第13話 学園からの帰り道
ようやく終わった。今日は入学式だったから、教科書の購入と担任の長話で済んだな。
教室から出て、廊下を見渡すと多くの新入生が帰宅の途についていた。オレも自宅に向かう為に歩を進めていたが、校門までの長い道のりを思って足取りが重い。
母親はオレを置いて、先に帰りやがったからな。他の学生と親しくなる為に護衛も校門で待機させてあるからオレ1人で帰るのか…
うん? あそこに見えるのはニーナかな?
「ニーナ? 一緒に学園の門まで、いきませんか?」
「リリア様もお帰りですか? もちろん、ご一緒させて頂きます」
ニーナはオレを見て可愛らしい顔に微笑みを浮かべた。この新しい小さな友人の前ではついつい頬が緩んでしまう。子供の笑顔は実に愛らしい。困ったものだ。
「今日は自己紹介だけで終わってしまったようなモノでしたね?」
「そうですね。わたしはその自己紹介で噛んじゃって…」
先程の自己紹介で話している途中に噛んでしまったことがよっぽど、恥ずかしかったのか、ニーナは俯いてしまった。
「気にしない。気にしない。それに噛んでいる姿も可愛かったわよ?」
「…リリア様の方が可愛いです。いえ、お奇麗です」
可愛いと言われてニーナは照れているのか。顔を見ると赤くなっている。こんな表情を見たら、目を奪われずにはおれない。可愛過ぎる。この子は将来、多くの男を虜にするかも知れないな。
本当にニーナはなんて罪な子なのだろうかとオレがそんなくだらないことを思っていたら、誰かの視線をまた感じた。誰だ? オレは視線を感じた方向を振り返るが誰もいない。
「リリア様、どうかしましたか?」
「いや、誰かに見られている気がして。気のせいね」
オレは久しぶりにたくさん歩いて疲れたのだろうか? 疲れで勘違いを起こしているのかもしれない。やはり、公爵の令嬢という身分で蝶よ花よと碌な運動もせずに育てられたから、疲れ易いのかも知れない。
「リリア様はお奇麗だから、誰かがつけていたりして」
ニーナはそう言って微笑むがそれを聞いたオレからすると気持ち悪いの一言しか浮かばないぞ。元男ですから…
「そんなことはないでしょう。どちらかといえば…」
オレから言わせると自己紹介で噛んだりするようなどこか抜けていて可愛らしいニーナの方が悪い大人に狙われ易いと思うが…
「やっぱり、誰かの視線を感じるわ。少し、あちらによって良いかしら?」
「もちろん、かまいません」
オレは行きに見つけた行き止りになっている場所にニーナを連れて向かうことにした。
「リリア様、どこまで、進みますか?」
「もう少しだけ、進みましょう」
もし、仮にニーナを襲うつもりの奴がつけてきていたら、行き止りに迷い込むオレ達は相手に取って好都合だろう。
きっと、隠している姿を現して襲ってくるに違いないとそんなことを考えていたら、後ろから急にデカい声が聞こえてきた。
「おい」
オレは声に反応して詠唱をしながら、振り返る。そして、声をかけてきた相手に水の魔術をぶちかました。
「ぐぁ、イテ!?」
オレの放った魔術は相手に直撃せずに外れてしまった。しかし、相手は水の魔術が擦ったのか多少はダメージがあるようだ。オレは相手を問いつめる為に口を動かすことにした。
「なぜ、あなたは私たちの後をついてきていたのですか?」
オレはそこで水に前髪が濡れているシリウスにそう質問をした。
「ち、違う。おまえらが迷っているようだったから声をかけただけだ」
「私たちにわざわざそのことを伝える為に?」
おかしいだろ。こいつはオレの事を嫌っていただろう。いったい、なにが目的だ?
「当然だろう。なんだ、その顔は。僕の親切心を疑うのか?」
「いいえ、ありがとうございます。お陰で、迷子になりませんでしたよ」
嫌見たらしく、オレはそうシリウスにそう吐き捨てるように言ってやった。
そんなことをシリウスと話していたがその間も誰かに見られているような気がする。気のせいではない。そう思って気配がした方を振り向くと、
「早く帰りなさい。下校の時間ですよ? こんなに遅くまでいると変質者に襲われてしまいますよ?」
いつの間にいたのだろうか。担任のケビンがいた。
「大丈夫です。先生、ちょうど今から帰る所ですから。では、さようなら」
「さようなら。気をつけて帰るんだぞ」
オレたちは担任に別れの挨拶をして、彼に見送られながら帰宅にした。