第17話 失われた聖なる衣(女子の体操服)
雨音が静かな教室に響き渡る。まだ、学園がはじまってまもない教室内では、どこかぎこちない会話がちらほら聞こえてくる。
さてと、次は体育の授業か。体操服がいるな。よし、ロッカーに体操服を取りに行こう。オレがそう思って席を立つと、
「リリア様、体操服を取りにいかれるのですか? 私もご一緒してよろしいでしょうか?」
隣の席のニーナが捨てられた子猫のような目でこちらを見てきている。待て、ロッカーに体操服を取りにいくだけでそんな潤んだ目でこっちを見ないでくれ。なにかオレが悪い事をしているみたいじゃないか…
「もちろん、かまいませんよ。ニーナ、一緒に取りにいきましょうか」
「はい、リリア様!」
オレの言葉を聞いたニーナはまるで野原に咲いた可愛らしい花のような笑顔をこちらに向けて喜んでいる。なんなんだろうか。妹がいたらこんな感じなのだろうか…。
なにか釈然としないまま、オレはニーナと共に教室の後ろにあるロッカーまで歩いていった。
あれ、おかしい。オレは確かにロッカーに体操服を置いたはずだ。ない、ないぞ。体操服がない!
「リリア様、体操服が…」
ニーナの声に反応して、そちらを振り向く。すると彼女は今にも泣きそうな顔でこちらに話しかけてきた。
「おかしいです。昨日、確かに体操服の前にニーナって、名前を書いたモノをこのロッカーにしまったのに、ヒク、ヒック」
「お、落ち着いてね? ニーナ」
オレはニーナを抱きしめながら、オレ達の体操服がなくなった現状から1つの言葉が浮かび上がる。
そう、『いじめ』だ。小説や噂で聞いたことがある。まさか、オレが早速、その対象になるとは、そのうちに上履きに画鋲でも入れられるかもしれない。
オレがいったい何をやったんだよ。くそ、誰がオレやニーナにこんな酷いことをしたんだ。オレがそんな風に思考に耽っていると辺りから悲鳴が聞こえてきた。
「わ、私の体操服がないわ!」
「ワタクシのもありませんわ!!」
「あ、あたいもよ」
どうやら、体操服を盗まれた人はオレ達だけではなかったようだ。女の子達の中には泣き出す子や叫び回る子がいたために教室中が徐々にパニックになっていた。
「だ、誰か私の体操服を間違えて持っていってないかしら?」
「うるさいわね。ロッカーの管理をきちんとやってないあなたが悪いんじゃないの? 私のはあるわよ?」
そんな中で、お下げ髪をしたジャガイモのような凸凹の顔の少女が空気を読ますにそんな発言をした。そのせいで、教室内がさらに騒がしくなったが、オレから言わすときっと泥棒も、おまえのような奴からは盗みたくなかったんだよ。
そう思って、盗まれたと言っている少女達の顔立ちを見るとこのクラスでもかなり奇麗な部類に入る顔立ちをしているように感じる。
うん、その特徴は偶然の一致とは思えないな。
「おまえら、うるさいぞ! さっさと着替えろ!!」
担任のケビンがそう怒鳴って教室に入ってきた。
「先生! 体操服がなくなったんです」
複数の女の子達がケビンにそう涙ながらに訴えかけたが、
「体操服を忘れた言い訳をするな! 忘れた奴は運動場10周だ! いいな」
そう言って、奴は少女達の話に取り合わずに教室から出て行った。体操服を盗まれた少女達はケビンの奴によって無理矢理に運動場を走らされて呼吸を荒げながら、悲鳴をあげている。
ケビンはそんな少女達を見ながら、なぜかニヤニヤ笑いながら嬉しそうに少女達に罵声を浴びせていた。
そんな光景を見ながら、なにか釈然としないまま、オレは運動場を走るのであった。