第12話 自己紹介とクラスメイトと担任
ずらりと並ぶ机と椅子。そして、最後に教室の前に設置してある大きな黒板。これが学園の教室か。座席の数からこの教室で学ぶ生徒は30人だろうか?
果たして、こんな多くの人が一緒に学ぶことができるものであろうか? オレに取ってはこんな大勢と一緒に学ぶことは未知数であるため、そんな疑問を持ってしまった。
オレがそんなことを考えていたら、視線を感じた。先ほどのやり取りを見ていたら、イヤでも注目するよな。そう思って、隣を見るとこちらをチラチラと覗いている可愛らしい女の子がいた。一生懸命にバレないように見てるつもりかもしれないが、バレバレである。
「どうも、はじめまして、リリアーヌ・フロイデンベルクです。これからよろしくね」
突然、オレが話しかけたせいだろうか、慌てたように小さな手をパタパタとさせて、こちらに返事をしようとしてきた。
「え、えっと…」
栗色の髪をセミロングにした小さな可愛らしい女の子。貴族には見えないな…
「慌てなくて良いわよ。自己紹介してくれないかしら?」
オレは茶目っ気でウインクをしながら、彼女にそう言った。
「あ、あのニーナ・ルストです。リリアーヌ様。はじめまして」
「リリアでいいわ。学友なのだから」
「いえ、貴族。それも高位の方をそのように呼ぶ訳には…」
「良いのよ。そんな細かい事は、同い年なのだから。リリアで結構よ」
「では、リリア様と呼ばせて頂きます」
「そう…」
オレ達と同じように教室では新たな学友を求めて子供達が自己紹介を交えて会話をしていた。
暫く、ニーナと会話をしていたら、急に教室の扉が開く。開いた扉から背が高い眼鏡をかけた黒髪の男が現れた。
「全員いるね。良し、すばらしい。えー、わたしが君たちの担任になるケビン・ガイドナーだ。ケビン先生と呼ぶように。では、よろしく」
そう言って、手をひらひらさせる。なんだよ。その行動は、本当に軽薄そうな奴だ。オレがそう思ってケビン先生を見ていると彼と目が合ってしまった。慌てて、目をそらそうとしたら、ケビン先生はオレを見て微笑んできた。
その微笑み方はオレにとって何ともいえない嫌らしいものに感じられた。
「えー、君たちは振り分け試験で上位の成績だったね。それは素晴らしいことだよ。だけどさ、まだまだ、君たちは駆け出しの魔術師だ。先生には及ばない」
そう言うケビンは短い詠唱を行い、教室全体に大きな炎の竜が舞う。こんなところで、そんな危険な魔術を使うなよ。こいつは何を考えているんだ!?
「だから、きちんと先生の言うことを守って魔術を行使してください。いいですね?」
「はーい」
クラス全員がいきなり見た大規模魔術にビビってとっさに返事をする。オレはこの光景を見て教師の意図に気がついた。学生が教師に魔術を安易に使わないように脅しておくためか…
しかし、オレは学生を威嚇するためだけにあんな大規模な魔術を使用したことに納得がいかなかった。確かにそのやり方は効果的かもしれないがやはりこんなに学生がいる場所で大規模魔術を唱えるのは不適当だと思うがな…
「いい返事だ。さてとこれから仲間になるクラスメイトを互いに知り合うために自己紹介をしてもらおうかな?」
学生が座席の順番で自己紹介をしていく。概ねの学生は名前、出身地、趣味などについて語っている。オレは普段から目立つ行動をしてジークにいちいち監視されることを恐れているので、基本的に目立たず、細々と学園活動を送っていきたいと考えている。皆に合わせて無難な自己紹介で終わろう。
そんなことを考えていると急に視線を感じてそちらに顔を向けてみると。
「シリウス・ハイレッディンだ。父はこの学園で学園長をしている。だから、お前らはよく考えて俺と付き合うようにしろよ?」
シリウスと名乗った少年がそう言いながらオレを睨んできた。入学式の件でオレを恨んでいるのかよ。そんな細かいことで恨まれるなんて、なんかこいつとは友達になれる気がしない。お、次はニーナの自己紹介か。
「ニーナ・ルストと言います。ガーベラ村出身です。よ、よろちく。…おねがいいたしますぅ」
ニーナの奴め。噛んでるよ。噛んでる。すごい可愛いな。そして、噛んだ後に照れてるよ。しかし、どうやら、その光景を見て頬を緩めているのはオレだけではないようだ。担任のケビン先生が身悶えしている。
確かにニーナはすごい可愛かった。だが、それでも大人が気持ち悪い顔でニヤニヤするのは問題あるだろう。こいつはいろんな意味でヤバい教師かもしれない。
そして、ついに、オレの自己紹介の番がきた。
「フロイデンベルク地方から来ました。リリアーヌ・フロイデンベルクです。以後よろしくお願い致します」
オレは目立たないようにかなり短めの自己紹介を行い、すぐに着席をした。
あれが噂に聞いたフロイデンベルク公爵の令嬢か。壇上で見るよりも可憐だ。まるで人形みたいね。そんな言葉がちらほらと聞こえてくる。
そんな声を聞いたオレは、先ほどの親父達とのやり取りでオレはすでに目立って効果は余りないかもしれないがと内心でため息をついた。
その後も特にこれといった問題もなく着々と自己紹介が進んでいった。ところが、自己紹介が終わる頃にまた鋭い視線がオレを見ているような気がしてきた。視線の先を見てみても誰もいない。
気のせいだろうか? オレは釈然としないまま、視線を自己紹介している学生に戻し、彼の話が終わるまで聞き続けた。