第16話 誰かの視線
オレが視線を扉の向こう側に向けるとシリウスが顔を引きつらせながら立っていた。どうやら、彼が先ほど、教室に入って、話しかけてきたようだ。
「お、おまえら、ナニしているんだ? 女同士で抱き合って…」
シリウスは額を押さえながら、気味悪い者を見るような視線を向けてきた。
確かにシリウスから見ると教室で二人の少女が抱きしめあっている訳だ。奴の視点だと、ユリ展開か…
だけど、シリウス。本当は、別に彼女に対して良からぬことをしていたわけでないのだ。だから、引くなよシリウス…
「いつから、そこにいたのよ」
オレは、シリウスの下げずんだ視線に耐えられなくて、話を逸らすために大声でそう話しかけた。
「なんで、オレがそんなことを答えなくちゃならないんだよ」
こいつはわざわざ人の癇に触るような言い方しかできないのだろうか。
「良いから、答えなさい」
「…オレは親父から呼び出されてたんだよ。今、教室に来たばかりだ。これから帰るんだ」
そう自分を指差して、偉そうにシリウスは言う。
「先ほど、扉を開けたのはあなたではないの?」
「オレが来た時には扉がすでに開いていたぞ」
オレからの質問になにを言っているんだと言わんばかりの目をしながら、シリウスはそう返答をする。それを聞いたニーナは、
「お、お化け!?」
といって、またオレを強く抱きしめて震え出した。オレはニーナを抱きしめながら、シリウスに先ほどまであったことを説明した。
シリウスはそれらの話を一通り、聞き終えて、
「だったら、オレも、学園の正門まではついていってやるよ。どうせ、おまえらは、まだこの学園の道を覚えてないだろう? また、迷子になられると困るしな」
そう言って、鼻で笑いながらシリウスがこちらに歩み寄ってきた。普段だったら、ぶちのめす所だ。
だが、シリウスの野郎はニーナの怯えようを見て、気を利かせてきたようだ。こいつの意外な一面を見た気がする。オレはもっと、こいつは糞野郎と思っていたが案外優しい奴なのかもしれないな。
「こんな不細工な女どもに取り付くお化けが可哀想だから、オレが追い払ってやるよ。オレって優しいな」
前言、撤回だ。こいつはくそ野郎だ。そんなこんなでオレはシリウス、ニーナと一緒に正門まで向かう事にした。
教室を出て校舎を歩いているとやはり、あの何とも言えない視線を感じる。そう、先ほどのトイレと同じ視線をだ…
いったい、この視線の主は誰なのだろうか。誰がオレ達を見ているのだろうか…
学園からの帰路中、常につきまとう視線に戸惑いながら、屋敷へと帰っていた。