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第1話 生まれ変わったら女なんですけど

 全くと言っていい程に静まりかえった暗闇の世界。静寂せいじゃく。五感から得られる情報をまったく感じない。これが死というものだろうか。


          ・

          ・

          ・

 

 眩しい。これは明かりだろうか。オレがそう思って周りを見ると白を基調とした天井と天幕が目に写った。


 そして、オレを囲むように見知らぬ2人がいた。いったいここはどこなんだ。これが噂に聞いた天国なのだろうか? そんなことをオレが考えていると急に声が聞こえてきた。


「可愛らしい。女の子でございます」


「おお、なんと可愛らしいことよ。よくやった!」


 何だ!? この豚のような男は。オレを豚が上から覗き込んで微笑んでいるぞ。や、やめてくれ。オレを愛おしそうな目で見るな。


 それにしても、いったいこいつらは誰だ。そんな下卑た視線を帝王のオレ様に向けていいと思っているのか。不敬だぞ。


 オレはコイツら二人を指差して、引っ捕らえよと言おうと身体を動かした。だが、声がでない。オレの口から漏れた音はバブバブバだ。


 オレはなにを言っているんだ! それに何だこの小さい手は。オレの目には小さな手が見えぞ。まるで赤ん坊のような手だ。その小さな手はすごく可愛らしい。


 オレは自らの手を軽く握りしめる動作をしてみた。すると小さな手がオレの意思通りに動くではないか。まさか…………


 この小さい手はオレの手だとでもいうのか!? 嘘だ!!


 ど、どういうことだ。オレは巨漢でマッスルな帝王ヴァハドゥール・ド・ヴァルデンブルク様だぞ。いったいどうなっているんだ。


「実に君に似て可愛らしい!」


 銀髪の豚のような男が俺を見て笑っている。


 ま、まてよ。今、この男はなんて言った。実に君に似て可愛らしい? つまり、オレは、この女に似ていて…


 まさかオレはこいつらの赤子なのか。オレは必死に現状を把握するために頭を回した。


 だが、どう考えてもオレがこいつらの赤子であるという結論しか出てこない。つまり、これはあれか。噂に聞いた転生。オレは新たに生まれ変わったのだろう。


「いいえ、あなたに似て凛々しいわ!」


 オレはこの豚に似ているというのか。嘘だろ。最悪だ。あの凛々しかった顔が豚顔になってしまったのか…


「リリアーヌちゃん。かわいいよ。手をグー・パーさせて」


「あなたったら、貴族の威厳がありませんよ? 困った人ですね」


 リリアーヌだと? その名前は女だろ。まさか、その名前はオレの名前ではないだろうな。


「リリアーヌちゃんもパパに何か言ってあげて」


「アダ、アダババ」


 なにをオレは言っているんだ。嘘だろう。この帝王であるオレが女だと…


 オレは女に生まれ変わったのか!? あの優美な筋肉ボディはどこに…


 嘘だ! 元帝王のオレが女だなんて、ありえない。


「リリアーヌちゃん。パパでちゅよ」


 やめろ。顔を近づけるな。オレをつかんで頰摺ほおずりしないでくれ。オレは豚のようなおっさん(オレの父親であろう貴族)に頰摺りされ、テンションが下がりながらも現状把握に努めた。


 きっと、今回の転生はジークの野郎に復讐するために神がオレにもう一度チャンスをくれてのだ。だとしても、なぜ、性別が違うのか!!


「うー、うーうううう〜〜〜!! (オレは可愛い女の子が大好きなのに…)」


「あら?この子が可愛い声で私たちに反応しているわ」


 …声が出ないの忘れてた。こうして元帝王のオレが第二の人生を歩みはじめた。しかし、性別が女になるとは…


 まぁ、人生が2回もチャンスがあるだけラッキーと思って、細かいことは復讐を完了させてから考えることにしよう。


 ひとまず、豚のような親父に頰摺ほおずりされている現実からどうにかして逃避したい。本当にもうイヤだ。なんなんだこの状況。


「ほら、ほら、リリアーヌちゃん、髭ジョリジョリ!」


 や、やめてください。元帝王がお泣きになるわよ。げ、オレの性別が女だと思ったら、女言葉になってしまった。


 オレは、帝王ヴァハドゥール・ド・ヴァルデンブルク様だぞ。男の中の漢とちまたで有名な野郎だ。そんな、オレが女言葉を使うなど。なんたる恥辱。


「ジョリジョリ、ジョリジョリ、ジョリジョリジョリジョリ!!」


 やめてくれい。痛いから。髭に顔が擦られて痛いから。豚親父の執拗な髭攻撃を受けて、オレは悲鳴をあげる。


「そら、そら、そいや! ジョリジョリ、ジョリジョリー!!」


 離れろよ。この糞豚親父。嘘です。嘘です。もう、そんなことは言いませんから、髭攻撃をやめてください。


「ジョリジョリ、ジョリジョリー!! ジョジョリーン!!」


 もうダメだ。耐えられない。オレは薄れいく意識の中で、オレの第2の人生は前途多難に思えてならなかった。

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