16
ポリアンナさまの説明したもう一つの私の過去は現実的だった。
もしザックが加減できていたら、私は頭を打って3日間寝ていなかった。学園からクリスによって直行で捨てられていた。
リュークが学園の噂を聞いて私を探した時はすでに娼婦館で乱暴を受けた後だった。
もう一人のユリアはプライドが高い。もしリュークが彼女を助けに来たとしても貴族の手などかりない。
学園婚約破棄イベント以降の原作は私のもう一つの未来。
第二段の未来をできるだけ知らないといけない。
「普通はね。乙女ゲームに転生したプレイヤーは、ライバルに情報を教えないものよ。でもね、あなたにはちゃんとシナリオ通りに動いてもらいたいから教えるわ」
転生者のプレイヤーは多いの? 記憶が混乱して頭が痛い。
「とりあえずわたくしが逆ハーレムエンドを迎えたら、隠しキャラが出てくるの。ユリアさまのいとこのヒルドさまよ。シス国王太子を攻略すれば、戦争を回避できてあなたはシス国へ亡命できるわ。
このルート以外は、あなたは死ぬわ。
これが一番あなたによい結果で、ユク国とネイ国にとっても一番いい終わり方よ。
もちろんわたくしは全員とアレをしないといけないの。ちょっと不安だけれど、わたくしのこの体は全員の愛を受ける義務があると思わない?」
途中からポリアンナさまの言っている意味が分からなくなった。
「アレ? 攻略対象者って誰ですか?」
「もうそんな恥ずかしい言葉をわたくしに言わせないでくださる? もう恥ずかしいわ。うふ」
顔を赤く染めたポリアンナさまは、体をモジモジさせている。メグに仕草がそっくり。
「おっほん。攻略対象はクリスさまとトーマスさまとアンドレアさまとリュークさまよ。『異世界イケメンらぶ第一段』でたとえヒロインメグさんがギルバードさま以外のプレイヤーと結ばれても、続編で修正が入るの。
ゲーム終了後にギルバードさまが権力でメグさまを犯して、自分の妃にするのよ。もちろん第一段後のことだから、続編のオープニングを見ないと知り得ない事実だけれど。
だから権力に負けた攻略たちを、第二段続篇でもっと素敵なヒロイン、つまりわたくしのことね、とアレして幸せにしてあげる設定なの。きゃ、うふふ。
これははっきり言って、製作者がキャラ作りサボったせいだって。そんな批判が多かったけれど。まあ、もともと第一段から薄っぺらいキャラたちだったから、続編でちょこっと手を加えて味を出したら、また新鮮でいい、と言う手なのかもしれないわ」
ポリアンナさんがさっきからキャラが薄いとか甘い設定とかいう度に、クリスやギルバードと過ごした幼少時代の映像が頭の中に流れる。
私は……クリス、ギルバードをはじめ、メグの取り巻きたちをただイケメンとして見ていなかった。いま、それぞれの特徴など一緒に過ごした時間の映像や気持ちを思い出す。
(頭が痛くて割れそう……。)
「オープニングで、メグさまがギルバードと婚約したことで、ユリアさまが心に仕舞っていた復讐心を思い出して行動するの。いくらアンドレア王子と婚約したと言っても、彼は将来王さまになれないでしょう。
近くでメグさまが王妃になることを見るのは嫌なのは分かるわ。
わかった?
あなたがもう始めている復讐劇の修正はできないの。ほら、悪役令嬢小説でバッドエンドにならないようにフラグ折ろうとしていろいろ試すでしょう?
でも原作の修正は必ずあるの。これは運命なの。
だからユリアさまは、わたくしが逆ハーレムルートで隠しキャラのヒルドさまと結ばれるために、がんばってわたくしをいじめてくださいね」
ポリアンナさまの話す内容を理解できそうな自分と、私以外のもう一人のユリアが「ゲームってなに?」と脳内でいろいろ聞いている。
その度に頭が割れそうで痛くなる。
もう一人の私はポリアンナさまの話の中にある復讐劇に興味を持った。
多分私は前世の記憶を持つ。でも確実に認めることができない。
私はユリアだ。頭の怪我をしたユリアが、婚約破棄の苦痛と捨てられた事実で心を閉ざした時に現れたのかもしれない。
そうでなければ、王さまが言っていたように、環境の違う場所で生活に馴染むのは難しいのに、私はこの一年市井で楽しんで過ごした理由を納得できない。
ときどき王族やこの国に激しい怨念を感じることがあった。それは本来のユリアだったんだ。ゲームを画面越しに好きな場面だけを見ていたから、ゲームの世界が現実になった時に、周りの人物像を聞かれたら髪や目の色は言えても特徴を言えなかったんだ。
所詮ゲームの絵師が書くイケメンの顔は全員同じ。
いまこうしていろいろ考えているけれど、私は自分のことなのになにもわからない。