしねぇ。
・・・・・・・・まあ、これがきっかけで隼人が華穂ちゃんから唯ちゃんに心変わりしたりしたなら容赦しないけど。」
仄暗い笑みを向けられて背筋が震える。
顔は笑ってるのに目が全然笑ってない。
俺は慌ててブンブン首を横に振った。
「それなら別になぁんにも謝ることはないね。
ほら、飲め飲め。」
一弥さんに促されてビールを呷る。
「で、話は終わったのに、お前はなんでそんな顔してんの?」
う・・・・、もやもやしてるのを見抜かれてた。
「俺・・・・殴られる覚悟できたんで、拍子抜けしたっていうか、器の違いを見せつけられたっていうか・・・・。」
俺、ほんとダメだなぁ。
一弥さんは俺のこと信じてくれたのに、俺は一弥さんが俺に寄せる信頼を疑ってたってことじゃないか。
「俺、ほんとダメなんスね。
こんなんだからコメントだって思いつかない。」
「コメント?」
「この記事についてクラブからコメント出さないといけなくって、そのコメント考えとけって。
一弥さんの名前を出さずに、且つ俺の恋人じゃないっていうのを伝えないといけないんですけど、なんて書いたらファンのみんなに納得してもらえるのか・・・・」
「それさぁ・・・・唯ちゃんに話してみた?」
「唯さんも何も思いつかないらしくて、何も思いつかない俺に『一弥さんと自分の名前を出していい』とまで言ってくれて・・・・。
でも、俺、それはしたくないんです。
この前週刊誌に載った時は唯さんすっごくやつれてたみたいだし、裕一郎さんにも迷惑かかるし・・・・。」
って、これは騒ぎを起こした一弥さんに言うことじゃなかった!!!
俺の言葉を気にした様子もなく一弥さんは『ふぅ〜ん』とだけ返事をした。
「ごめん、ちょっと電話かけてくる。
隼人は好きに注文してな。」
「あ、はい・・・・。」
電話をかけに部屋の外に出ていく一弥さんを置いていかれたような気持ちで見送った。
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『隼人様を殴ったりしてないでしょうね。』
電話が繋がると同時に聞こえてきた剣のある声に仄暗い感情が広がる。
「・・・・開口一番がそれ?」
俺相手の電話で真っ先に他の男の心配なんてねぇ。
『当たり前でしょう。隼人様は何も悪くないんだから。
私が無理に頼み込んだことなんだから、お門違いに隼人様を責めたりしないでよね。』
「なんかそんなに庇われると、逆にやりたくなるよねぇ・・・・」
『・・・・・・・・相変わらず、性格悪い。
で、要件は?』
「唯ちゃんの声が聴きたかっただけ。」
『切るよ。』
「相変わらずつれないねぇ。」
『バカなこと言ってないで早く言わないと本当に切るからね。』
「はいはい。
隼人のコメントの件、唯ちゃんならいくらでもアイディアあるだろうに、手を貸してあげないのはなんでかなぁと思って。」
『・・・・・・・・。』
電話の向こうで返事をしようかどうか悩む気配がする。
・・・・俺には話せないってこと?
『・・・・・・・クラブの社長に今回の件を利用して隼人様へ危機管理意識を芽生えさせたいから、本人に考えさせてって頼まれたの。
本当は何の非もない隼人様に負担をかけるのは心苦しいんだけど・・・・。』
そこでひとつ小さなため息が聞こえてきた。
『・・・・一弥もごめんなさい。
私の軽率な行動で迷惑をかけて。
本来なら全て私ひとりで対処しなければならないのに。』
身体の奥がぞくりとする。
そもそも唯ちゃんが警戒しなくちゃならなくなったのも、マスコミがいるとわかっていてその前を通らなくちゃいけなくなったのも元はと言えば俺のせいなのにそのことには一切触れない。
ただ起きた結果だけを直視して謝る潔い彼女。
やっぱりいい。
電話の向こうではしょぼくれた顔してんのかもしれないけど、それだって彼女の強さに思えて無性にその姿が見たくなる。
『私が頼める立場じゃないけど、隼人様の話を聞いてあげて。
きっと今回の件は隼人様の力になるから。』
・・・・その強さの使いどころが他の男・・・しかも隼人のためっていうのにちょーっとイラッとするけど。
「いいよ。貸し一つにしといたげる。」
『わかった。
私にできることなら頑張って返すから、なにか考えといて。
ただし、拒否権は有りね。』
「貴重な機会だからじっくり考えて使わせてもらうよ。」
もともと隼人を助ける気ではいたけどね。
でも、これでまたひとつ唯ちゃんへの繋がりが増えるなら利用させてもらおうかな。
ちょっとでも捕まえやすくするために。




