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「まあまあ、レディス。隠居するには若すぎますよ」
会場におっとりした声が響いた。
「母上?」
「デブラ王太后さま?」
陛下が席を立った後に、いままで呆気にとられて王子たちの会話を聞いていたものたちが敬礼をする。
私も急いでした。
「みなさま。お久しぶりですわ。面をあげて。ほらほら、アルバートもレディスも席について。わたくしとリュークとヒルドさまの席も用意してくださいね」
アルバート陛下がいまだにうろたえて院長先生を見ている。
リューク!!
院長先生の横にリュークがいる!! なんで!!?
胸が痛い。
いとこのシス国王太子のヒル(本名はヒルド=シス)がここにいる理由も分からないけれど、そんなことはどうでもよかった。ただリュークのことでいっぱいだった。
「リューク。いつ戻ってきたんだ? それにヒルドさま、この度はどのようなご用件で。見ての通り、ただいま我が国にとって大事な成人式を行っておる」
陛下が驚きながら言った。
「おひさしぶりです。兄上」
「兄上?」
陛下に向かってリュークが放った一言に、会場のみんなが驚きながらリュークに釘ヅケだ。ということは、彼は陛下の弟……王弟殿下ってこと!? たしかに王宮から王弟殿下は出奔されたと聞いていたけど……。
はじめて彼の正装した姿を見た。かねてからのチャラい印象がない。
街にいるリュークと別人に見えて彼を遠くに感じる。
ギルバードもまた、予期せぬ人物の登場に首を傾げていた。
「叔父上?」
「わ、わたくし、メグと言います!」
はっ、はやい! いつの間に玉座の前に移動をしたのか。
場を読まないメグによって、少し落ち着いた。
リュークが言う。
「愛するユリアが愚かな者たちによって貶めれると聞いて、王宮に戻りたくなかったけれど戻ってきたのだ」
「キャー」
と叫ぶ令嬢方々。私の思考はもうとっくの昔に切れている。
「リュークさま。リュークさまはなにも知らないのです! 学園であたくしがどれだけユリアさまにいじめられたのかを。うっ、本当に怖かったです。やっと安心して暮らせると思ったのに……また……」
メグが泣き出した途端、トーマスが彼女の肩を抱きしめる。
婚約者のいる前で他の男に抱かれていいのか? その前にギルバードも普通トーマスに敵意を見せるところを、なんでそこでリュークを睨んでいるの?
「そ、それは本当か!? そうかリュークとユリア嬢は恋仲なのか?」
なぜそこで王様が喜ぶの?
「いいえ、違います!!」
なんかここで否定ないととんでもないことになりそうなので否定した。それにリュークとは恋人じゃないし……。
「ユリア? 私の気持ちのテディーベアを受け取ってくれたじゃないか? 私の誕生日にユリアの目の色の緑のテディーベアをくれるって言ったじゃないか?」
ま、まさか! そのために、わざと下町にテディーベアの求婚のジンクス、習慣を広めたの!?
「あれは、あれは女院のみんなの気持ちとしてリューク殿下、デンカ(強調して)に差し上げます!」
「愛するユリアが貶められると聞き、王宮に戻る気はなかったが戻ってきたのだ。
あなたに本当の自分を知って欲しくてここにきた。
この一年、令嬢と言う肩書きなしで生きるあなたに俺は惚れたんだ。あなたに本当に自分を知って欲しくてここにきた。俺と結婚してくれ、ください」
リュークが目の前に来て片足をひざまずいて、私の手をとった。
「ちょっと、リューク。あなたは騙されているのよ! この女、男をたらしこむのが上手なのよ!」
メグの言葉で再び現実に戻る。よかった。このまま流されてしまいそうだった。セクシーチャライケメンビームは、暗示の術なのか?
「そうだ! 叔父上はこの罪人と結婚して我がユク王国の将来に傷をつけるおつもりか! それ以前に、何年も王族としての義務をほったらかして生きてきた叔父上に、この場で我々と対等な立場に立つ資格などない!」
「ギルバード!! 黙れ! リュークになにを言うんだ!!」
王様の声で、ギルバードはまだなにか言いたそうな顔をしていたが口を閉じた。