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「宰相、成人の儀式の続きを続行してくれ」
「はい……」
宰相が何度も髪の毛の薄い頭に手をおいてため息を吐く。人生の終わりのような顔をしながらトーマスを見ていた。
「創世記が終わり人々が国をつくる時代がきた。国をつくった者たちは『聖魔素』を持ち、国に結界を張っている。それぞれの国は結界によって、外部からの侵略をふせいだり、自然災害からも国を守っている。
聖魔素を持つものがいなくなった国々は衰え、ある国は滅び、ある国は侵略された。
ここにいる者たちのほとんどは、聖魔素を持つ者たちだ」
……すごく驚いて言葉が出ない。
王さまにみんな発言禁止されているから、しーんとしているけれど、大人以外は驚いている。
「聖魔素保持者は、神殿で魔力を測る幼児期に確認される。その時、、庶民でも聖魔素を持っている者は適齢期に学校への入学を優先的に認めるのだ」
学校はてっきり生活魔術を教えるだけだと思っていた。
たしかに魔力のコントロールの授業もあった。騎士クラスは攻撃魔法とか習っていた。
「学園卒業後、中央役人と働くによって、聖魔素保持者には結界に魔力を注ぐ。魔力提供の代わりに国から特別手当が与えられる。魔力提供は義務だ」
結界魔法など聞いたことがない。ましては見たことなどない。
「それぞれに見合った爵位を与えられる。家督を継ぐものはいままでの通りに。女性に関しては、それぞれに合う婚約者を国が斡旋する。
爵位を持つ者は、国から貴族俸祿を与えられる。
しかし子爵以上で聖魔素保持者が3代以内でいない場合は爵位を一つ落とす」
爵位の降格はプライドの高い貴族にとって、それは死刑宣言と同じだ。
「聖魔素は、両親両方とも聖魔素を持っていないと生まれない」
えっ?
「ただし例外として、突然に聖魔素を持って生まれる場合もある。数が少ないが、その者の家系をたどると上流貴族が先祖にいる場合だ。
たまに片親が聖魔素保持者でも子どもができ、子どももまた聖魔素保持者になる場合もある。
よって結界を保持するために、聖魔素を持つ子どもを生むことは、つねに国家防衛における急務だ。
たまに片親が聖魔素でも子どもができ、子どもも聖魔素保持者になる場合もある。
先祖返りで突然変異で聖魔素を持つものもいる。
よって結界を保持するために、聖魔素の子どもを生む義務がある。聖魔素保持者は聖魔素の相手にしか国は結婚を認めない」
「それは横暴です!」
小さい地味な女の子がふるえ声で叫んだ。彼女は庶民出で成績は優秀だった子だ。たしか幼なじみの婚約者がいると言っていた。
「横暴かもな……」
王さまが彼女の発言を咎めなかった。よかったと安堵する。
「聖魔素保持者は、聖魔素保持者以外と結婚する場合、子どもができにくい」
宰相の声は、ナイフのように成人したばかりの私たちの心をさいた。
「そ、そんな……」
さっきの子が泣き崩れた。
「それでもよいと言うなら、結婚すればいい。だが、聖魔素のことは誰にも伝えることのできない国家機密だ。よって、聖魔素について知る者には、聖魔素のことを伝えられない魔法を施しておる。
結婚する相手に子どもができにくい事実をふせ、結婚するのならすればいい。許可する。だが国から恩恵を受ける気でいるな。
結界を張って国を守っておる者がいて、自分は義務を果たさず、恋だ愛だと言って国を守ることを放棄する奴などいらぬ」
美中年の陛下が、いっきにふけた気がした。いつも私に対してニコニコ笑っているから、投げやりの顔を見るのははじめてだ。
真実を知った庶民の娘が、床に座り込み声を殺しながら泣いている。
いったい、秘密にされている魔法がどのくらいあるのだろう。