第5話 思い出の街プロテアでの悲劇
多数の島々から構成されていたヴァルデンブルク王国は大陸国家からの侵略を自然防壁である海によって守られていた。
そんなヴァルデンブルク王国も今は歴史の1つとなり、現在はアルカディア帝国のヴァルデンブルク地方としてジーク・ブランシュタット・ヴァルデンブルク公爵が治めている。
潮風が心地よい。オレは旧ヴァルデンブルク王国首都プロテア。何もかもが懐かしい。
あの、古びた船場。高台。銀髪の豚親父。オレのいた頃から何も変わって…
「銀髪の豚親父!? お父様!!」
「リリアちゃん、こんなところで会えるなんて奇遇だね!! やはり、素敵な家族はどこいっても会えるものだね!?」
この豚。いったいどうやってここまで来たんだ!?
「お父様、つかぬことをお聞きしますが、どのようにこちらに来たのですか?」
「ああ、最初は空を飛んで来ようとしたら、途中で落っこちてしまってね。母さんに連絡したら、助けてくれたよ。その後は船首像にくくり付けられて、ブヒブヒさせられていたよ」
うちの両親なにやっているの!? 本当にこいつらは! 頭が痛くなってきた。そう言えば…
「公務はどうされたのですか?」
「執事のカイゼルに任せてきたよ」
ますます、頭が痛くなってきた。執事に仕事を全投げするのはどうかと思うぞ。
「あ、お母様」
「リリアーヌ、そろそろ、新しいお屋敷に行きましょう。あなたも、いつまでも首輪をつけてないで、いきましょう」
豚親父に首輪がついているのかよ。って、本当に首輪がついているんですけど…
ちょ、母よ。なにさも当然と言わんばかりに自然に親父の首輪のリードを引っ張らないでくれないか。親父も、四つん這いになってなにやってんだよ。ここは公共の場だぞ。
この場所は亡き妻イレーヌとの密会スポットで、思い出の場所なんですけど。ああ、どこを見ても懐かしい思い出が…
気にするな。オレ、この視界に入る豚なんて…
「リリアちゃん。なにこっちを見てるの? そんなにお父様を引っ張ってみたいの? リリアちゃんは仕方がないな。まだまだ子供だな」
「そんなわけあるか!!」
オレの思い出の地が四つん這いで歩く豚と母親のせいで台無しだよ! なんなんだよ。この夫婦は。本当に勘弁してください。