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のらりくらりとバカたちの罵声を聞き流して(もちろんザックが一人で相手をして私は隠れてお友達とガールズトーク、で近状報告していただけだけど)、国王陛下をはじめ王族入場。
あれ? あれが第一王子かあ。はじめて見た。
ギルバードに面影がそっくり。ただ髪の色と目の色が茶色だ。色彩が違うだけで柔和な感じがする。確かお名前はアンドレさま。はじめてお目にするアンドレさまを見て、ため息を吐く令嬢の方々。
いまだに婚約者がいない肉食系令嬢さま方の目がきらり。その代表的な人がメグ。
続けて成人の儀式がはじまった。陛下からお祝いの言葉。
父さまは王さまの隣に立っている。密かに宰相より待遇のいい場所だ。
陛下の話が終わった後に、司会者の宰相が「我が国の大事なことを伝えます」と言葉を発した途端。
「父上。この祝いの場でお願いがあります。この場にふさわしくない罪人がいます。いつまでたっても自分の立場をわきまえずに、我々王族の前に出てくるなど許しがたいことです。
せっかく慈悲で一度は放免してやったのに、ノコノコ現れて、また私の最愛の婚約者に害を与えようとしております。
どうぞそやつを断罪してください!!」
ギルバードは入場してすぐに私の存在に気づいていた。
そりゃあ、でかいザックが隣にいるし。メグがいかにも不安そうにブルブルして王子と私をキョロキョロ見ていれば、ギルバードがおもいっきり勘違いするのは当たり前。かなりむかつく。
「ギルバード。いまはそのような話し合いの場ではない」
陛下が切羽詰まった声を出す。宰相からの大事な話は?
「なにを言うのですか! これ以上、罪人ユリアと同じ空気を吸っていたくない! 父上、私の愛しい婚約者にさらになにかあったら、どうするのですか!?」
「父上さま~。さっきもユリアさまに散々文句を言われて。ひっく」
陛下を結婚前に父上って呼んでいいのか? それもみんなの前で。まだ正式な婚約発表がされていないのに。
「罪人ゆりあ!? ギルバードさま、まさかあなたは私のかわいい娘を罪人と言っているのではありませんよね?」
父さまの声も目も顔もすべて怖い。またザックの背中に避難したいです!
「ギルバード! レディス公爵及びユリア嬢にいますぐ謝罪しろ! メグ そなたは庶民の身分でなぜこの場におる! ギルバードとの婚約は認めておらんはずだ!」
「えっ?」
メグがキョトンとする。多分会場にいたすべての人も唖然としている。
「な、なにをおっしゃるのですか? 父上。わたくしがメグと結婚すると何度も言ったではありませんか?」
「愛妾は好きにしろと言ったが……正妃はユリア嬢と……」
「おっほん。失礼。陛下。なにを今更おっしゃっておるのですか?
一年前と今日、私の娘をここまで愚弄した男の元に、なぜ娘を嫁がせなければならないのですか?」
父さま! そ、そんなに強気に王様に本当のことを言わなくてもいいのに。と思いつつ、もっと言ってと思う自分がいる。
父さま、かっこいいです!
「レディス。そ、そうだな。そうだ、アンドレアと結婚してはどうだ? 王太子はアンドレアにしよう! それが一番いい」
「父上! そんなたわごとを言って!」
「父上?」
顔を真っ赤にして怒り出すギルバードと混乱しているアンドレアさま。私はひたすらかやの外。空気です。私はなにも聞かないし聞こえないし。
「いいえ。一度ひどい目にあわされたユク王家との縁は結ばない!」
違う意味で処刑台が見えた。母さま、父さまと近いうちに会いに行きます……逝きます……。
「な、なにを! 娘が罪人だったら父親も罪人なんだな! 父上、さっさとこの父娘の処分を! 不敬罪で処罰を!
レディス家にはちゃんとした後継ぎがいます。
クリスはしっかりした人物です!」
「陛下。数々の父と姉の暴言をお許しください。この罪は私が公爵家をついだ暁には、陛下をはじめギルバードさまを支えていきます」
クリスが陛下の御前まで行きひざまづく。
「そうよ。そうよ。この狂った父娘が悪いのよ。ギルはあたし以外の人を愛さないわ。子供はあたししか生めないから、だからあたしが王妃よ!」
場を読まないメグ。なんでいま出てくるの?
「お、お前たちは黙っていろ! レディス! ちょっと落ち着いて話し合おうではないか?」
「今更話し合いなど。わたくしとユリアが不敬罪? そろそろ隠居でもして、シス国の空気でも吸ってこようかと考えています」
シス国に亡命するのか……。リュークと会えなくなるのかな……。ふとアンドレア王子と同じ茶色の目の彼の顔が浮かんだ。そういえば王様も茶色の目だ。