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 ザックにエスコートしてもらいお城にある控室に戻った 少し横になり、はやめに夕食を取った。

 お風呂に入り、公爵家から連れてきた侍女たちによって舞踏会の支度をする。

 

 今回は縦巻ロールをしていない。不満そうな顔をする侍女たちをなぐさめながらハーフアップにした。もともとの私の髪質はストレートだ。

 毎日侍女たちは、縦巻ロールにしてくれていたなんてすごい。


 (悪役令嬢ユリアのイメージから崩壊します!)



 と気合を入れないと死亡する未来を考えそうで怖かった。なによりリュークが私にやさしくしてくれたのは、ただ情報が欲しかったからなのか? と考えてしまう。


 もちろんクリスとトーマスと、今後どんなふうに関係をしていくのか不安になる。

 でもすべてを捨てて逃げ出す選択をすることも、原作修正という言葉にしばられてできない。


「できましたわ。なんてお綺麗なのかしら。将来の女公爵さまにお相応しいお姿です」


 鏡に移る姿は乙女ゲームのスチルに出てくる悪役令嬢に似ていない。トラペーズネックのモスグリーンドレス。舞踏会には地味な色。でも上品でダイアモンドの首飾りが目立つ。

 

「ありがとう。わたくしじゃないみたいに綺麗ですわ」


「いいえ。ユリアさまはどんな服をめしてもお綺麗です」

 

 彼女たちは私が成人式から部屋に戻るのをずっと待っていた。彼女たちは城の侍女たちから私が女公爵になることを聞いた。 


 彼女たちはクリスと義母が屋敷から出ると知り、歓喜によっている。

 彼女たちに、「ぜひよい殿方を捕まえてください」と言われて、気合を入れて準備をしてくれた。


「失礼します。ザックです」


 侍女の一人に案内されて、私の部屋の一つの応接間にザックが入ってきた。

 今夜もザックがエスコートしてくれる。


「なんて綺麗なんだ。ユリアはまっすぐな髪が似合っているよ。シーツに真っ黒なベールが流れる姿を想像するだけで、俺の体が熱くなるよ」


「……」


 (えっ? 誰こいつ?)


 すでに攻略キャラたちは続編18禁モードに入っているのだろうか。


 今夜のザックは騎士の制服を着ていない。黒いタキシード姿で、襟のボタンをしていない。はじめて見るタキシード姿のザックは男前だ。


「ザック。式場へ行く前に庭園を散歩しましょう」


「!! はっ、はい! も、もちろんです」


 私をエスコートするザックの歩調がちぐはぐになっている。いまから彼に話す内容を考えて心が重い。

 庭に出ると、柔らかい春の風が足をなぶって通り過ぎる。

 夕暮れ時の庭園は、いままで何度も訪れたことがあるのに改めて美しいと感じ入った。


 庭園の真ん中にあるガゼボのベンチに腰を下ろす。私につづきザックも隣に座った。でもお互いベンチの両極端に座っている。部屋を出てから二人とも無言だった。


「ザック」

「はっ。はい!」


 座っていてもザックを見上げる形になる。


「ごめんなさい。わたくしはザックのことを婚約者、いいえ恋愛対象に見ることができない」


「……っ!! そ、それは」「お願い、最後まで聞いて」


「はい……」


「ザックには感謝してもしきれない。ザックに会わなかったら、とーさまに会う機会がなかったわ。いいえ、違うわ、会いに行くのが怖かったの。

 ザックだけが私に謝ってくれた。そ、そして、私に求婚してくれた。

 うれしかったの」


「そ、それでは……」


 絶望的なザックの顔がなにかを期待する顔になる。


(胸が痛い。)


「私はザックのことを人として好きよ。友人だと思っている。で、でも、ふとあの時のことを思い出す度に、ザックのことも憎くなるの。

 だから、私はあなたとは一生結ばれることはないわ」


「っ!!」


 辺りが静寂に包まれる。どれくらい時がたったのだろう。数秒もしくは何分も過ぎたのかもしれない。

 私はただザックのかわいい顔が葛藤している様子を見ていることしかできなかった。いま彼から目を離すことなどできなかった。


「わかっていました……。わかっていたよ。

 ユリアが俺のこと異性として見ていないの知っていたよ。で、リューク殿下に惹かれていることも知っていた。


 でも、もしかしたら、今後一緒に過ごす時間が長くなれば俺のいいところに気づいてもらえると思っていた」


「ザック……。私はあなたのいいところをたくさん知っているわ……」


「なんで俺は! なんで俺は人を見る目がなかったんだ! ユリアの頭から流れる血の光景を何度も思い出すんだ。その度に、俺がユリアを傷つけた分、幸せにしなくてはいけないって思うんだ……。

 俺にはその償いをする機会も与えてくれないんだな……。

 きっとユリアを苦しめた罪は、俺が一生ユリアに恋愛対象として見てもらう機会を失ったことなんだな……」

 

 ザックになにを言えばいいのかわからない。辺りは夜の気配が漂いはじめる。


「ザックには、ザックに合ういい人がいるよ。よし! 舞踏会に行って、ザックのいい人探そうよ! もし気になる人がいたら、言ってね。協力するよ。

 私の護衛も途中でサボってもいいからね」


 真剣な彼を茶化す私は最低。


「……あっはっはっはーーー。さすが! ユリア! 残酷すぎる!」


 あれ? それって褒められるポイントなのか?

 まあ、ザックはM男だしね。


「よし! S女王さま探すぞーー」


「……S 女王さま?」


 ブツブツ聞いてくるザックにニヤニヤしながら舞踏会会場に入場した。


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