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「ユリア! ずいぶん時間がたったから心配で迎えに来たよ!」
ザックのデカい声が廊下に響き、少し離れた場所にいるポリアンナさまの護衛たちが警戒する。
ザックのことをいままでただデカい脳筋ワンコイケメンとしか見ていなかった。
他の人たちのこともイケメンとか身分でしか見ていなかった。それは私がゲームをしていた時の感覚で人を見ていたからだ。とザックを見ていると欠けたパズルがハマったようにすべての混乱がつながった。
じーっとザックを見ると、一年前に触れたザックとのエピソードとゲームのエピソードがつながる。
ザックの家名さえ気にしていなかった。ザック=シルロード。シルロード伯爵家は『王家の剣』と言われる古くから続く伯爵家だ。何代か前に王妃を出している家。
ザックは剣と体を鍛えるしか脳がないと思っていたが頭がいい。メグの取り巻きをしていたのに、一人だけ授業には必ず出ていた真面目な性格だ。
顔は伯爵夫人に似てかわいい顔をしている。光沢のある緑の髪の毛は、この国に珍しく短髪。目は黒に近いこげ茶。
学園の訓練所で、メグがザックにタオルを持っていくイベントがある。その時に他の騎士見習いが突然乱入してきたメグに驚き隙が出た。
ちょうど相手の木剣が触れた時で、騎士見習いの木剣がメグの方向へ飛んだ。
ザックがとっさの判断で自分の木剣で飛んできた木剣を跳ね返す。
「バカヤロ! 勝手に訓練場に入る奴がどこにいる!!」
とザックが罵声する。メグが泣いて、「ごめんなさい。あまりにもザックさまが一生懸命で、流れる汗が目に入って、目元が狂い怪我するのではと心配したの。ひっく」という。
これがゲームであったイベント。
この世界を生きているユリアは、ザックがはねのけた木剣で怪我した女の子から相談を受けた。彼女はザックを毎日見学していた男爵家出身の子だった。だからメグに注意をしたところをザックに見られた。
ザックはメグの嘘の主張を信じた。
「まあ、ザックさまではありませんか?」
私の隣にきたザックにポリアンナさまが話かける。
「どちらさまでしょうか?」
私の顔が優れないことに気づいたみたいで、ザックがポリアンナを警戒している。彼が人気があった理由は、弱い者にやさしい騎士精神の持ち主だったからだ。といっても、ザックのかわいいお母さまがビシバシ教育したせいなんだけど。
「はじめまして。わたくしは、ネイ国第一王女ポリアンナ=ネイと申します」
「お初にお目にかかります。シルロード伯爵家長男。第一騎士団員ザックと申します。ただいま愛するユリアさまの護衛任務中です」
ザックはザックだ。私、深く考え過ぎ! つい微笑む。
「まあ、やはりユリアさまに熱心なんですね」
「はっ、はい! もちろんです!」
デカいザックが顔を赤くした。顔はかわいいのに、どうして体をボディービル顔負けのように鍛えたのだろう。残念すぎる。顔は美少年キャラだったのに、ごつい体になんでしたのよ!
「でもザックさまは快楽と愛を履き違えているだけよ。わたくしがこの胸で窒息させて、鞭でピッシーってしたら、あなたは本当の愛に目覚めるはずよ。
なによりこのままユリアさまに執着したままだったら、将来反逆者になった彼女への愛と国の忠誠心との狭間に立たされるのよ。
最後に『あなたを愛しています。私もすぐにあなたの後を追います』といって、アレをしている最中にユリアさまを窒息させるわよ」
「……」「ユリア。俺、王女さまの言っている意味が分かんないんだけれど。これ何語なんだ?」
ザックと私は……放心状態……。
「ザック。この世には知らない方がいいものもあるよ。だからなにも考えないで忘れなさい! これは命令よ。分かったわね!」
ザックが腑に落ちない顔をしているが「わかった。ユリアがそういうんだったら」と言った。
(……ザック、ワンコ系にM男なんだあ……。そこで私の言葉を普通鵜呑みにする?)
「ま、まさか! ザックが私を見つけた理由を教えて!!」
「ちょっ、ちょっと、いきなりどうしたの?」
「お願い! 教えてください!」
どうしても理由を知らないといけない。
「ええ、まあ。今後の攻略に関係ないので教えてもいいわ。
ザックさまは学園を卒業して騎士団に入団したでしょう。ユリアさまを傷つけたことで、自分が本当に騎士になっていいのか葛藤していたの。
ユリアさまと面会できず謝罪できなくて、ますます自分に自信がなくなってしまった。
それを見かねた先輩が女園へザックさまを連れて行ったの。
先輩が『どんな女性が好みなのか?』と聞くと、『黒髪に緑の目』と答えた。そしてユリアさまに出会ったのよ。
後の話はさっき言ったでしょう?」
ザックと確かに出会った。でもそこは『女院』だ。
私とザックには体の関係なんてない。でも、ときどき彼を見て、鞭でしごくぞ!とか思ったことがある。これはポリアンナさまが言った修正なの!!??
「おい、ユリア。俺、おまえたちがなんの話をしているのか何も分かんないだけど……」
「ザック。ちょっとしずかにしていて! いまポリアンナさまと大事な話をしているの。
ポリアンナさま、お願いします。もう一つだけ教えてください。リュークには、王弟のリュークはわたくしのことを嫌っているのですか?」
ポリアンナさまの赤い唇が開く。彼女の口元にあるホクロが彼女の魅力を引き立てている。