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「ユリアさま、俺と結婚してください!」
「だ、か、ら! ザックさま! もうあなたの謝罪お受けしたって言ったでしょ! もう責任とって結婚するとか固い! 固すぎ!」
固いのはその全身モリモリ鍛えてますという筋肉だけにしてよね!
「違います! 額につけた傷はもちろん。あなたさまをこのような境遇にしてしまいました!」
「だから、家を追い出したのは、弟のクリスでザックさまには関係ないの!」
「しかし、あの日、俺はみなさまと一緒にユリアさまに無実の罪を着せ、学園を追い出しました。まして! 俺は! ユリアさまをひざまずかせようとして、頭に大怪我をさせたのです……!
弱いものを守るようにと父にずっと言い聞かせられて訓練した毎日だったのに……ユリアさまに傷をつけてしまった俺が騎士にはなれません。
お願いします。俺にユリアさまを幸せにする機会をください!」
固い! 固い! 固すぎ! プラス、熱い、熱い、熱すぎ! 身長185センチでマッチョ。マッチョでせっかくの騎士服もピチピチ。制服を支給されてからさらに筋肉つけたのか!?
せっかく母親のかわいい顔を受け継いだんだから、体もかわいくしてよ! 全然わんこ系ハーレム要員じゃないよ。
「もういいから。それと私、もう庶民だから、地で喋っていいよ。さっきから、ザックさまの話し方滅茶苦茶だよ。俺って言ってるし。まあ、そっちの方がいいよ。私もこっちが楽だから地で話すね」
「は、はい! 俺とユリアは!!! 素で話す仲に! 俺の名前を呼び捨てにしてもらえてうれしいっす!」
「はあ?」
誰かこの脳筋男どっか捨ててきて。
「さっそく、レディス公爵さまに婚姻の許可をいただいてきます! それではのちほどお迎えに参ります」
「はあ? って、なんでお父様に? 外交から戻ってきたの? って、いないし……」
あのでかい奴がいなくなって、チラホラとお店にお客さんが戻ってきてくれた。
王宮騎士の制服着た奴が、こんな城外のさらに貧困街にある雑貨店兼装飾店にいたら、誰だってビビるよね。
私は一年前までレディス公爵家の長女で、第二王子ギルバード様の婚約者だった。小さい時から王太子妃として教育されていた。
第二王子ギルバード様は王妃の長子だ。王様との間に子どもがなかなかできなかったから、王様が側妃を娶り、さきに側妃が第一王子を出産された。その二年後、王妃が第二王子を産んだのだ。
第一王子の母親は没落寸前の伯爵家で、なんの後ろ盾もない。
一方で、王妃は大臣筋の侯爵令嬢。跡継ぎは自然と第二王子と周囲に注目され、さらに私との婚約が取り交わされたことで、レディス公爵家と結びついてさらに地盤を固めた。こうして、ギルバード様は幼年にして正式に王太子になった。
第一王子は幼少の時から外国に留学していて、一度も会ったことがない。
第二王子は金髪碧眼。将来の旦那さまと思って恋心はなかったけれど、幼なじみで家族愛があった……。
だけど、頭ぶつけて血が出て死をさまよって3日間。私は悟った。悟った私は偉いよ、偉かった自分。じゃないとこうして庶民として生きていけなかった。